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自閉症スペクトラム障害者(ASD)は感覚過敏で新しい事に慣れない:自閉症の脳科学

・私は感覚敏感です。

・なかなか新しい環境に慣れるのに時間がかかります。

・自閉症スペクトラム障害はコミュニケーションの障害だけではない。

私たちは様な刺激に触れています。

それに伴って感覚も日々生じています

エアコンや車の音、テレビやスマホの光、布団やイスの柔らかさや硬さなど。

でも、私たちは普段は何も意識していなくてもすぐ慣れます

他人の家にお邪魔した時に、最初は自分の家の匂いとの違いが気になりますが、しだいに匂いの感覚はなくなります。

このように、「慣れ」というのは生きていくために必須です。

しかし、日々受ける感覚が少し違い、ちょっと慣れるのに時間がかかるのが、自閉症スペクトラム障害(ASD)の方々です。

自閉症スペクトラム障害とは、発達障害の一部です。

「発達障害」と聞くと、「コミュ障」などをイメージされるかもしれませんが、感覚過敏や慣れの問題も診断基準に記載されているほど重要なのです。

そこで今回は、自閉症の脳科学について彼らの感覚過敏と慣れの問題について知見をご紹介します。

本記事では以下のことが学べます。

1. 自閉症スペクトラム障害者には感覚過敏がある。

2. 自閉症スペクトラム障害者の脳活動が感覚過敏に伴って高くなる。

3. 自閉症スペクトラム障害者はなかなか慣れが生じない。

4. 自閉症スペクトラム障害者の脳活動も何度も刺激を受けても同じ活動量を示す。

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①自閉症スペクトラム障害者(ASD)は感覚過敏である。

自閉症スペクトラム障害者の中には、感覚過敏の方と感覚が普通の人より鈍い方がいます

例えば、真冬なのに半そでのような患者さんもいらっしゃいます。

しかし、感覚過敏の方が研究は進んでいます。

子供の自閉症スペクトラム障害者を対象にした感覚過敏の研究として、Gomot et al. (2008)が挙げられます。

彼らは、オッドボール課題という典型的な音の課題を自閉症スペクトラム障害の子供と健常児に行わせました。

具体的には、普通と違う音が出たときに反応するという課題です。

その時の脳活動の結果が以下のようになりました。

autism brain tone sensory sensitivity

図Aは、他とは違う音を感知した時の脳活動です。

一方、図Bは、健常児と比べた自閉症スペクトラム障害児の脳活動です。

すると、大体前頭葉当たりで赤くなっているのが分かります。

図の左側と真中の脳の図の右側の活動が見られます。

異なる音への反応速度も自閉症スペクトラム障害児の方が早かったことから、ASD児は、音に敏感だと言うのが分かります。

また、脳の音への敏感さと症状との関係性を調べたのが以下の図です。

autism brain frontal cortex and severity

縦軸は、前頭葉の活動量。

横軸が、自閉症の重症度を表しています。

この図より、自閉症の症状がひどくなるほど前頭葉の活動が上がっています

つまり、症状が重い子どもの方が音に良く反応して敏感なのが分かります。

自閉症スペクトラム障害児は感覚過敏であり、過敏であるほど症状が重いと言えます。

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自閉症スペクトラム障害の若者と視覚の鋭敏さ

先ほどは子供の研究でしたが、では小学校6年生の12歳くらいのの青年の世代だとどうか。

その研究をしたのが、Green et al. (2013)です。

彼らは、音ではなく奇妙な画像を使用して視覚の感覚過敏について調べました。

すると脳活動は以下のようになりました。

autism brain visual cortex sensory sensitivity

TDが健常児で、ASDが自閉症スペクトラム障害児の脳活動です。

下のASD>TDが重要な図です。

つまり、ASD児の方がTD児よりもより活動していた領域です。

すると、図より、少し見づらいですが、赤く点々がついているところがいくつかあることがわかります。

これらの領域は、いわゆる嫌な感情に関する偏桃体という領域と前頭葉、そして、視覚野の領域です。

つまり、嫌な画像を見せられると自閉症スペクトラム障害者は、健常児と比べてより脳が敏感に反応します

また、これらの領域と不安尺度との関係性を調べたのが以下の図です。

autism brain anxiety and severity

上の脳画像の図は、自閉症スペクトラム障害者の方がより活動した領域です。

下の図は、それらの領域の活動量と不安度が関係するかどうかを示しています。

すると、論文によれば統計的に有意に関係しているのが、amygdala(偏桃体)prefrontal cortex(前頭葉)primary visual cortex(視覚野)の三つの領域です。

つまり、自閉症スペクトラム障害児の脳の敏感さは不安とも関係していると言えます。

この後の話に繋がりますが、不安が強いと慣れにも問題が生じます。

不安感が強いお化け屋敷だとお化けが出ることがわかっていても敏感に反応してしまうのと同じです。

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若者の自閉症スペクトラム障害者と触覚の敏感さ

三つ目は、触覚の研究です。

Green et al. (2015)は、若者の自閉症スペクトラム障害者と健常者を比べて、ひっかきのような触覚に関する敏感さを調べました。

すると脳活動が以下のようになりました。

autism brain tactile sensory sensitivety

縦軸が各脳領域の活動量で、横軸が何試行目かを表します。

オレンジが、自閉症スペクトラム障害者で、黒が健常者です。

すると、とくに三試行目で活動が上がったり、真中の感覚野の領域で活動量が自閉症スペクトラム障害者の方が高いことがわかります。

この研究で重要なのが、左の図の偏桃体と真中の感覚野です。

両方で活動が上がっており、触覚に敏感に反応していることがわかります。

以上から、自閉症スペクトラム障害者は、感覚過敏があることが脳科学的にわかります

感覚過敏は、年齢に関係なく、子供から大人まで幅広く見られることもわかりました。

また、重要な知見としては、嫌な感情に関する偏桃体の領域の活動と前頭葉と各感覚野の三つの領域の活動が上がることです。

少し感覚が鋭い程度ならまだいいですが、感覚過敏は嫌な状態でもあり、感覚過敏の度合いが大きいほど重症度や不安度が高いこともわかりました。

自閉症スペクトラム障害者の生きづらさを顕著に表している知見だと言えます。

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②自閉症スペクトラム障害者(ASD)は新しいモノや環境に慣れるのが困難

感覚過敏についてご紹介しましたが、感覚過敏でより敏感に反応するのに、その感覚に慣れるのにまで時間がかかるということが複数の研究で示されています。

Kleinhans et al. (2009)は、顔写真を何度も見せて、顔写真に慣れる時の脳活動を自閉症スペクトラム障害者(成人)と健常者とで比較して研究しました。

すると脳活動として以下の領域の活動が見られました。

autism brain amygdala habituation

この図は、「二回目の脳活動-一回目の脳活動」の活動の差を示しています。

上が健常者の脳活動で、偏桃体の活動が見られます。

なお、青くなっているのは、二回目の脳活動の方が慣れて活動が下がっていることを示しています。

真中が自閉症スペクトラム障害者の脳活動です。

偏桃体の領域ですが、赤く光っているのが分かります。

つまり、二回目も一回目と同様かそれ以上に活動していることが示されています。

下が、健常者>自閉症スペクトラム障害者の結果です。

青くなっているのは、健常者よりも自閉症スペクトラム障害者の方が活動しているからです。

健常者の方が活動量が高ければ、赤くなるはずなので、その逆であることがわかります。

それをグラフで示したのが、以下の図です。

autism brain amygdala habituation

縦軸は右側の偏桃体の活動量

左が一回目の顔画像で右が二回目の顔画像です。

青が健常者、赤が自閉症スペクトラム障害者です。

すると、青の健常者は一回目と比べて二回目の活動量が慣れでかなり下がっています

しかし、自閉症スペクトラム障害者の場合、一回目と統計上変わらない活動量を二回目でも示しています

これは、慣れないからだと解釈できます。

そして、この慣れの度合いと自閉症の重症度との関係を示したのが以下の図です。

autism amygdala habituation severity

下の図の、縦軸が右側の偏桃体の慣れに関する度合いです。

横軸が、自閉症の症状の重さを示します。

すると図より、症状が重いほど慣れの度合いが下がっています

つまり、自閉症の症状が強いほどなかなか慣れるのに困難さを感じるのです。

この研究は、成人した大人の研究です。

実は、同様の結果は1歳~2歳くらいのよちよち歩きの時にも見られることが報告されています(Webb et al., 2010)。

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自閉症スペクトラム障害者は音にも慣れるのに時間がかかる。

先ほどは、顔画像のような社会的刺激でしたが、単純な音にも慣れるのに時間がかかることが幼児の段階から言われています。

それを示したのが、Guiraud et al. (2011)です。

彼らは幼児に脳波計を装着して音刺激に対する脳活動を調べて慣れの度合いを研究しました。

すると以下のような結果になりました。

autism EEG tone habituation

縦軸は、音に関する脳波の活動量です。

横軸は、何回目の刺激かを示しています。

例えば、ST2だと同じ刺激を二回目に受けた時を示します。

黒が健常児だと思われる幼児の脳活動、ねずみ色がASDだと思われる幼児の脳活動です。

すると、黒の健常児では刺激の回数ごとに慣れが生じて活動が弱くなっていきますが、ADS児では一回目と同じくらい活動が高く、なかなか慣れません

社会的刺激だけではなく、単純な音の刺激にもなかなか慣れないのが自閉症スペクトラム障害者なのです。

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悲しい表情を見た時も自閉症スペクトラム障害者はなかなかか慣れない。

最後は、表情を見せた時の慣れについてです。

要は、感情の慣れについてです。

それを調べたのが、Swartz et al. (2013)です。

彼らは、悲しみの表情の顔刺激を何度も見せて、自閉症スペクトラム障害者(若者)と健常者を比べて慣れの研究をしました。

すると脳活動は以下のようになりました。

autism brain emotion amygdala sad faces

図のAとBは、左脳と右脳の偏桃体の活動を示しています。

各偏桃体の活動量が、図CとDです。

縦軸が偏桃体の活動量。

横軸が、左側がASDで右側が健常者です。

緑が同じ表情を最初の方に見た時の活動で、青が後の方に見た時の活動です。

すると、緑の最初の方の活動は健常者もASDも変わりませんが、青の後半の活動が健常者では下がり、逆にASDでは上がっているのが分かります。

つまり、健常者は悲しみの感情に慣れているのに、自閉症スペクトラム障害者は慣れずにいます

このように、自閉症スペクトラム障害者は様々な感覚で慣れが生じません。

また、感情のような心的なものでも慣れが生じにくいのです。

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③まとめ

以上より、自閉症スペクトラム障害者の感覚過敏と慣れの問題について見てきました。

まとめると以下のようになります。

  • 自閉症スペクトラム障害者は視覚・聴覚・触覚など様々な感覚が過敏である。
  • 感覚過敏であるため、脳活動も健常者よりも高い。
  • 特に、偏桃体・前頭葉・各感覚野の領域の活動が上がる。
  • 感覚過敏の度合いは自閉症の重症度と関係する。
  • 感覚過敏の度合いは不安度とも関係する。
  • 自閉症スペクトラム障害者は、視覚・聴覚・感情など様々な感覚と機能で慣れが生じにくい。
  • 脳活動も、健常者と比べると複数回刺激を経験しても活動が下がらない。
  • 特に、偏桃体と各感覚野の活動が下がらない。
  • 慣れの生じにくさは、自閉症の重症度と関係する。

自閉症スペクトラム障害者の生きづらさは、コミュニケーションやこだわりだけではありません

このように、感覚過敏やなかなか慣れないという問題も生きづらさに繋がります

診断基準にも書かれていますが、自閉症スペクトラム障害者はもっと多くの症状で辛い思いをします。

今後もご紹介できればと思います。

ありがとうございました。

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参考文献

Gomot et al. (2008). Brain hyper-reactivity to auditory novel targets in children with high-functioning autism. Brain, 131, 2479-2488.

Green et al. (2013). Over-Reactivity Brain responses to Sensory Stimuli in Youth With Autism Spectrum Disorders RH: fMRI Response to Sensory Stimuli in ASD. J AM ACAD Child Adolesc Psychiatry, 52(11).

Green et al. (2015). Neurobiology of Sensory Overresponsivity in Youth With Autism Spectrum Disorders. JAMA Psychiatry, 72(8), 778-786.

Guiraud et al. (2011). Differential habituation to repeated sounds in infants at high risk for autism. NeuroReport.

Kleinhans et al. (2009). Reduced Neural Habituation in the Amygdala and Social Impairments in Autism Spectrum Disorders. American Journal Psychiatry, 166, 467-475.

Swartz et al. (2013). Amygdala Haituation and Prefrontal Functional Connectivity in Youth With Autism Spectrum Disorders. J AM ACAD Child Adolesc Psychiatry, 52(1), 84-93.

Webb et al. (2010). Toddler With Elevated Autism Symptoms Show Slowed Habituation to Faces. Child Neuropsychology, 16(3), 255-278.

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