「○○ちゃんはバカっぽい」
「△△君は、B型だから自己中そう」
「□□君は童貞っぽい」などなど。
人間は日々偏見を抱いたり、抱かれたりしています。
偏見は他人への理解を助けるどころか、偏見のせいで傷つくことが多いです。
偏見のせいで正しくその人を評価できなかったり、偏見から勘違いしながらお互い過ごしていたりすることもよくあります。
つまり、「偏見(prejudice)」は僕らの認知機能の悪魔なのです。
偏見は深刻な問題を引き起こします。
例えば、ヘイトスピーチなどは、近年よくニュースで取り上げられており、多くの人が悩まされています。
そのような偏見は一刻も早くなくしたいものです。
そのために、心理学者や神経科学者(脳科学者)は、偏見に関する研究を積み重ねており、偏見のメカニズムを解明しつつあります。
以前、「社会的な痛み(social pain)」の研究をご紹介しました。
具体的には、「神経科学(脳科学)により明らかになった仲間外れにされた人の心の痛み―社会的痛み(Social Pain)の研究序説」ですね。
この記事では、社会的な痛みの基礎的な部分をご紹介しましたが、この研究がどのように応用されているかまでは述べませんでした。
今回は、この社会的痛みの研究の応用例となる偏見の研究をご紹介します。
偏見を解消したい方必見です。
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①IAT(Implicit-Association Task)
昔から、偏見の研究で使われている実験手法のひとつが、このIATと呼ばれるものです。
このタスクには一致条件と不一致条件の二つの条件があります。
一致条件では、例えば日本人が実験参加者であるのなら、良い意味の単語と日本人がセットで出た場合、あるキーを押し、悪い単語と外国人が出た場合別のキーを押すという課題を行います。
他方、不一致条件では、悪い単語と日本人がセットの場合あるキーを押し、良い単語と外国人がセットの場合別のキーを押すという課題です。
つまり、自分の身内グループと身内以外のグループとで良い単語と悪い単語が割り振られたときに、それを瞬時に判断して正解のキーを押す課題です。
この課題の肝は、反応時間、つまり、どれくらい早く判断したか(反応速度)に注目することです。
一致条件の時の方が、不一致条件よりも、反応速度が早ければ、それだけ身内びいきをするという偏見行動が客観的に示されるという仕組みです。
この課題をした場合に、よくある反応が、上の図です。
Compatibleが一致条件でIncompatibleが不一致条件ですね。
上図では、一致条件の方が反応時間が速くなっています。
このように、自分が属するグループと良い単語が組み合わされている方が、悪い単語と組み合わされているよりも早く反応する。
このIATという課題はこれまで膨大な研究が行われていて、だいたいこのような反応が出ることが頑健に示されています。
これが、今の心理学でも脳科学でも行われている偏見の研究手法です。
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②偏見の脳活動
IATに少し変更を加えて、偏見に関するメカニズムを探った研究があります。
それが、Amodio et al.(2004)の研究です。
彼らは、プライミング課題を行い、差別に関する研究を行いました。
プライミングとは、心理学の定義では、「先行刺激が後続刺激に影響を与えること」とあります。
例えば、サブリミナル効果の研究なんかでよく使われている課題です。
サブリミナル効果の研究の場合、実験参加者にパソコンの画面を見てもらって、人間が知覚できない一瞬だけある絵を見せる。
そして、その後に課題を行ってもらうような実験です。
そして、その一瞬見せられた絵が何かによって課題成績が変わるというやつです。
つまり、先行刺激(絵)が後続の反応(課題成績)に影響を与えるのです。
それがプライミングという現象です。
Amodio et al(2004)の研究は、その絵の部分を黒人の顔写真か白人の顔写真かのどちらかが表示される条件を作り、その後で、銃か普通の道具かを判断する課題を行わせました。
すると、反応時間は、上図のようになりました。
白が銃で黒が普通の道具の反応速度です。
上図から、白人の写真の時は普通の道具と銃とで反応時間に違いはでませんが、黒人の写真の時は銃が出たときに普通の道具よりも反応時間が早かったのです。
つまり、銃と黒人の写真との組み合わせが自然だと判断されたのです。
偏見が、反応の早さとして現れたということ。
そのときの脳波を測定しており、脳活動にも違いがみられることが判明しました。
この研究は、偏見のメカニズムを解明する大きな一歩となったのです。
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③偏見の脳画像の研究
脳波だけでは、脳のどの部分が関係するのかがわからないので、fMRIという大きな機器を使った研究をご紹介します。
Masten et al.(2011)は、社会的痛み(social pain)を引き起こす、サイバーボール実験を黒人の実験参加者に行い、偏見を抱かれているときの脳活動を調べました。
なお、実験の直前に、実験参加者以外の人が白人であるということを伝えています。
サイバーボール課題は、キャッチボールをする課題ですが、自分もキャッチボールに参加させてもらえるコントロール条件と自分だけキャッチボールに入れてもらえず仲間外れにされる疎外条件の二つの条件があります。
疎外条件の時の脳活動から、黒人被験者が白人から差別を受けたかどうかを見たのです。
すると、実験参加者の偏見尺度と有意に関連する脳領域が発見されました。
その領域が、ACC(前帯状回)という領域で、社会的痛み(social pain)を抱いているときに活動する脳領域です。
他にも、不快な刺激を見せた時と同様の脳領域が活動したことから、実験参加者は、憤慨したり、社会的痛み(social pain)を抱いていることがわかりました。
つまり、差別や偏見を向けられた人は傷つくのです。
最後に、せっかくなので、IATを使用した神経科学的(脳科学的)研究をご紹介します(Liu et al, 2015)。
この研究では、IATを行った後に、実験参加者のグループの人間の顔と外国人の顔を見たときの脳活動を調べた実験です。
この顔には、普通の顔と憤慨しているときの顔との二つの表情条件があります。
結果としては、Masten et al.(2011)と同様に憤慨している顔を見た時に、扁桃体や島皮質など、嫌悪している時に活動する脳領域で有意な脳活動が見られました。
また、これらの脳活動は、IATでの反応速度と有意な関係性がみられることも報告されました。
憤慨している顔と偏見とが組み合わされた時に自然とみなされました。
つまり、偏見は嫌悪されるということですね。
本当はもう少し複雑な結果なのですが、ご興味のある方は、原著を読んでいただければと思います。
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④偏見をなくすために
偏見は、人命にも関わる深刻な問題です。
特に、Masten et al.(2011)の研究は示唆的で、差別や偏見を受けた本人は社会的痛み(social pain)を感じています。
本人は傷つくのです。
偏見のメカニズムの解明を科学的に行い、将来偏見をなくせるように、研究者は日々奮闘しています。
よく、「基礎研究が何に役立つのだ」という批判を受けますが、今回のように社会的痛み(social pain)という基礎的な研究があるからこそ、応用的な偏見の研究につながったのです。
社会問題解決のためにも、基礎研究の推進はなくてはならないのです。
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参考文献
Amodio et al.(2004). Neural Signals for the Detection of Unintentional Racial Bias. Psychological Science, 15, 88-93.
Liu et al. (2015). Neural Basis of Disgust Perception in Racial Prejudice. Human Brain Mapping.
Masten et al. (2011). An fMRI Investigation of Attributing Negative Social Treatment to Racial Discrimination. Journal of Cognitive Neuroscience, 23(5), 1042-1051.
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