街中で見かけるとつい目が離せなくなるのが、赤ちゃんです。
見ていてかわいいですし、親でもないのに幸せに育ってほしいなと思います。
そんな赤ちゃんは見た目によらず、言葉の達人と言われています。
一年したら、大人顔負けの学習力で言葉を話すようになります。
何より、言葉の発達は健康に育っていることの証拠です。
最近では、できるだけ頭の良い子に育てようと言語教育が流行っています。
そこで、疑問なのが、赤ちゃんはいつから言葉を理解しているのでしょうか?
テレビ、雑誌、新聞では、生まれてすぐとか、生まれる前からという噂でもちきりです。
何が正しいのか分からない状態。
なので、今回は、神経科学(脳科学)の知見を参考に、この疑問に答えたいと思います。
本記事では以下のことが学べます。
2. 赤ちゃんの言語脳の発達過程
3. 赤ちゃんの言語学習はいつから始まるのか
4. 生まれて間もない新生児は言葉を理解しているのか
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①生後2~3か月の赤ちゃんの脳は言葉に反応する
「言葉を理解する」というと少し意味範囲が広いので、本記事では、「イントネーションなどの言葉の性質の違いを理解する」という意味に捉えます。
赤ちゃんの言葉の研究は古くからあります。
しかし、脳科学的に言葉を理解すると言える状態になるのは、生後3か月弱であることがDehaene-Lambertz et al. (2002)によって明らかにされました。
この図は、大人が発する言葉とその他の音(おもちゃの音など)との脳活動の違いを示しています。
つまり、言葉に特異的な脳活動です。
すると、両方の側頭葉と呼ばれる領域が赤く活動しています。
この領域は、大人が言葉を理解するときにも活動する脳領域です。
この研究から、赤ちゃんでも同じ領域が活動することがわかりました。
さらに下図は、ある単語を大人が普通に発音した時と逆に発音した時とで生じる脳活動の違いを示しています。
大人が話す単語が、単語として成立しているかどうかで、この側頭葉の後ろ端辺りが活動します。
つまり、単語として成立しているかどうかは、生後3か月くらいの赤ちゃんでも判定できることを示唆しています。
もしかしたら、赤ちゃんは、生まれて3か月間に聞いた言葉を覚えていて、「この言葉は知っている」とか「この言葉は違う」とか判断しているのかもしれません。
言葉の意味まで理解しているとは言えませんが、言葉の分析をしているのかもしれません。
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②赤ちゃんの言語脳の発達過程
次は、赤ちゃんの言語脳の発達過程についてです。
Minagawa-Kawai et al. (2007)は、生後3か月~二年までの様々な年齢層を集めて、脳活動から言語脳の発達過程を調べました。
彼女らは「ママ」と「ママー」の言語的違いを利用しました。
一方の条件では、「ママ」をずっと聞かせてその脳活動を記録。
他方の条件では「ママー」をずっと聞かせてその脳活動を記録。
そして、「ママ」から「ママー」に変わった時の脳活動の記録も取りました。
「ママ」「ママー」だけを聞かせた時の脳活動(Within-Category)と「ママ」から「ママー」に変化した時の脳活動(Across-Category)との違いを示したのが、以下の図です。
このように、13か月(つまり一年ちょっと)目以降になると、側頭葉の活動に差が生じます。
6~7月目は少し例外ですが、10~11か月目までは、両者で差はありません。
この脳活動は、先ほどご紹介した側頭葉の領域です。
さらに、右脳か左脳かを示したのが下の図です。
この図は、値が高いほど左脳優位であることが示されています。
この図から、統計的に意味のある違いは、13か月以降だと分かります。
ちなみに、アスタリスクがついているのが差が生じたことを示しています。
この研究は、言葉の発達段階が示されています。
大人の言語脳は、基本的に左脳が優位に活動します。
なので、13か月目くらいになると大人と同様の脳活動を示すようになることが分かります。
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③赤ちゃんは、声のトーンを生後7か月目くらいから理解する
赤ちゃんは、生後7か月目くらいになると、嬉しい時や悲しい時などのように声のトーンの違いを理解します。
Grossmann et al. (2010)は、同じ単語を、怒っている時、嬉しい時、普通の時に発音するの三つの条件を設けました。
それらを聞かせて、赤ちゃんが声のトーンを理解しているのかを脳活動から調べました。
研究結果は、上の図の通りになります。
この図は、右脳の側頭葉の脳活動を示しています。
特に、17番をご覧ください。
怒っている時(angry, 赤の棒グラフ)の脳活動が、嬉しい時(happy, 青の棒グラフ)と普通の時(neutral, 緑の棒グラフ)と比べてより活発化していることが示されています。
正直、声のトーンというより声量や迫力なども関係している可能性もありますが、7か月目の赤ちゃんは怒っている時のトーンの違いは理解していそうです。
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④新生児の言葉の理解の研究
近年の研究で、生まれて数日の新生児でも言葉の違いを理解しているという報告があります。
Perani et al. (2011)は、子供向けのスピーチを聞かせて言語脳が発達しているかどうかを調べました。
すると、①と同様に、側頭葉の活動が見られました。
この研究から、生まれて数日でも言語を理解したり、言語を受け入れたりする態勢ができていることが示されています。
さらに、Partanen et al. (2013)は、言葉は生まれる前から学習していることを示唆する研究を行いました。
赤ちゃんがお腹の中にいるときに、ある単語を何度も聞かせます。
そして、生まれてすぐに、聞かせていた単語とそれとは少し異なる単語を聞かせて脳波の活動を記録しました。
この図では、単語を聞いていた群(Learning group)の脳波が傍線で、何も聞いてない群(Control group)の脳波が破線です。
単語を聞いていた群の方が、赤く活動しており、傍線も下にふれています(下に行くほど活動していることを示しています)。
つまり、生まれる前から聞いていた言葉と生まれた後で聞いた言葉との違いをちゃんと見分けられることが示されたのです。
言葉の学習が生まれる前から始まっている証拠です。
さらに、生まれる前には学んでいない音のパターンを判別することができることも示されています。
言葉の学習が生まれる前から、広く行われていることが示唆されます。
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⑤まとめ
以上より、赤ちゃんから新生児まで言葉の発達と学習について見てきました。
大体まとめると以下のようになります。
- 言葉の意味までは理解しているとは言えないが、言葉の物理的な性質くらいは生まれる前から理解している可能性が高い
- 「あの音とこの音は違うな」というくらいの判別能力
- 言葉の違いを判別できるくらいの学習能力はある
- 生後7か月ぐらいには限定的ですが声のトーンも理解している可能性がある
- 生後13か月くらいまでには、大人と同様の言語脳になる
今回は、赤ちゃんの言葉について見てきました。
特に、言葉の発達過程の研究は今後以下の二つの疑問につながります。
具体的にどのように言語を学んでいるのか?
そして、自閉症などの発達障害や言語障害を持つ赤ちゃんはどうなのか?
今後また取り上げたいと思います。
ありがとうございました。
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参考文献
Dehaene-Lambertz et al. (2002). Functional Neuroimaging of Speech Perception in Infants. Science, 298, 2013-2015.
Grossmann et al. (2010). The Developmental Origins of Voice Processing in the Human Brain. Neuron, 65, 852-858.
MInagawa-Kawai et al. (2007). Neural Attunement Process in Infants during the Acquisition of a Language-Specific Phonemic Contrast. Journal of Neuroscience, 27(2), 315-321.
Partanen et al. (2013). Learning-induced neural plasticity of speech processing before birth. PNAS, 110(37), 15145-15150.
Perani et al. (2011). Neural language networks at birth. PNAS, 108(38), 16056-16061.
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