心理学・脳科学/Psychology・Neuroscience 記事/Article

意思決定と自己コントロール:最善の決断と判断のための心理学

・なかなか自分を抑えられません。

・感情的になってしまいます。

・自己を抑えて最善の利益を選択できる方法を教えてください。

短期的な利益より、長期的な大きな利益の方を優先すべきなのは皆分かっています。

しかし、人間はそんなに自己を抑制する能力は強くありません。

行動経済学が示すように、人間は合理的に行動できる生物ではないからです。

(行動経済学については「行動経済学とは?ノーベル賞から見る行動経済学の基本とおすすめ本」こちらの記事に詳細を記述しています。合わせて読んでいいただければ幸いです)

人間は合理的ではなく感情などの非合理で動く「アニマル・スピリット」という言葉もあるくらいです。

では、そんな自己をコントロールして最善の意志決定をするにはどうしたらよいでしょうか?

今回はそんな悩みを解決する心理学的方法をご紹介します。

自己コントロールが鍵で、これが弱まる場面から探りを入れます。

本記事では以下のことが学べます。

1. 自己コントロール(抑制)が最善の意志決定の鍵

2. 自己コントロールが強い人と意志決定の関係性

3. 自覚と意志決定の満足度との関係性

4. 自己コントロールが阻害される要因

5. 疎外や仲間外れなどの社会的痛みと自己コントロールとの関係性

6. 自己コントロールを高める方法

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①自己コントロールは最善の意志決定に不可欠

自己コントロールとは何か?

それは、広い定義では、自分の衝動や感情などを抑制することを指します。

近視眼的な小さな利益よりも長期的な大きな利益を選ぶときにも、目の前の利益に飛びつくのを抑制して(我慢して)、長期的な利益にかじをきる。

他にも、ダイエットという目標のために、目の前のケーキを我慢するといったことなども含まれます。

このように、自己コントロールとは、自分を抑制する機能なのです。

では、この自己コントロールがどのように意志決定と関係するのかを見ていきます。

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合理的な経済的意志決定ができる人は自己コントロール能力に優れている。

初めは、自己コントロールが経済的意志決定を合理的に行うことに必要なことです。

それを示したのが、De Neys et al. (2011)です。

彼らはよく行動経済学で使用される「最後通牒ゲーム」を用いて経済的意志決定と自己コントロールとの関係性を調べました。

なお、「最後通牒ゲーム」の詳細は「行動経済学とは?ノーベル賞から見る行動経済学の基本とおすすめ本」こちらの記事で詳しく説明しておりますので、あわせて読んでいただけると幸いです。

簡単に説明すると、まず相手と自分がいて、相手が10$実験者からもらいます。

その10$の内いくらを自分に分けてもらえるかを示します。

例えば、5$とか2$とかです。

その時、自分には、その呈示された金額を受け取るか拒否するかを選択できます。

受け取ることを選択した時は、その金額のお金がもらえます。

しかし、拒否すれば、相手も自分もお金はもらえません。0$です。

重要なのは、自分の側は、どの金額を提示されても受け取ることを選択する方が得をすることです。

しかし、行動経済学ではそのような合理的な行動を取る人はなかなかいません。

皆、3$くらいから拒否する割合が高くなります。

その特性を生かして、De Neys et al. (2011)は、最後通牒ゲームを通して獲得金額の多い実験参加者と獲得金額が少ない実験参加者を集めて、自己コントロールの課題を課しました。

この課題はGo-No Go課題と呼ばれるものです。

Goの時は反応して、No Goの時は反応を止めるという単純な課題です。

つまり、No Goのときにいかに反応を抑制するかという自己コントロールが問われます。

その時の、実験参加者とGo-No Go課題の成績を示したのが以下図です。

self-control Go No Go task

縦軸が正確に反応できた割合。

横軸の左側がGoの時で、右側がNo Goの時です。

黒が、経済的意志決定課題で獲得金額の多かった実験者。

白が、経済的意志決定課題で獲得金額が少なかった実験者です。

図より、No Goという自己コントロールが必要な場合に、獲得金額の多かった人の方が少なかった人よりも正確に反応できていることがわかります。

つまり、合理的な意志決定ができる方は、自己抑制(自己コントロール)力が高いのです。

これは、脳活動レベルでも表されています。

EEG Go No Go task self control

縦軸は、脳活動の強さ。

黒線が、経済的意志決定課題で獲得金額の多かった実験者。

点線が、経済的意志決定課題で獲得金額が少なかった実験者です。

N2の矢印が付いているところをご覧ください。

獲得金額が多かった人の方が、少なかった人よりも、活動が低いです。

この脳活動は、No Goのシグナルが出ている時の活動です。

つまり、ストップしないといけない場面で、より脳を使わないといけないのが獲得金額の少なかった人です。

脳活動から、合理的に経済的意志決定のできる方は自己コントロールをやすやすとできるのです。

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自己コントロールの高低は、近視眼的ではなく長期的な経済的利益を優先する行動に繋がる。

合理的な意志決定ができる方は自己コントロール力が高いことが示されました。

では、逆に、自己コントロール力が高いことは経済的に合理的な選択と関係するのか?

これに答えたのが、Guan & He (2018)です。

彼らは質問紙を用いて自己コントロールの高低を測り、最初に、ストループ課題という自己コントロールを使う課題をさせました。

ストループ課題とは、例えば、赤色で青と書かれた文字を見せられたときに、色の名前を正しく言えるかどうかという課題です。

色と文字が異なる時に、文字の意味を抑制する自己コントロール力が試されます。

その時の実験参加者の反応が以下のようになりました。

self control subjective evaluation

縦軸が、実験者が主観的にそう思った度合いが高いことを示します。

横軸が、条件です。

HHが、自己コントロール力が高く、ストループ課題が難しい場合。

HLが、自己コントロール力が高く、ストループ課題が易しい場合。

LHが、自己コントロール力が低く、ストループ課題が難しい場合。

LLが、自己コントロール力が低く、ストループ課題が易しい場合です。

すると、自己コントロールの高低で差があったのが、Fatigue(疲労)とDepletion(疎外感、自分が空っぽになる感じ)です。

自己コントロール力が強い人ほど、疲れず、疎外感も低いです。

また、自己コントロール力が低いと、疲労を感じやすく、疎外感も強いです。

他方、これら四グループに、経済的意志決定課題も行いました。

この課題では、「今もらう100円か30日後にもらう150円か」という近視眼的な小さな利益か、長期的な大きな利益かを選択します。

その結果が以下の図です。

self -control depletion immediate choice

縦軸は、近視眼的で小さな利益を選択した割合です。

横軸は、左が難しいストループ課題をした方で、右が易しいストループ課題をした方です。

実線が、自己コントロール力が高い群。

点線が、自己コントロール力が低い群です。

すると、図よりいくつかのことがわかります。

  1. 自己コントロール力が高い人は、ストループ課題の難易度に関わらず、長期的な大きな利益を選択すること。
  2. 自己コントロール力が低い人は、ストループ課題が難しいと、疎外感を感じ、経済的意志決定でも近視眼的になりやすい。
  3. 自己コントロール力が低い人は、ストループ課題が易しくても、自己コントロール力が高い人よりも、近視眼的な選択をしやすい。

この三つのことがわかります。

つまり、自己コントロールは、経済的意志決定において、合理的な得する選択をしやすくするのです。

ちなみに、余談ですが、自己コントロールに似ている概念で自己意識があります。

自分の行動や意志決定に自覚的であることです。

この自己意識の高い人は、自分の意志決定に意味や意義を見出しやすいという結果が出ています(Dishon et al., 2018)。

自己コントロールでは、まだ研究されていませんが、自己意識が高いと自己コントロールも高い可能性がありますので、意志決定の有意義性という点からも、もしかしたら、自己コントロールは関係しているかもしれません。

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②自己コントロールを阻害する要因

自己コントロールが合理的な経済的意志決定に重要であることがわかりました。

では、逆に、自己コントロールを阻害する要因とは何でしょうか?

これがわかれば、自己コントロールを下げる要因から離れて、最善の決定や判断が下せる方法が見つかりそうです。

自己疎外が自己コントロールを喪失させる。

自己疎外とは何か?

議論はありますが、自分を見失う感覚に近いです。

自分が空っぽになった感じです。

先ほどのDepletionと同様の意味です。

この自己疎外を受けると自己コントロール力が下がるのです。

Baumeister et al. (1998)は、自己疎外の現象と自己コントロールの関係性を調べました。

彼らは複数の実験を行っています。

まずは、チョコレートを使った実験です。

一つ目の条件は、実験参加者に、チョコレートを見せます。

実験者が外に出ている間に、好きなだけ食べていいと言われます。

二つ目の条件は、ハツカダイコンのみ置かれて、実験者が底に出ている間に好きなだけ食べていいと言われます。

三つ目の条件は、食べ物なしのコントロール条件です。

その後に、解けないパズルを解いてもらいます。

どのくらいの時間、解けないパズルを解くかを測定することで自己コントロール力を測っています。

結果は以下のようになりました。

self control depletion

この図は、各条件で何分間解けないパズルを解いていたのかを示した図です。

Radishがハツカダイコンを置かれた条件。

Chocolateがチョコレートを置かれた条件。

No food controlが食べ物無しのコントロール条件です。

すると、コントロール条件と比べて、食べ物ありの条件の方が、解けないパズルを解く時間が短くなっています

とくに、ハツカダイコン条件では、それが顕著です。

すぐに音を上げます。

つまり、食べ物によって自己コントロールが弱まったのです。

他にも、ユーモラスな映画を見ている時に、感情を抑える群(Suppress)とそのまま見る群(No regulation)とに分けて、6分間実験者が外に出ている間に、アナグラム課題をさせる研究もあります。

その結果が下図です。

self-control puzzle

難問解けたかを表しています。

見てみると、無理やり感情を自己抑制させた群ではアナグラム課題の回答数が少ないです。

このように、自己を疲れさせたり、自己に関わる課題をさせると、その後の自己コントロールや認知機能の成績に影響を与えます

研究の中には、意志決定をし続けると、意志決定をしない場合と比べて、自己コントロールの我慢・モチベーション・やり切る力を減少させる研究結果もあります(Vohs et al., 2008)。

自己に関わる課題や自分が精神的に疲れる課題は、連続するのではなく、一旦休憩や時間を空けて行う方が賢明な決断や判断ができるようになります。

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仲間外れや疎外・孤独などの社会的痛みが自己ことロールを失わせる。

最後に、自己コントロールを大きく失わせる要因として、仲間外れ村八分が挙げられます。

ちなみに、仲間外れや疎外などの社会的痛みに関しては、「神経科学(脳科学)により明らかになった仲間外れにされた人の心の痛み―社会的痛み(Social Pain)の研究序説」こちらの記事で詳しく解説しています。

合わせて読んでいただけると幸いです。

Baumeister et al. (2005)は、複数の研究を通してこのことを示しました。

代表的な研究を挙げると、まず性格検査を行います。

その後、性格検査のフィードバックを受けます。

このフィードバックによって三つの条件に分かれます。

一つ目が、将来一人ぼっちになる条件で、「このままだと、あなたは友達が少なく、結婚も長続きしません。一人ぼっちになるという研究結果もあります。」とフィードバックを受けます。

二つ目が、将来不幸コントロール条件で、「このままだと、将来的に事故にあいます。事故が多い人生でしょう。」とフィードバックを受けます。

三つ目が、将来関係性条件で、「このままだと、将来的に友人に囲まれて長く続く結婚生活が待っています。」というフィードバックを受けます。

この三つの条件を設けて様々な課題をさせました。

その結果が、下図です。

ego depletion self control

この図は、三つの実験をまとめた図です。

代表的な実験1(Experiment 1)の欄をご覧ください。

これは、フィードバックを受けた後にまずい飲み物を飲まされ実験です。

どれくらい飲めたかによって自己コントロール力を測っています。

すると、将来一人ぼっち条件(Alone/rejected)では、将来関係性条件(Belong/accepted)と将来不幸コントロール(Misfortune)に比べて飲んだ量が少ないです。

つまり、他人から迫害されたり村八分にされると、自己コントロール力が失われます

なので、孤独は自己コントロールが欠如しやすく、最善の決定や判断ができないかもしれません。

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③低下する自己コントロール力を上げる方法

最後に、Baumeister et al. (2005)の研究の続きから、仲間外れや疎外などで低下した自己コントロールを補う方法を探ります。

キーワードはずばり、報酬自己意識を高めることです。

彼らは、フィードバックを与えた後に、注意課題を行いました。

この課題では、ヘッドフォンをして、右耳には政治的話題が話されている男性の声が、左耳には連続して単語を読み上げる女性の声が聞こえてきます。

実験参加者は、右耳の声を無視して、左耳に聞こえてくる単語に「m」か「p」が入った単語を書き留める集中課題をします。

これが、基本となる課題です。

まず、基本となる課題の結果を見てみます。

ego depletion self-control enhance

図の一番上のExperiment 4がそれにあたります。

すると、将来一人ぼっち条件の方が他の条件に比べて、単語数が少ないことがわかります。

これは先ほどと同様の結果です。

ここで、彼らは、二つのことをしてみました。

一つは、実験者にこう伝えます。

「62%正答したら、さらに5$。82%正当したら、さらに10$。100%正答したら、さらに20$差し上げます」と。

すると、成績が上がりました。

ego depletion self-control enhance

この図のExperiment 5: cash incentiveをご覧ください。

将来一人ぼっち条件の成績が上がって、他の条件と同じくらいになりました。

もう一つは、実験を工夫します。

鏡を置いて、自分が見えるようにし、自己を意識させたのです。

すると成績が上がりました。

ego depletion self-control enhance

この図の一番下のExperiment 6: mirrorの欄をご覧ください。

将来一人ぼっち条件の成績が上がり、他の条件と比べても遜色ありません。

以上のように、低下した自己コントロールは、報酬か自己意識を高めることでカバーできます

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④まとめ

以上より、自己コントロールと意志決定の関係性を見てきました。

まとめると以下のようになります。

  • 合理的な経済的意志決定ができる人は、自己コントロール能力が高い。
  • 自己コントロール能力が高い人は合理的な経済的意志決定ができ、近視眼的にならず、長期的な大きな利益を得られるようになる。
  • 自己意識が高い人は自分の選択や意志決定に意味を見出す。
  • 自己を疲れさせたり、自己に関わる精神的に疲れる課題をすると自己コントロール力が下がる。
  • 意志決定の連続によっても自己コントロール力は下がる。
  • 仲間外れや疎外などを経験すると自己コントロール能力が下がる。
  • 下がった自己コントロール能力を上げるには、報酬と自己意識を高めること。
  • 自己コントロール力を回復させるために、休憩をいれたり時間を置いたりすることも大事。

ビジネスでも経済でも合理的で正確な意志決定が必要です。

この決断や判断によって、会社や国の命運が決まります。

自己コントロール力が高い人でないと、意志決定もちゃんとできなくなります。

自己コントロール力を下げる要因を避けて、将来的に有益となる意志決定をしたいものです。

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参考文献

De Neys et al. (2011). Cognitive Control and Individual Differences in Economic Ultimatum Decision-Making. Plos One, 6(11), e27107.

Baumeister et al. (1998). Ego Depletion: Is the Active Self a Limited Resource ? Journal of Personality and Social Psychology, 74(5), 1252-1265.

Baumeister et al.(2005). Social Exclusion Impairs Self-Regulation. Journal of Personality and Social Psychology, 88(4), 589-604.

Dishon et al. (2018). Trait self-awareness predicts perceptions of choice meaningfulness in a decision-making task. BMC Res Notes 75(11)

Guan & He (2018). The effect of state self-control on the intertemporal decisions made by individuals with high and low trait self-control. Plos One, 13(4), e0195333.

Vohs et al. (2008). Making Choices Impairs Subsequent Self-Control: A Limited-Resource Account of Decision Making, Self-Regulation, and Active Initiative. Journal of Personality and Social Psychology, 94(5), 883-898.

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