・なぜフィードバックがやる気を上げるのか?
・フィードバックが作用するメカニズムを知りたい!
会社が学校で成績を上げるためにフィードバックがよく使用されています。
フィードバックには種類があり、代表的なのが、ポジティブなフィードバックとネガティブなフィードバックです。
ポジティブなフィードバックは、正解であることを伝えたり、勇気づける言葉を伝えたりするフィードバックです。
一方、ネガティブなフィードバックは、不正解であることを伝えたり、誤った部分を指摘するフィードバックです。
では、これらのフィードバックは、本人の成績だけではなく、やる気まで上げるのでしょうか?
いろんなビジネス書や教育書の類では、フィードバックはやる気にも効果的だと主張しています。
経験レベルでもそう思えますが、実際はどうなのでしょうか?
今回は、フィードバックのやる気への効果とメカニズムについて心理学と経営学を頼りに紹介します。
本記事では以下のことが学べます。
1. フィードバックは本当にやる気まで上げるのか?
2. フィードバックの与え方によって効果が変わるか?
3. フィードバックがなぜやる気に影響するのか?
4. フィードバックが人に作用するメカニズムとは何か?
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①ポジティブなフィードバックは個人の意思決定に影響する。
長年心理学では、フィードバックが記憶や学習に効果的であることが示されてきています。
しかし、ことやる気(モチベーション)に関すると、途端に研究が少なくなります。
これは、フィードバックはやる気にあまり影響しないことを示しているのでしょうか?
この憶測に対して、経営学がフィードバックは人間の意志決定に作用することを示しています。
Barr & Conlon (1994)は、三人一組のチームを組んで、それぞれ自分に与えられた仕事の役目をこなし、チームで成績を上げるゲームを実験参加者にさせました。
各フェーズの終わりに成績がフィードバックされ、グループ単位での成績のフィードバック、個人単位での成績のフィードバック、他のメンバーがどんなフィードバックを受けたのかをそれぞれ知ることができるようになっています。
なお、ある程度ゲームをした後、ジョブローテーションで役割を変えるかどうかの意志決定をそれぞれさせています。
グループ・個人・他のメンバーが受けたものの三種類のフィードバックがどのように個人の意思決定に作用するのかを調べています。
ジョブローテーションを維持するかどうかがフィードバックによって変化するかどうかを見たのが以下の図です。
縦軸は、ジョブローテーションを維持する意志の強さ。
横軸は、グループ単位でのフィードバックがポジティブ(+)かネガティブ(-)かを示します。
+ Individualは、個人単位で本人が得たフィードバックの種類を示します。
-++ distributionは、自分を含めた三人のメンバー全員が受けたフィードバックの種類を示します。
つまり、+ Individual, -++ distributionは、自分はポジティブなフィードバックを受けて、メンバーの一人がポジティブ、残りの一人がネガティブなフィードバックをそれぞれ受けたという条件が示されています。
図より、最も重要なのが、一番上の+ Individual, -++ distributionの場合のみです。
この条件では、グループ単位のフィードバックがネガティブな場合は他の条件と意志決定に差はありませんが、グループのフィードバックがポジティブな場合、ジョブローテーションを維持しようとする意志が強いことが分かります。
これは、グループ単位と個人単位のフィードバックがポジティブで、なおかつ他のメンバーと比べて自分のフィードバックが多数派であり、ポジティブな場合でのみ生じます。
三つ~四つぐらい条件がそろってようやくフィードバックが意志決定に作用しそうです。
なお、他の分析では、自分のフィードバックがネガティブでも、他のメンバーを加味して自分が多数派であれば、グループ全体でポジティブなフィードバックを得た場合、ジョブローテーションが維持されやすいことが示されています。
いろんな好条件が重ならないといけませんが、フィードバックが意志決定に影響しそうです。
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②パフォーマンスのフィードバックがやる気を上げるのは、仕事の曖昧さがなくなるとき!
先ほどの研究では、フィードバックが人間の意志決定に作用しうることがわかりました。
では、具体的に、成績や仕事のパフォーマンスに対するフィードバックが有効なのはなぜでしょうか?
それを示したのが、Kaymaz (2011)です。
Kaymaz (2011)は、質問紙とインタビューで企業のマネージャー層を調査しました。
パフォーマンスに対するフィードバックの体制などを加味して分析した結果が以下の図です。
この図は、左のパフォーマンスに対するフィードバックがKaymaz (2011)が想定した五つの要因のどの要因が作用してモチベーションに繋がるかを示した図です。
- Decrease performance ambiguityは、具体的にどのようなレベルのパフォーマンスが必要なのか、あるいはパフォーマンスがどのくらい足りないのかを明確にすることです。
- Development of manager-subordinate relationshipは、フィードバックによってマネージャーと部下の関係性が良くなることです。
- Facilitating achievement of goalは、フィードバックによって目標達成に向けて後押しすることです。
- Personal developmentは、フィードバックによって個人の成長が促されるということです。
- Adaptation to changeは、フィードバックによって柔軟に対応することです。
結果としてこれら五つの内、モチベーションに繋がったのは、一番上のどのくらいパフォーマンスが足りないのかを明確にすることのみでした。
他の四つの要因はモチベーション向上につながりません。
なので、仕事上でフィードバックをするときは、どんなレベルのパフォーマンスが必要なのかを明確に伝えることです。
単に「これではダメだ。もっと改善しろ!」ではなく、「今は○○の状態だけど、△△の状態までもっていってほしい」と言えば、やる気upにつながるかもしれません。
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③まとめ
以上より、フィードバックとやる気との関係性について見てきました。
まとめると以下のようになります。
- ポジティブなフィードバックがいくつも重なることで意思決定に作用する。
- パフォーマンスに対するフィードバックでやる気が上がるのは、どのようなパフォーマンスが必要なのかをあいまいにせず明確にすること。
結局、ポジティブであれ、ネガティブであれ、フィードバックはモチベーションを上げるのでしょうか?
今のところ答えは「否」です。
ただし、学習や記憶などのパフォーマンス向上にはプラスに働くことが知られています。
これらの研究をきっかけにフィードバックとやる気との関係性の研究が進むかもしれません。
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参考文献
Barr & Conlon (1994). EFFECTS OF DISTRIBUTION OF FEEDBACK IN WORK GROUPS. Academy of Management Journal, 37(3), 641-655.
Kaymaz (2011). Performance Feedback: Individual Based Reflections and the Effect on Motivation. Business and Economic Research Journal, 2(4), 115-134.
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