・周りがうるさいと集中できないタイプの大人です。
・どのような対策をすれば集中力が続くのか?
仕事でも勉強でも集中力が続くかどうかは成績に大きく影響します。
時間を忘れるほど没頭できる集中力の持ち主を筆者もうらやましく思います。
周りの音をものともしない天才が出てくる映画や漫画の主人公に憧れますよね。
集中力が続かず、仕事や勉強が進まずに悩まれる方も多いはずです。
では、なぜ集中力が切れるのでしょうか?
今回はそんな集中力が続かなくなる脳のメカニズムを実際の研究をもとに紹介します。
本記事では以下のことが学べます。
2. 集中力が続く人の特徴
3. 集中力が続かない人の脳のメカニズム
4. 集中力を高めるための工夫
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①集中力が続かないのは、脳の奥の方が影響している。
集中力という言葉は心理学や脳科学ではあまり使いません。
どちらかというと、attention(注意)という名で研究が行われています。
集中力が続いている状態と続いていない状態をどう調べるかも難しいですが、よく使われる指標が課題の反応速度の速さの違いです。
反応速度が速いと課題に集中できている状態ですし、逆に遅い場合は課題への反応が鈍っている状態なので集中できていないと解釈できます。
集中力の脳のメカニズムを調べたのが、Rajan et al. (2019)です。
彼らは、以下の図のような研究課題を実験参加者に行いました。
この課題は単純で、最初に音声によって、①「左側か右側か」②「赤色か緑いろか」③「何も手掛かりなし」かのどれかを言い渡されます。
例えば、図に沿うと、最初に①「左側」だと言われたら、後に提示される二つの刺激の左側について反応します。
①の場合は図形が縦長か横長かを答える課題です。
なので、先ほど「左側」と最初に言われたので、緑の四角を見つけて、縦長か横長かを答えます。
②の場合は図形が右側か左側かを答えます。
なので、最初に「赤色」と言われたら、赤色の四角がある側を答えます。
Noneは手掛かりが全くないコントロール条件です。
このように、最初に手掛かりが与えられて、その手掛かりの方向と色に注意が向けられて、何も手掛かりがないコントロール条件よりかは集中できる状態になります。
つまり、手掛かりがある条件とコントロール条件では、手掛かりがある方が反応も早くなるのです。
この効果を利用して、集中力が続いている状態とそうでない状態を比べます。
この場合の集中力が続いている状態は「反応速度が速かった試行」を意味し、「反応速度が遅かった試行」と比べています。
その脳活動を調べた結果が以下の図です。
この図の、図Aは集中力が続かない場合に関係する領域を黄色で示しています。
この領域は、後帯状回(PPC)と呼ばれる領域です。
後ほど登場しますが、前帯状回(ACC)という領域は集中力がそがれる状態を我慢したり、葛藤状態などで活動する領域です。
この前帯状回の後ろ側の領域が、後帯状回(PCC)と呼ばれます。
図Bは、反応速度が速かった試行と遅かった試行で後帯状回の脳活動の違いを示しています。
縦軸が脳活動の低さを示しており、下に行けば行くほど活動量が下がります。
オレンジが反応速度が速かった試行で、青が反応速度が遅かった試行です。
この図で明らかですが、反応速度が遅い方が活動量が高くなっており、後帯状回は集中力が続かないと活動が上がる領域だと言えそうです。
つまり、集中力が続かない人は、後帯状回が活動して悪さをし、反応速度も遅くなると解釈できます。
ちなみに、脳のキャパの大きさと後帯状回の活動との関係性も調べられています。
それが以下の図です。
の図は、脳のキャパを示すワーキングメモリ(短期記憶の)容量(WMC)と後帯状回との関係性を示しています。
縦軸が後帯状回の活動量で、横軸が脳のキャパの大きさです。
すると、脳のキャパ大きいほど、後帯状回の活動は下がっています。
なので、脳のキャパが大きい人は集中力を邪魔する後帯状回の活動が低いので、集中力が続く傾向があると言えます。
次に、では、この後帯状回を抑えるにはどうしたらよいのか?
それも同じように研究されています。
それを示したのが以下の図です。
この図では、PCC(後帯状回)とdACC(前帯状回)の二つの脳領域が出てきます。
図Eのように前帯状回(dACC)が後帯状回(PCC)を抑える働きをしていることが示唆されています。
特に、図Dのように、脳のキャパが大きい人ほど前帯状回から後帯状回への抑制力が強いことが示されています。
ちなみに、図Eの左側が脳のキャパが小さい人の場合で、右側が脳のキャパが大きい人の場合です。
→の大きさが抑制力の強さを示します。
脳のキャパが小さい人は、集中力を邪魔する脳領域(PCC)への抑制力が低いため、集中力が持続しません。
一方、脳のキャパが大きい人は、集中力を邪魔する脳領域への抑制力が高く、集中力が持続しやすいです。
先ほどお話しましたが、前帯状回(dACC)は注意がそがれる状態を我慢する領域です。
ここの強さが集中力と関係するかもしれません。
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②集中力が続くかどうかは前頭葉も大事。
先ほどの研究から、脳の奥の方である後帯状回と前帯状回が集中力を続けさせるのに重要だとお話しました。
他方、前頭葉も集中力が続くことと関係しています。
特に、周りがうるさかったり、ノイズのような刺激があったりする場合に、集中力を途切れさせないようにするのが前頭葉です。
それを調べたのが、Bartsch wt al. (2021)です。
彼らは以下のような研究課題を実験参加者に行いました。
図bが今回の課題です。
左側の半円の色を判定させる課題です。
あらかじめ決められた色(図の場合だと「赤か緑」)かどうかを答える課題になっています。
右側の円の色はノイズで、無視すべき刺激です。
条件は三つあり、左側のあらかじめ決められた色と無視するべき色が同じ色の条件(PC)、真ん中の無視するべき色と異なる条件(DC)、そして、右側のあらかじめ決められた色ではない比較条件です。
下の図dが反応速度を表します。
図dの左側のcolor taskの欄が重要です。
縦軸が反応速度を示しており、下に行くほど反応が速いことを示します。
左側の黒色が同じ色のPC条件で、真ん中のねずみ色が無視するべき色と異なる色のDC条件、右側のオレンジが比較条件です。
すると、ノイズと色が一緒のPC条件では、ノイズと異なるDC条件よりも反応速度が速いという結果でした。
つまり、ノイズと同じ色であれば、わざわざノイズと分けて処理をしなくてもよいので、わざわざノイズと異なる処理をしないといけない条件よりかは早く反応できます。
この時の脳活動を調べてたのが以下の図です。
縦軸は脳活動量で、横軸が時間軸(ミリ秒 ※1秒は1000ミリ秒)になっています。
一秒の10分の1のスケールなので、非常に早い脳活動の活動推移を示しています。
右側の各領域と折れ線の色が対応しています。
黄色が前頭葉の活動で、緑が後頭葉と側頭葉の間の活動で、青と赤が後頭葉の活動です。
大切なのが、黄色の前頭葉と緑の後頭葉と側頭葉の間の領域の活動です。
非常に早い段階から活動量が上がっているのがわかります。
この二つの領域の活動は、反応速度が速い試行と遅い試行とを比べて速い試行で重要とされている活動です。
特に、ノイズを無視したり、ノイズに邪魔されることを抑制したりする前頭葉がこれほど早い段階から活動して、ノイズに惑わされないようにしていると解釈できます。
前頭葉は脳のキャパの大きさとも関係しますので、先ほどの研究とも整合性があります。
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③まとめ
以上より、集中力が続かない人の脳科学についてみてきました。
まとめると以下のようになります。
- 心理学や脳科学では、集中力は注意力ととらえられている。
- 集中力を阻害する脳の領域として、後帯状回があげられる。
- 後帯状回を抑制するのが、前帯状回という領域である。
- 脳のキャパが大きい人ほど、後帯状回の活動も低く、前帯状回から後帯状回への抑制力も強い。
- 集中力が続く人は、かなり早い段階で前頭葉が働いて、集中力を阻害するノイズをキャンセルしてくれている。
少し難しいお話だったかもしれませんが、総じていえば、ノイズに惑わされないようにすることが集中力が続くためには必要だということです。
ノイズに惑わされないためにも、脳のキャパを大きくするのも一つの手です。
脳のキャパは、慣れや訓練で大きくすることができます。
一つの仕事でも、初めての時はそれだけでいっぱいいっぱいでしたが、数か月もすると考えずにできるようになります。
このように、訓練や慣れによって脳のキャパの使う部分を小さくすることでも集中力は上がります。
脳を使う知的作業なんかもいいのかもしれません。
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参考文献
Bartsch et al. (2021). Attention expedites target selection by prioritizing the neural processing of distractor features. COMMUNICATIONS BIOLOGY, 4:814.
Rajan et al. (2019). Neural mechanisms of internal distraction suppression in visual attention.Cortex, 117, 77-88.
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