・格差問題を解消する施策があいまいすぎる。
・結局、格差是正なんて夢なのだろうか?
世界には貧しい人も裕福な人もいる。
つまり、貧乏とお金持ちが共存する格差社会。
様々な人が格差問題是正の施策を提案しているが、どうも根拠があやしい。
単に、税の問題とか、配分が上手く機能していないとか、はたまた賃金体系に問題があるとか・・・。
確かにこれらの施策を行えば、格差を是正できるかもしれない。
しかし、なぜその施策が格差を減らせるのか、その根拠となるデータがない歯がゆさを私は感じます。
本当に格差があり、どのように格差が捉えられ、格差是正のために何をすべきなのか、明確に示されている主張はほぼありません。
しかし、そのような状況を打破する書籍が現れました。
それが、トマ・ピケティの『21世紀の資本』です。
『21世紀の資本』は、ピケティが足を使って集めた過去数世紀にも渡るデータを使い、格差問題を明確に数字で捉え、そこから導き出される格差是正のための具体的施策をまとめたものです。
本記事では、トマ・ピケティ『21世紀の資本』の概要と核心を述べます。
本記事では以下のことが学べます。
2. 格差問題を数字で理解
3. 特に富裕層の資本独占状態の把握
4. 資本収益率などの用語とピケティの提唱する有名な公式「r>g」
5. ピケティが提案する累進資本税という具体的な格差是正策
- 目次
- ①アメリカの国民所得から見える格差問題
- ②ヨーロッパの民間財産から見える格差問題の原因
- ③所得シェアから見る格差問題
- ④富のシェアから見る格差問題
- ⑤格差社会のデータから見出した公式「r>g」
- ⑥格差問題是正の具体的施策:累進資本税
- ⑦まとめ
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①アメリカの国民所得から見える格差問題
ピケティはまずはじめに、アメリカの国民所得のデータから上位十分位が占める所得の割合を図で示しています。
上位十分位とは、統計学の用語ですが、ここではわかりやすく「トップ10%」くらいの意味でいいと思います。
つまり、アメリカで稼ぎの多い順でトップ10%の人々の所得が、国民全体の所得の内何%を占めているのかを表しています。
それが下図である。
この図のように、アメリカでは、第二次世界大戦まで、トップ10%の人々が全国民所得の45%を保有していました。
そして、第二次世界大戦により、その割合が35%くらいまで下がり、現在また45%ほどにまで戻っていることが分かります。
むしろ、戦前よりもグラフの数値が上がっています。
ピケティはU字曲線と言っているが、これはアメリカだけではなく、ヨーロッパなどの富裕国(日本も含む)各国で見られるという。
このあまりにも有名になった図こそが格差を象徴しているとピケティは考えています。
つまり、所得がトップ数パーセントの人に独占されている状態を如実に示しているからです。
金持ちにお金が集中しているということ。
しかも、第二次世界大戦から格差は拡大しています。
戦争が格差を是正したのは皮肉です。
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②ヨーロッパの民間財産から見える格差問題の原因
次にピケティが示したのは、ヨーロッパでの民間財産(不動産・金融資産・専門資産から負債を引いた値)の総価値が、国民所得の何年分に当たるかを示したグラフです。
つまり、国民の総所得と比べて資産がいくら分あるのか(資本/所得比率)を示しています。
これも先ほどと同じU字曲線を描いており、世界大戦前では資本の約700%(7倍)ありました。
しかし、大戦を機に下がり、現在に至るまで資本/所得比率が増大しています。
言い換えると、民間の資産が所得と比べて高まっていのです。
少し逸脱すれば、民間資産の上昇は、資本(資産)を持つ人に有利な状況となります。
お金持ちほど資産を多く所有していることを考慮すれば、民間資産の増加は、お金持ちの資産が増えるということです。
つまり、裕福な人がより裕福になることを示しています。
ピケティは他の国の資本構成比の変化やより古いデータを追加して、資本/所得比率の変化を追った議論を展開していますが今回は省略します。
ここで、ピケティは、格差の実態としてフランスの総所得と総賃金のトップ10%のシェアを示しています。
この図で示されている所得と賃金の推移は、他の国でも同様に生じています。
重要なのは、総賃金におけるトップ10%の推移に大きな変化がないことです。
つまり、ここ数十年間は格差状態がそのまま続いているのです。
しかも、トップ10%の人が総賃金も総所得も何十%も独占しているのです。
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③所得シェアから見る格差問題
次の図は、全ての所得に占める各所得のシェアを示しています。
つまり、どの所得層が、どんな種類の所得を主に得ているのかを示しています。
あえて古い年代のデータを載せましたが、この割合は現在でも当てはまります。
この図によると、右に行くほど、つまり富裕層になるほど、労働所得よりも資本所得の方が高くなっていることがわかります。
つまり、お金持ちになるほど、働いて得た賃金ではなく、土地や株などの資本で得たお金が優位になるということ。
これは資本の集中を示しているとも解釈できますし、資本から得られる不労所得等から富裕層は恩恵を得ているとも解釈できます。
この結果は、金持ちほど資本を多く所有するという前回記事「誰でもできるお金持ちになる方法:お金持ちの実態と条件」と整合的です。
合わせて読んでいただけると幸いです。
次に示しているのが、労働所得の格差です。
つまり、お給料の割合です。
トップ百分位、つまり所得順位のトップ1%が占める総所得におけるシェアです。
ヨーロッパやアメリカなどの資料ですが、他国でも同様です。
つまり、ここでもU字曲線であり、格差は世界大戦で減少したものの、現在になるにつれ拡大していることが分かります。
ちなみに、トップ10%だと以下のような図になります。
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④富のシェアから見る格差問題
最後に、富の格差についてです。
図のように、富の格差はほぼ横ばい状態であり、一向に格差が縮む様子はりません。
トップ10%の人が国富の80~60%を所有している状態です。
このようにピケティは、様々なデータを基に格差の拡大を捉えました。
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⑤格差社会のデータから見出した公式「r>g」
ピケティは、各データからその格差の背後にあると思われる有名な公式「r>g」を見出します。
ここでのrとは、資本の平均年間収益率のことで、利潤・配当・利子・賃料などの資本からの収入をその資本の総価値で割ったもの。
簡単に言えば、資本収入がどれくらいあるかを示しています。
一方、gは、その経済の成長率(所得や産出の年間増加率)を示しています。
つまり、「r>g」という不等式は、
- 年間で新しく生み出される所得などよりも資本利益の方が高い
- 資本が年々積みあがっている
この二つを示しています。
資本が積みあがれば、資本を多く持つ富裕層が喜ぶばかりであり、格差の指標とも言えます。
さらに、働いて得る賃金の増加率よりも株や投資などで得られる資本利益の方が大きいという絶望的な結果です。
汗水たらして働く庶民よりも、楽して不労所得を得ている富裕層の方が収入が上がっているのです。
さらに、「r>g」には次のような意味合いもあります。
資本収益率が経済の成長率を大幅に上回ると・・・論理的にいって相続財産は産出や所得よりも急速に増える。相続財産を持つ人々は、資本からの所得のごく一部を貯蓄するだけで、その資本を経済全体より急速に増やせる。こうした条件下では、相続財産が生涯の労働で得た富よりも圧倒的に大きなものとなるし、資本の集積はきわめて高い水準に達する
つまり、この不等式の下では、相続することが有利にもなるのである。
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⑥格差問題是正の具体的施策:累進資本税
ここでようやくピケティは、格差是正のための施策を提示します。
それが、資本への累進課税制度。
累進課税と聞くと、所得税を思い浮かべる方も多いと思われますが、その資本バージョンだととらえていただければ結構です。
「r>g」が成り立つ以上、資本に累進的な課税を施せば、税の分配機能として有効だということです。
これは、これまでの議論からすると当然の帰結です。
汗水たらして働いた賃金全体よりも、土地や投資などで得た資本の方が収益が上なわけですから、この資本に課税するのです。
しかし、私は、この課税は実現が難しいと思います。
確かに、資本に課税することは有効です。
しかし、この資本を実際に具体的数値として表すには困難が伴います。
例えば、金融資産一つ取ってみても、変動があるし、不動産などは具体的な資産価値として表しづらい。
あくまで概算値がせいぜいのところ。
この辺りは、具体的に数値として表せる所得税とは異なる部分であり、『21世紀の資本』が翻訳されて数年経つ現在でも、累進資本税導入の議論すらされていないことからでも明らか。
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⑦まとめ
このように議論の余地は多々ありますが、昨今の格差問題や貧困問題を考えるための必読書であることは間違いない。
まとめると以下のようになります。
- 世界全体で、お金持ちトップが占める資本量が増加してきている。
- お金持ちは、賃金より土地や株などの資本を主体として稼いでいる。
- これらの資本は、「r>g」より賃金の増加率よりも高い。
- 資本を多く持つ金持ちがより裕福になるだけ
- 累進資本税の導入は具体的施策として有効化もしれないが、実現は難しい。
これまで感覚や主観で述べられていた格差問題に対し、データを基にエビデンスを重視して論理的に挑んだことは大きな貢献だと思います。
一読の価値は大いにあります。
是非購入して、手に取ってもらいたい書物です。
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