私の人生は後悔ばかりです。
後になって「あぁすればよかった」とか「こうすべきだった」とか、今思うことばかり。
勉強、仕事、恋愛など。
人生は後悔の連続。
しかし、後悔は後々に遺恨を残すこともあります。
過去のことが忘れられず、苦しむ方もいます。
そのような方のためにも、「後悔先に立たず」と言いますが、後悔自体を知って「後悔を先に知ろう」ではありませんか。
本記事では、現在の神経科学(脳科学)で明らかにされつつある「後悔のメカニズム」について考えます。
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①後悔の定義
神経科学・脳科学・心理学で、後悔の研究は比較的長く行われています。
後悔は英語では「regret」です。
この「regret」には様々な定義があります。
その中で、後悔の定義に共通するのが、Coricelli et al. (2007)の述べている定義です。
引用すると以下のようになります。
原文は英語です。
日本語は私の訳です。
後悔とは、悪い結果になる意思決定と結びつく感情である。それが誘発されるのは、自分の選択結果(現実)と自分が拒否した過ぎ去った別の選択肢の結果(だったかもしれない)との比較による。後悔は、異なる選択でより良く物事がなっていただろうという痛みの伴う教訓を含んでおり、こうして行動上の変化を誘発するのである。
以上が後悔の定義です。
ポイントとしては、現在の選択と「ああすればこうだった」という別の選択肢の結果を比較することで生じる感情であること。
そして、別の選択肢の方が自分の選択よりも良い場合に発生することです。
比較と悪い結果の両方が条件になります。
後悔の感情は、この二つがそろわないといけません。
その点、悪い結果を選択したときに生じる落胆(disappointed)とは異なります。
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②後悔はなぜ重要なのか?―健康との関連性に言及して
では、後悔はなぜ重要なのでしょうか?
後悔は健康志向行動につながるため重要です。
つまり、後悔は健康と関係があります。
その代表的な健康志向行動が上の図にまとめられています。
後悔の研究をメタ分析したBrewer et al. (2016)によりますと、以下の3点で健康行動と後悔とが関連するといいます。
ちなみに、メタ分析の解説記事は「メタ分析とは何か?心理学論文から見るメタ分析の方法と限界」です。
1) 行動したことで予測される後悔は、健康的な行動をあまり誘発せず、逆に行動しないことで予測される後悔は、健康行動を促進する。
つまり、あることをした後の後悔は健康行動にはつながらず、何かをしないで後悔する場合は健康行動に結びつくということです。
「運動しとけばよかった」というやらないで後悔した場合の方が、ダイエットにつながるという話です。
2) 他の負の感情より、後悔の方が健康行動面でより効果的である。
先ほどご紹介した落胆などのような負の感情よりも、後悔の方が健康行動につながります。
3) 他のリスク評価方法よりも後悔の方がより健康行動面で効果的である。
以上の三つが、健康行動における後悔の効果です。
補足すると、1)の「行動したことで予測される後悔」と「行動しないことで予測される後悔」とは、上記の図で示されています。
原文が英語ですので、日本語で補足すると、前者は図の左側になります。
例えば「予防注射したことを(副作用か何かで)後悔して、次は予防注射しない」という行動が挙げられます。
したけど後悔したということですね。
後者は、例えば「風の予防注射をしないことを(後に風邪を引くことで)後悔すること」です。
前者をAction、後者をInactionとして区別されています。
両方とも健康行動に関係するのですが、どちらがより健康行動を促進し、どちらがより健康行動を抑制するのかはまだ議論の決着がついていません。
これからの研究しだいですが、2)は暫定的な結果です。
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③後悔の神経科学・脳科学
では、後悔とは、我々の脳でどのように処理されているのでしょうか?
このことがわかれば、よりよい選択ができるようになりますし、後悔で悩むことが少なくなるかもしれません。
この図はCamille et al. (2004)による脳画像です。
この研究では、OFC(orbito-frontal cortex; 眼窩前頭野)という脳部位を損傷した患者さんと健康な一般人とを比較した研究になっています。
すると、この脳部位を損傷した患者さんは、選択行動上で後悔を感じないという結果が出ています。
つまり、その場の自分の損得勘定のみで判断しているということです。
逆に、一般人は、前の選択の後悔があって選択行動を渋ることがありました。
行動上で明らかに変化が見られましたので、この眼窩前頭野は後悔の感情と関連していることが強く示唆されました。
後の研究でfMRIを使って同様の実験をしたCoricelli et al. (2005)の研究でも同様の脳部位の活性化が見られることを報告しています。
つまり、後悔を感じるときに眼窩前頭野の活動が見られるということですね。
そのことを示しているのが上の図です。
Coricelli et al. (2005)では、眼窩前頭野以外にも、ACC(anterior cingulate cortex; 前帯状回)という脳部位とHyppocampus(海馬)の二つの脳部位の活性化が見られました。
前帯状回は、以前「恥知らずは日本文化の危機?脳科学が明かす恥のメカニズム」でもご説明したとおり、葛藤に関連する脳部位です。
他方で、海馬は記憶や学習に関する脳部位です。
そのため、後悔はある意味過去との葛藤があり、そして、学習に関連すると結論付けられます。
④まとめ
以上が、後悔の考察でした。
後悔は、健康行動に関連する重要な感情です。
今回の考察から、葛藤の中でも学習が関係する感情でもあるということが示唆されました。
特に重要なのが、眼窩前頭野です。
この部位は、後悔の感情にとても重要な部位であることが示唆されました。
今後の研究しだいで、これらの脳部位の特定に意味が生じることとなるでしょう。
「後悔先に立たず」という言葉があります。
でも、後悔を知ることは先に立ちます。
後悔を知ることで、後悔することから受けるショックを和らげたりできるのではないでしょうか。
その一助になれば幸いです。
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参考文献
Brewer et al. (2016). Anticipated Regret and Health Behavior: A Meta-Analysis. Health Psychology, Vol. 35, No. 11, 1264-1275.
Camille et al. (2004). The Involvement of the Orbitofrontal Cortex in the Experience of Regret. Science, 304, 1167-1170.
Coricelli et al. (2005). Regret and its avoidance: a neuroimaging study of choice behavior. Nature Neuroscience, Vol. 8, No. 9, 1255-1262.
Coricelli et al. (2007). Brain, emotion and decision making: the paradigmatic example of regret. Trends in Cognitive Science, Vol. 11, No. 6, 258-265.
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