・問題解決の科学的エビデンスに基づいた方法を知りたい。
・創造的な問題解決や対人的な問題解決に有効な方法を知りたい。
仕事と対人。
日常生活は日々問題解決の連続です。
仕事やビジネスでは、目的があって答えを探る問題解決から、新製品の開発など創造的な問題解決まで様々あります。
一方、家庭やプライベートでは、主に夫婦間や友人トラブルなど、対人関係の問題解決が重要です。
しかし、「問題解決」と名のつくどのような書籍を読んでも「問題解決フレームワーク」や「問題解決学習」など、具体的な問題解決の方法は見つかりません。
そこで今回は、様々な問題解決について心理学的知見を基に有効な方法をご紹介します。
感情を利用したり、体を利用したりなどなど。
本記事では以下のことが学べます。
2. ネガティブとポジティブ感情の問題解決への影響
3. 体を利用した問題解決の方法
4. 学習や記憶による問題解決への有効な方法
- 目次
- ①問題解決を阻害する要因は何か?ネガティブ思考と反芻思考能力
- ②問題解決を促進する要因は何か?ポジティブ感情と学習
- ③今すぐにでもその場でできる問題解決を促す方法とは?ジェスチャーと記憶の想起
- ④まとめ
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①問題解決を阻害する要因は何か?ネガティブ思考と反芻思考能力
そもそも、問題解決がなかなか上手くできない。
あるいは、問題解決のための良い答えが浮かばないことがあります。
このように、問題解決を阻害する要因が心理学的に特定されています。
ネガティブ思考が問題解決を阻害する。
Lyubomirsky & Nolen-Hoeksema (1995)は、ネガティブ思考が問題解決を阻害することを示しました。
彼らは、実験参加者に質問紙に回答してもらい、ネガティブ思考の強い群と弱い群とに分けました。
また、それぞれの群で、「自分に関すること」を書かせる自分中心思考群とオープンに考えて書かせる拡散思考群とに分けました。
つまり、ネガティブ思考強いか弱いかの二条件×自分中心思考か拡散思考かの二条件=4群が存在することになります。
その後、対人問題の解決能力を測るテストを行い、各群での成績を比較しました。
すると結果は以下の通りです。
横軸は先ほどご紹介した群に当たります。
Dysphoric-ruminativeが、ネガティブ思考が強くかつ自分中心思考をさせた群
Dysphoric-distractingが、ネガティブ思考が強くかつ拡散思考をさせた群
Nondysphoric-ruminativeが、ネガティブ思考が弱くかつ自分中心思考をさせた群
Nondysphoric-distractingが、ネガティブ思考が弱くかつ拡散思考をさせた群です。
縦軸は、Problem solvingの二つの欄をご覧ください。
上のEffectivenessが実験参加者が提示した回答が、対人問題にどれくらい有効なのかを示しています。
下のPercentage of model solutionは、もともと予定されていた解答とどれくらい同じ回答かを割合で示しています。
すると、有効な回答は、左のネガティブ思考が強くかつ自分中心思考をさせた群で最も成績が低くなっています。
また、元の回答との類似度では、ネガティブ思考が強い左二つの群で成績が低いことが確認できます。
つまり、ネガティブ思考は対人的な問題解決を阻害することが示されています。
ネガティブ思考で特に自分のことばかり考えてしまう方は問題解決能力が低い可能性があります。
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反芻思考能力は問題解決の自信をも失う。
先ほどご紹介した自分中心的思考は、別名反芻思考と呼ばれます。
自分のことや同じことをぐるぐると考えることです。
ネガティブ思考でも問題解決に影響しますが、この反芻思考能力も問題解決を阻害します。
Lyubomirsky et al. (1999)は、先ほどの研究と同様に4つの群を作り、様々な問題や質問紙に解答させて思考傾向や問題解決能力を測定しました。
まず、思考傾向については以下の図です。
Self-Confidenceは、自信。
Optimismは、楽観的。
General Controlは、物事は何でも自分でコントロールできるという思考をそれぞれ表しています。
縦軸は、その度合い。
横軸は、グループです。
Dys / Rumは、ネガティブ思考が強く、反芻思考をさせた群。
Dys / Disは、ネガティブ思考が強く、拡散思考をさせた群。
Nondys/ Rumは、ネガティブ思考が弱く、反芻思考をさせた群。
Nondys / Disは、ネガティブ思考が弱く、拡散思考をさせた群をそれぞれ示します。
すると、どの指標でも一番左の、ネガティブ思考が強く、反芻思考をさせた群で最も低くなっています。
つまり、反芻思考はネガティブ思考と相まって、課題への自信喪失や悲観的な態度、そして、自分ではどうしようもできないと考えてしまうのです。
これらの群ごとでの問題解決能力を見たのが以下の図です。
これは説明するまでもなく、ネガティブ思考が強く、反芻思考をさせた群で最も低くなっています。
これより、ネガティブ思考と自分のことや同じことにこだわる反芻思考能力は問題解決の邪魔をします。
逆に、二つ目の研究から、ネガティブ思考が強くても、オープンに考えて自分ではなく周囲に注意を向ける拡散思考をすれば問題解決は十分にできるようになります。
次は、その問題解決を促進する要因を探ります。
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②問題解決を促進する要因は何か?ポジティブ感情と学習
問題解決を阻害する要因がわかりました。
ネガティブ思考と反芻思考能力を避ければよいのですが、問題解決を促進する要因が存在します。
ポジティブ思考は問題解決を促進する。
先ほど、オープンに考える拡散思考が問題解決の促進になることを示しました。
そのオープンな思考を促すのが、ポジティブ感情です。
Isen et al. (1987)は、実験参加者にコメディ映画を見せた群とそうでない映像を見せた群とに分けて、コメディ映画によって生じるポジティブ感情が、閃きを必要とする創造的な問題解決を促進するのかを調べました。
その結果が下の図です。
縦軸のPositive filmがコメディ映画を見せた群です。
一方、Facilitative displayは、閃きを促す映画を見せた群です。
例えば、実験では使用しない別の閃きを必要とする課題の答えを見せています。
すると、Positive filmとFacilitation displayとで成績が高いことが分かります。
つまり、ポジティブ感情は閃きを必要とする創造的問題解決を促す効果があるのです。
ポジティブ感情は、オープンな思考や課題への自信などを生みます。
なので、先ほどの研究と整合的であり、ポジティブ感情の効果は比較的頑健な知見だと言えそうです。
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似た課題を経験することは問題解決を促進する。
先ほどの研究で、Facilitation display、つまり、閃き課題で閃きの答えを学習した群は、閃き課題で成績が高かったです。
すると、実際に問題になっている課題の問題解決には、それと似た課題を学習することで達成しやすくなると考えられます。
それを示したのが、Chrysikou (2006)です。
実験参加者を学習する課題ごとに分けて、その後閃きを必要とするテストを行わせました。
すると結果は以下の通りです。
この図の左右どちらでも同じような結果ですので、どちらでもいいです。
重要なのは、縦軸です。
ACTとACT-Cは後に行うテストと似た課題です。
一方、EFTやWAは、あまりテストと似ていません。
数字はテストの正答割合を示しています。
すると、ACTとACT-Cのように似た課題をした時に、閃きテストでも好成績をたたき出します。
このように、似た課題を過去に経験しているかで問題解決を促進するかが決まります。
大事なのは、常に勉強しておくことです。
過去の問題はもちろん、ビジネスで言えば過去の個別事例などや本での学びが現在抱える問題の解決に近づくことを意味します。
幅広い勉強が企業の問題解決に重要になるのです。
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③今すぐにでもその場でできる問題解決を促す方法とは?ジェスチャーと記憶の想起
最後に、では、今すぐ現在でもできる方法はないのかということをお話しします。
結論は、「ある」です。
ジェスチャーが空間的な問題解決に有効な方法。
人間は話したり考えているときに、身振り手振りなどジェスチャーをします。
このジェスチャーが問題解決を促進することが示されています。
Chu & Kita (2011)は、実験参加者を、ジェスチャーをする群とジェスチャーをしてもよい群とジェスチャー禁止群とに分けて、物体を回転させる空間的な問題解決の成績を調べました。
すると結果が以下の図です。
白が最初の試行、ねずみ色が二回目の試行です。
同じ結果なのであまり気にしなくても結構です。
縦軸が問題の誤答率。
横軸がグループです。
Gesture encouragedがジェスチャーをする群。
Gesture allowedがジェスチャーをしてもいいししなくてもいい群。
Gesture prohibitedがジェスチャー禁止群です。
すると、図から、ジェスチャーをする群の方がジェスチャー禁止群よりも誤答率が統計的に有意に低いです。
このことから、ジェスチャーは問題解決時にすると問題解決を促進します。
しかし、注意が必要なのが、空間把握に関する問題解決のみしか今のところ調べられていない点です。
創造的な問題解決や対人的な問題解決に有効かどうかまだ不明です。
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記憶を明確に想起することが問題解決を促進する。
最後の手軽にできる問題解決促進法は、記憶を明確に想起することです。
重要なのは「明確に」という点です。
Kevin et al. (2016)は、実験参加者にビデオを見せて、その記憶について明確に思い出させて記述させる群と見せられたビデオの特徴を明確に記述させる群とに分けて、問題解決課題などを行いました。
すると結果が以下の図です。
どの図も同じような傾向ですので、それほど気にしなくても結構です。
黒が、記憶を明確に想起させた群。
ねずみ色が、ビデオの特徴を書かせた群です。
すると、明らかに、左側の図形で、成績が上がっていることが示されています。
各グラフの右側は無視で結構です。
つまり、過去の想起を明確に行うことで問題解決を促します。
さらに重要なのは、思考にも影響することです。
全てのグラフで同様の傾向を示しています。
Anxietyは、不安。
Likelihood of Bad Outcomeは、悪い結果に可能性を考えること。
Difficulty to Copeは、自分ではできないと考えることを示しています。
ネズミ色と黒色とは無視で結構です。
Controlがビデオの特徴を記述した群
Specificityが記憶想起群です。
すると、どの指標でも、記憶想起群の方が低くなっています。
つまり、ネガティブ思考が薄まるという結果です。
これを直接示しているのが下の図です。
左がポジティブ感情
右がネガティブ感情です。
Initialは無視で、その他は一緒です。
すると、記憶想起群はポジティブ感情が高く、ネガティブ感情が低くなっています。
以上より、気軽にその場ですぐできそうな問題解決促進法は、記憶を明確に思い出して記述することです。
ジェスチャーは、問題解決時に役立つかもしれませんが、まだ空間把握の問題解決以外は有効かわかりません。
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④まとめ
以上より、問題解決の阻害要因と促進方法について見てきました。
まとめると以下のようになります。
- ネガティブ思考は問題解決を阻害する。
- 反芻思考能力は問題解決を阻害する。
- ポジティブ感情を抱くと、問題解決を促進する。
- 直面している課題と似たような問題解決の事例を学ぶと問題解決を促進する。
- ジェスチャーは空間把握を必要とする問題解決の促進には有効。
- 記憶の明確な想起は、問題解決を促進するだけではなく、ネガティブ感情を低下させる。
生きている限り、問題解決は必須になります。
特にビジネスや対人関係では、スマートな問題解決が求められます。
その一助に本記事がなれば幸いです。
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参考文献
Chrysikou (2006). When Shoes Become Hammers: Goal-Derived Categorization Training Enhances problem-Solving Performance. Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory,and Cognition, 32(4), 935-942.
Chu & Kita (2011). The Nature of Gestures' Beneficial Role in Spatial Problem Solving. Journal of Experimental Psychology: General, 140(1) ,102-116.
Isen et al. (1987). Positive Affect Facilitates Creative Problem Solving. Journal of Personality and Social Psychology, 52(6), 1122-1131.
Kevin et al. (2016). Worrying About the Future: An Episodic Specificity Induction Impacts problem Solving, Reappraisal, and Well-Being. Journal of Experimental Psychology: General, 145(4), 402-418.
Lyubomirsky & Nolen-Hoeksema (1995). Effects of Self-Focused Rumination on Negative Thinking and Interpersonal Problem Solving. Journal of Personality and Social Psychology, 69(1), 176-190.
Lyubomirsky et al. (1999). Why Ruminators Are Poor Problem Solvers: Clues From the Phenomenology of Dysphoric Rumination. Journal of Personality and Social Psychology, 77(5), 1041-1060.
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