・つい感情的になって。
・落ち着いて合理的に判断できるようになりたい。
ビジネスでも日常生活でも、私たちは常に意思決定に迫られています。
会社の未来を左右する大事な決定から、今夜は魚にするか肉にするかという些細な意志決定まで。
しかし、自分の中では合理的に判断しているつもりでも、そうでない可能性があります。
感情による影響がそれです。
怒りや悲しみなどのネガティブな感情でも嬉しさなどのポジティブな感情でも、意志決定に影響します。
今回は、そんな大事な意志決定が感情によって影響を受けるという知見をご紹介します。
感情の影響を知れば、合理的で正しい決定を下せることにつながります。
本記事では以下のことが学べます。
2. ポジティブ感情の意志決定への影響
3. ネガティブ感情の意志決定への影響
4. 感情がどのように意思決定を左右するのかその脳内メカニズム。
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①感情のコントロールができないと非合理的な意志決定をしてしまう。
実は、感情による意思決定の影響の研究はそれほど多くないです。
私もなぜかわからないのですが、一つの理由として、結構最近注目された研究領域だからというのがありそうです。
感情の意志決定への影響を示した記念碑的研究が、Koenigs & Tranel(2007)です。
彼らは、下図の脳の前頭葉の領域を損傷した患者さんと健常者とを比べて、「最後通牒ゲーム」という経済的意思決定課題を実施することで、感情の意志決定への影響を実験しました。
最後通牒ゲームの詳細は「行動経済学とは?ノーベル賞から見る行動経済学の基本とおすすめ本」の記事に詳しいです。
行動経済学の典型的な実験課題です。
合わせて読んでいただけると幸いです。
最後通牒ゲームとは、簡単に書きますと、下図のような流れになります。
この図のように、最初に相手の顔が呈示されて、その人が10ドルもらいます。
相手が、どれくらい実験参加者にお金を分けるのかを決めます。
上の図だと、2ドルです。
その時に、実験参加者は受け取るか拒否するかを選べます。
受け取れば、そのままの金額を貰えます(図の場合だと2ドル)。
しかし、拒否すると、自分も相手もお金がもらえません。
両者とも0ドルです。
そのようなゲームを何回も行いました。
重要なのが、前頭葉を損傷した方とそうでない方との違いです。
前頭葉は感情の抑制やコントロールをする機能を果たします。
つまり、前頭葉を損傷すると、感情が抑えられなくなるのです。
感情に支配される状態だと言ってもいいでしょう。
前頭葉損傷患者さんと健常者とで最後通牒ゲームをした結果が以下の図になります。
この図は、実験参加者が受け取り手の場合の図です。
縦軸が、受け取った割合。
横軸が呈示された金額です。
白が健常者。
黒が前頭葉損傷患者さん。
ねずみ色は無視で結構です。
すると、呈示された金額が、3ドルになると、前頭葉損傷患者さんの受け取った割合が下がっています。
つまり、拒否する確率が高まったということです。
金額が低くなるにつれて、拒否する割合が高くなりますが、前頭葉損傷患者さんの方が受け取る割合が低くなっています。
この最後通牒ゲームの場合、どのような金額を提示されても、拒否しないことが合理的だとされています。
というのも、拒否すれば、全くお金は手に入らないからです。
なので、感情に支配された前頭葉損傷患者さんは、非合理的な意志決定をしていまっているのです。
感情が合理的な意志決定に影響することが分かります。
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②ポジティブ感情とネガティブ感情の意志決定への影響
先ほどの研究から、感情が意志決定に影響することがわかりました。
しかし、感情には、ポジティブな感情とネガティブな感情があります。
感情の違いによって意思決定に変化が生じるのでしょうか?
ポジティブ感情は合理的な意志決定につながる。
まずは、ポジティブ感情に関してです。
ポジティブ感情が意志決定に影響することを実証したのが、Cassotti et al. (2012)です。
彼らは、フレーミング効果という心理学の効果を利用して、ポジティブ感情の意志決定への影響を調べました。
フレーミング効果とは何かというと、同じ意味なのに表現の違いによって人間の意志決定が変わることを指します。
例えば、自分が50円持っていて、「30円だけ保持する」か「ギャンブルで50円そのままキープするかを賭けるか」を選ぶ場合、ギャンブルには出ません。
一方、自分が50円持っていて、「20円失う」か「ギャンブルで50円そのままキープするかを賭けるか」を選ぶ場合、ギャンブルする確率が上がります。
どちらも、30円手元に残るのに、表現一つで意思決定が変わります。
損失回避とも呼ばれる行動傾向です。
この効果を使って以下のように実験を組んでいます。
まず、自分が50ドルもらえて、次にポジティブな写真とネガティブな写真のどちらかを見せられます。
その後、「30ドル保持するか」という表現の獲得フレームと「30ドル失うか」という表現の損失フレームのどちらかが示されます。
この時に、同時にギャンブルを選ぶ選択肢も用意されています。
ポジティブかネガティブかコントロールかの三つの条件と獲得フレームか損失フレームかという二つの計6つの条件があります。
すると、結果は以下のようになりました。
縦軸は、ギャンブルを選んだ割合。
横軸が、感情を表します。
ねずみ色が獲得フレーム。
黒が損失フレームです。
すると、ネガティブ感情の場合(左)と感情が全くないコントロール(真中)でフレーミング効果が明確に見られます。
つまり、獲得フレームよりも損失フレームでギャンブルに出る割合が高くなっているのです。
一方、ポジティブ感情の場合は、獲得フレームと損失フレームとの間に明確な差はなく、フレーミング効果が見られませんでした。
このことから、ポジティブ感情は表現に惑わされない合理的な判断に導く可能性が示唆されます。
論文によると、「ポジティブ感情はフレーミング効果を消す」とまで表現されており、合理的に判断したいときは、一旦落ち着いてポジティブ感情を抱くものを見てから判断する方がよさそうです。
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ネガティブ感情は意志決定をブレさせる。
他方、ネガティブ感情についての研究はどうかというと、ネガティブな感情になると意志決定がぶれることが示されています。
Fallon et al. (2014)は、下図のような意志決定課題を行うことで、ネガティブ感情の意志決定への効果を示しました。
この課題は、短い時間で目的地にたどり着ける危険なルートと、時間はかかるが安全なルートの二つの経路を選ぶ課題です。
緊急時という時間設定での意志決定課題になります。
ルートを選ぶ意志決定をした後に、フィードバックを貰います。
ネガティブ感情条件では、自分の選択したルートが間違っていることを言われます。
一方、ニュートラル条件では、フィードバックはなく淡々と課題が進みます。
フィードバックによって感情を操作して意志決定への影響を見ています。
すると、結果は以下のようになりました。
縦軸が、課題中に意志決定を変更した回数です。
左側がニュートラル条件。
右側がネガティブ感情条件です。
グラフの色は無視で結構です。
すると、ネガティブ感情条件で有意に自分の意志決定を変更していることがわかります。
ネガティブなフィードバックなので仕方ないのですが、意志決定がぶれていることを示唆しています。
ネガティブ感情は、意志決定に悪影響を及ぼす可能性が高いです。
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③感情が意志決定に影響する脳内メカニズム
最後に、感情がどのように意志決定に影響するのか、その脳内メカニズムを探った研究をご紹介します。
Garfinkel et al. (2016)は、ネガティブ感情の「怒り」を対象にして判断課題に影響がでるかをfMRIを用いて調べました。
彼らが行った研究は単純で、最初に見えないくらい短時間で「リラックス」か「怒り」の文字が表示されます。
その後に、文字のつづりが表示されて、その文字が意味のある単語かそれとも無意味なつづりなのかを判断します。
最初の、「リラックス」か「怒り」の部分で感情を操作しています。
彼らの研究では、課題中の血圧を測っています。
怒りの感情が高ぶったかどうかを見るためです。
すると、実験結果は以下のようになりました。
図Aは、文字の意味判断をした反応時間を示しています。
縦軸が、反応時間の速さで、上に行くほど反応時間が早いことを示します。
横軸が、感情条件です。
左が怒り、右がリラックスです。
すると、「怒り」を見せられた場合、「リラックス」よりも反応時間が遅くなっています。
怒りが文字判断に悪影響を及ぼしています。
図Bは、血圧の高さです。
縦軸は、血圧の高さ。
横軸は、感情条件です。
図Bより、「怒り」の方が「リラックス」よりも血圧が上がっています。
なので、怒りの感情が湧いていると解釈できます。
この図は、文字の意味判断の反応時間と血圧との関係性です。
縦軸が、血圧の高さ。
横軸が、反応時間の速さです。
図より、負の相関関係があります。
つまり、血圧が低いほど反応時間が早いという関係です。
逆に、血圧が上がるほど、反応時間は遅くなります。
血圧という生理的指標が反応速度という行動指標と関係することが分かります。
では、この時の脳活動はどうでしょうか?
それが以下の図です。
この図は、黄色く光っている領域が、「怒り」の時に活動が下がった領域です。
Aは後頭葉の視覚野。
Bは後頭葉と頭頂葉の間の領域です。
両方とも、視覚的な判断をすることに関わっています。
文字を見て判断する課題ですから、この領域の活動低下が判断の遅れにつながるのかもしれません。
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④まとめ
以上より、感情の意志決定への影響を見てきました。
まとめると以下のようになります。
- 感情のコントロールや抑制が効かなくなると非合理的な判断をする傾向がある。
- ポジティブ感情は、フレーミング効果を無くし、合理的な意志決定につながる。
- ネガティブ感情は、意志決定をブレさせる。
- ネガティブ感情は、意志決定を遅くさせる。
- ネガティブ感情は、血圧を上げる。
- 血圧が上がるほど意思決定は遅くなる。
- 感情の意志決定への影響の脳内メカニズムは、意志決定に関係する領域の活動が下がることによる。
感情の意志決定への研究は比較的最近始まった研究です。
さらに、感情を研究するのは結構難しいので、それゆえに研究が少ないこともあります。
有意な差がでないことの方が多いかもしれません。
しかし、少ない研究でも、感情は意志決定に影響することがわかります。
合理的に正しい意思決定をしたいのなら、感情と上手う向き合う必要があるでしょう。
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参考文献
Cassotti et al. (2012). Positive Emotional Context Eliminates the Framing Effects in Decision Making. Emotion, 12(5), 926-931.
Fallon et al. (2014). Emotional intelligence, cognitive ability and information search in tactical decision-making. Personality and Individual Differences.
Garfinkel et al. (2016). Anger in brain and body: the neural and physiological perturbation of decision-making by emotion. Social Cognitive and Affective Neuroscience, 150-158.
Koenigs & Tranel (2007). Irrational Economic Decision-Making after Ventromedial Prefrontal Damage: Evidence from the Ultimatum Game. Journal of Neuroscience, 27(4), 951-956.
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