・苦情でブランドイメージが壊れてしまった。
・苦情への効果的な対応方法を知りたい。
ビジネスをしていると商品やサービスに苦情がくることはよくあります。
むしろ、完璧な商品やサービスがこの世に存在しない以上、苦情は必ずきます。
近年では苦情対応がSNSにアップされる時代です。
なので、苦情対応には慎重に慎重を重ねないといけません。
苦情対応を適切にできれば、ネガティブなイメージを持っていたお客様が前向きに評価してくれるようになり、企業への満足度向上や強固なファンになってくれたりします(Gelbrich & Roschk, 2011)。
苦情はピンチでもあり、チャンスであります。
今回はそんな苦情をチャンスにする方法を日本のデータをメインにご紹介します。
本記事では以下のことが学べます。
2. 心理学的に提唱されている苦情への対応方法
3. 苦情対応は、謝罪だけでいいのかどうか。
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①日本とアメリカの比較から分かる苦情への認識の違い。
苦情対応には、目の前のお客様に合わせた対応が必要になります。
特に、日本での苦情の特徴を知ることは適切な対応に役立ちます。
そこで、日本とアメリカの接客業経験者に苦情に関する調査をしたのが、岩井(2019)です。
岩井(2019)の調査結果として、日米間での苦情への認識や効果的な対応方法が異なることがわかりました。
まずは、日本とアメリカでの苦情への効果的な対応法の違いについてです。
上の図は、日本とアメリカで苦情を受けた時の効果的な対応の仕方の割合を示しています。
日本が黒で、アメリカが白です。
すると、統計的に有意な差があった項目は、「謝罪」「原因を説明」「損害の補償」「金品を提供」の四つでした。
「謝罪」と「原因の説明」では日本の方が多く、「損害の補償」と「金品を提供」ではアメリカの方が多いという結果です。
この調査結果からすると、日本では苦情への謝罪や苦情に至った経緯を説明する「誠実さ」が求められるのに対し、アメリカでは金銭的な解決を提案することが多いと解釈できます。
日本のお客様には、態度と言葉が重要なのです。
なので、いきなり金銭的解決を日本のお客様に提案すると「なんだ!反省していないのか?」と逆に起こられそうですね。
この違いは押さえておいた方がいいと思います。
なので、日本では目に見えない納得を提供し、海外では目に見える具体的な解決案を提供するのが違いとしてみられます。
その認識の違いゆえか、上の図のように日本はアメリカよりも苦情対応を難しいと感じている割合が高いです。
それを難しいと感じさせる理由が下の図ですが、日本では「状況・客による」対応の柔軟さが必要ですし、「客を納得させる必要性」もあり、「ストレス」も大きいです。
やはり、日本と海外では、苦情への認識も苦情への有効な対応法も異なると言えそうです。
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②心理学的に有効な具体的な苦情対応の方法
では、上記をふまえて、どのような対応法が心理学的に効果的なのでしょうか。
日本の苦情研究を引っ張ってきている池内(2020)の提言によると以下のような流れに沿った対応が好ましいと言う。
池内は(2020)は、お客様の怒りの度合いと時間経過に沿って四つの段階を経た苦情対応法を提唱してる。
1) 傾聴時
この段階は、お客様の怒りや興奮が絶頂の時であり、対応者の声は耳に入らない。
なので、対応者がすることは、ひたすらお客様の言葉を傾聴することである。
ポイントとしては、「そうですね」という共感的傾聴と「○○については申し訳ございません」という限定的な謝罪であり、対応者は言葉使いと態度に気をつけて憶測や論理的説明は控えることです。
2) 手続時
お客様の怒りが少し鎮静化した状態であり、相手は冷静さを取り戻す。
なので、対応者がすることは、状況確認の開始である。
「○○はどうですか?」のようなオープンな質問や「はい」「いいえ」で答えられるようなクローズドな質問を織り交ぜて、状況やお客様情報の確認を行う。
3) 提案時
怒りや感情がほとんど収まった時であり、相手に合わせた謝罪や解決法を提案する。
なので、対応者がすることは、お客様へ共感を示しながらも、代替案の提示も行い、対応困難だと判断すれば無理難題を断ることもする。
4) 終納時
ここでは、納得すれば苦情対応が終結する。
なので、対応者がすることは、対応終了の言葉を述べることだが、失敗すると苦情がエスカレートするので慎重に行わないといけない。
ポイントとして、苦情を通した「貴重な情報提供」に感謝を示しお礼を忘れないこと。
なお、失敗した場合は、時間・人・場所を改めて対応し直す。
以上の四つの段階を慎重に経る必要がある。
先ほどの、岩井(2019)のデータのように、日本では特に謝罪やお礼など態度が重視される。
この態度と誠実さをより意識しないと、苦情がこじれる可能性が高いといえる。
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③しかし、謝罪だけではその後の顧客満足度向上等にはつながらない。
上記のように日本の苦情への認識と具体的な対応法を見てきましたが、謝罪だけでは顧客満足度の向上等にはつながらないという研究がある。
薊()は、大学生を対象に苦情の場面を想定して自分がどのような対応をされた時にどう反応するのかを調べた。
すると、結果として以下のようになった。
この図は、苦情対応として、「謝罪」、店員が謝罪して客の要望に応える「商品の補填」、店員が謝罪を行うだけではなく、ドリンク券を配布する「消費者優位」の三つの対応法を比較し、それぞれの対応法から店員の誠意がどれくらい感じられるかを示している。
苦情場面に関しては無視で結構です。
すると、統計的に有意な差があったのが、謝罪のみの対応法であり、他の対応法と比べてダントツに店員の誠意が低かった。
また、別の指標でも同様で、謝罪のみの条件では、今後の店の利用度もダントツで低く、さらに噂がSNSなどで拡散される度合いが高いという結果でした。
つまり、日本では確かに謝罪は重視されるものの、謝罪だけでは誠意はあまり感じられず、今後の店の利用ども低く、悪い噂が拡散される可能性があるということです。
苦情が生じた時は、単に謝罪だけの対応ではお客様の不満は残ったままであり、むしろ悪い口コミすら発生しうる。
何かの補填や代替案を提示することで、苦情を言う顧の満足度やファンになる確率は上げることができるといえます。
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④まとめ
以上より、日本の苦情研究について見てきました。
まとめると以下のようになります。
- 日本とアメリカの苦情では認識が異なり、日本では「謝罪」「原因の説明」など誠意が対応法として有効で、アメリカでは「損害の補償」「金品の提供」など金銭的解決が対応法として有効である。
- アメリカより日本の方が苦情対応への心理的難易度が高い。
- 心理学的に有効な苦情の対応法として、相手の感情と時間経過で異なる対応が必要とされる。
- しかし、苦情に対して謝罪だけでは誠意は感じられないと言う現実がある。
- 苦情に対して謝罪のみの対応だけでは、顧客満足度向上にもつながらず、悪いクチコミが広がる可能性が高い。
苦情はピンチでありチャンスでありますが、チャンスになるには相応の対応が必要になります。
単なる謝罪だけではチャンスにするには難しそうです。
もちろん、お客が理不尽なことで苦情を言ったり、無理難題を突きつける場合は別の機関に相談などをする方がいいです。
苦情は言いなりになることではなく、あくまでも商品やサービスの改善につながる機転です。
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参考文献
薊 理津子 (2018). 苦情行動と苦情対応に関する研究ー場面想定法を用いた検討ー. 江戸川大学紀要 = Bulletin of Edogawa University 28.
Gelbrich & Roschk (2011). A Meta-Analysis of Organizational Compliant Handling and Customer Responses. Journal of Service Research, 14(1), 24-43.
池内 裕美 (2020). なぜ「カスタマーハラスメント」は起きるのか―心理的・社会的諸要因と具体的な対処法ー. 情報の科学と技術, 70(10). 486-492.
岩井 千春 (2019). 苦情対応に関する意識の日米比較ー接客業経験者に対する質問紙調査ー. 日本国際観光学会論文集, 26, 143-153.
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