心理学・脳科学/Psychology・Neuroscience 記事/Article

急な上司や顧客の無茶ぶりに応じるタスクの切り替えの心理学・脳科学

・途中で作業を切り替えるのに時間がかかる。

・別のタスクを切り替えるのに苦労する。

・急な上司や顧客の対応に苦労する。

急な事態で、今やっている仕事やタスクから別の全く異なる作業にすぐに頭を切り替えられる人はそれほど多くありません

心理学的には、急にタスクを切り替えた時の方が同じ別のタスクを繰り返すよりも、次のタスクに取り掛かる時間が遅くなります。

この現象を「シフトコスト」や「スイッチングコスト」と呼びます。

このスイッチングコストが積み重なるとどうなるでしょうか?

たった数秒でも、何分・何十分・何時間にも膨れ上がります。

そこで今回は、タスクの切り替え、特にスイッチングコストについての心理学と脳科学の知見をご紹介します。

本記事では以下のことが学べます。

・スイッチングコストとは何か?

・タスクの切り替えの年齢差

・スイッチングコストを減らすにはどうしたらいいのか?

・タスクの切り替えとスイッチングコストの脳内メカニズム

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①タスクの切り替えの心理学:年齢差とスイッチングコスト

今やっている仕事から別の全く異なる仕事に切り替えるには、労力時間がかかります。

それを年齢ごとに研究したのが、Cepeda et al. (2001)です。

彼らは実験参加者に、数字を見せて、「数字は何か」を答えるタスクと「数字が偶数か奇数か」を答えるタスクを混ぜて、タスクの切り替えについて調べました。

例えば、数字がバッとコンピュータ画面に出て、「数字は何か?」で答えると、次にまた数字がバッと出て「数字は偶数か奇数か?」と問われます。

その結果を年齢ごとに集計したのが以下の図です。

task switching age

縦軸は、反応速度。

つまり、問いに答えるまでの時間です。

横軸は、年齢を表しています。

注目すべきは上の図で、◇や△などは無視で結構です。

この図から以下の二点が読み取れます。

  • タスクを切り替えると反応時間が遅くなること。

一つ一つののような図の根本部分がタスクの切り替えをしない条件です。

つまり、ベースライン。

それ以外はタスクの切り替えをします。

すると、タスクの切り替えをする場合は、必ずどの年齢層でも時間がかかっています

  • 年齢と反応速度の関係は逆U字型

反応速度が速いほど成績が良いと言われています。

つまり、この図ですと、真中の20代~30代の年齢層に近づくにつれてU字型で反応速度が短くなっており、早くなっています

つまり、成績的には、真中の年齢層が上なのです。

だから、この関係性を心理学では逆U字型と呼びます。

小学生低学年や70越えのお年寄りでは、反応速度は遅くなります。

ピークが20代~30代までです。

この二点の内一点目が、いわゆる「スイッチコスト」と呼ばれる現象です。

反応速度が、同じタスクの場合よりもタスクの切り替えをした方が遅くなるのです。

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②タスクの切り替えの心理学:スイッチングコストを減らすには?

では、この反応速度の遅れを無くすにはどのようにすればいいのでしょうか?

実は、この反応速度の遅れは、他人に指示された時にも自分で切り替える時にも生じます。

自発的にタスクを切り替えてもスイッチングコストは生じる。

Yeung (2010)は、先ほどと同様に、二つのタスクを混ぜて自分からタスクを変えても良いと言われる条件と実験者によってタスクを変えるように指示される条件とをつくり、比較しました。

その結果が以下の図です。

task switching autonomy

上の二つの図が、反応速度です。

下の図はエラー率であり、無視して結構です。

左の図が、実験参加者が自分で自発的にタスクを切り替える条件(Voluntary switching)

右の図が、実験者によってタスクを切り替えるように指示される条件(Cued switching)です。

白の棒グラフが、同じタスクをする場合。

ねずみ色の棒グラフが、タスクを切り替えた場合です。

すると、自分で自ら自発的にタスクを切り替えた条件でも、ねずみ色の棒グラフが上に来ていて反応が遅いことが分かります。

指示された時とそれほど変わりません。

スイッチングコストは、他人の指示だけではなく、自分でタスクを変える場合でも生じるのです。

なので、仕事ではできるだけ同じ仕事やタスクに集中して取り組む方がいいでしょう。

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タスクに法則性があるとタスクの切り替えはスムーズにいく。

Dreisbach et al. (2006)は、「動物かそうでないか」という課題と「単語が子音で始まるか母音で始まるか」という課題を混ぜて、課題を行うごとに法則性が見えるようにしていく実験をしました。

例えば、課題を進めるごとに、「家具」という法則性が浮かび上がるという具合にです。

すると以下のようになりました。

task switching implicit

縦軸が、反応速度。

横軸が、課題の試行数です。

黒がタスクの切り替えをする条件。

ねずみ色が切り替え無し条件です。

すると、課題が進み、法則性が表れるようになるにつれて反応速度が速くなっていきます。

特に、タスクの切り替えなし条件ではそれほど変わりませんが、タスクの切り替えを行う条件では、反応速度が顕著に早くなっています

このように、切り替えたタスクにも何らかの法則性があればスイッチングコストは下げられます

類似性のある課題や仕事をまとめてすると余計な時間がからずできるでしょう。

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タスクが最初のものと合致しているとスイッチングコストは減少する。

次に、興味深いのが、タスクの切り替えをしても、最初にやったタスクや仕事と同じタスクや仕事に切り替えた時にスイッチングコストが減少することです。

Arrington et al. (2010)は、タスクを切り替えた時に最初のタスクに合致した条件(Match)と最初のタスクと別のタスクに切り替えた時(Nonmatch)のふたつの条件を比較しました。

すると結果は以下の通りです。

task switching match

数字は、反応速度です。

縦軸は、タスクの切り替えをする条件(Task switch)と同じタスクをし続ける条件(Task repetition)を表します。

MatchとNonmatchは、先ほどの説明通りです。

すると、タスクを切り替えた時の方が反応速度が遅いのはもちろんですが、NonmatchよりもMatchの方が反応速度が速くなっています

つまり、最初にやった課題と合致した課題に切り替えるときに反応速度は速くなります。

仕事でもタスクでも、一度やったものほど切り替えたときにスムーズにできるようになります。

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③タスクの切り替えの脳内メカニズム

前章まででスイッチングコストがいかに厄介なのかがわかります。

タスクを極力切り替えない方がいいですが、それは現実的ではありません。

そのスイッチングコストを減らすために、タスクの切り替え時の脳内メカニズムも解明されつつあります。

Sohn et al. (2000)は、これまでと同様にタスクを切り替える課題(switch)とそうでない課題(repeat)を混ぜて、さらに課題を始める前に「タスクの切り替えがあります」と予め知らせる時(foreknowledge)と知らせがない時(no-foreknowledge)とを比べました。

この時に、fMRIを用いて脳活動も調べています。

すると結果は以下の通りです。

task switching foreknowledge

縦軸が反応速度。

横軸がタスクの切り替えがあるかどうかです。

紫が知らせが無い時、

青が知らせがある時です。

すると、明らかに、知らせがある時の方が反応速度が速いです。

また、これまでと同じように、タスクを切り替える時の方が反応速度が遅いです。

この時の脳活動が以下の図です。

task switching brain activation

左の脳の図のように、前頭葉頭頂葉が黄色く光っています。

右図はタスクごとの脳活動です。

重要なのは、色の違いです。

つまり知らせがある方が無いよりも活動が高くなっています。

また、タスクの切り替えが無い時よりも切り替えがある時の方が活動量が多いです。

つまり、スイッチコストは、前頭葉の活動と頭頂葉の活動が必要であることがわかります。

前頭葉は、マルチタスクの記事「仕事の作業効率を上げるマルチタスクの心理学・脳科学:マルチタスク能力の向上法」でもご紹介しましたが、タスクの管理に必要な脳部位。

頭頂葉は、注意を別のものに移すことなどにも関わるので、タスクの切り替えに必要なのも納得できます。

さらに、やったことのあるタスクと合致した場合の脳活動も調べられています。

それが、Dreher & Berman (2002)です。

タスクがABCの三つあったとすると、ABAのように最初にやったタスクと合致する条件とABCのように初めてするタスクにシフトする条件と二つ用意して脳活動を調べました。

すると、以下のようになりました。

task switching match nonmatch

重要なのは、下図Bです。

左の図を見ると、ABAよりもABCの方が不思議と反応速度が速くなっています

その他は無視で結構です。

一見さっき②でご紹介した研究と整合性がとれないように思えますが、実は違います。

この研究では、三つごとに課題の変化を見ていますので、いつ切り替えをするかわからない②の時よりも、課題の種類も課題の切り替えタイミングも分かります。

なので、若干早くなっています。

Dreher & Berman(2002)は、同じ課題に切り替えるABAの時に、過去にやった同じ課題の記憶が邪魔をすると考えています。

では脳活動はどうでしょうか?

task switching prefrontal

この図も同様に前頭葉の活動が赤く光っています。

後頭葉の活動も見られますが、これは課題の違いでしょう。

他にも、タスクを切り替えたその瞬間の脳活動も記録しています。

task switching ACC

この領域は前帯状回(ACC)と呼ばれる領域です。

過去の記事「神経科学(脳科学)により明らかになった仲間外れにされた人の心の痛み―社会的痛み(Social Pain)の研究序説」でもご紹介した領域です。

三つの連続するタスクの内、最初に切り替えた時の活動が高いことが下の折れ線グラフから見て取れます。

Firstが最初、Secondが二番目、Thirdが三つ目の課題です。

つまり、タスクの切り替えで時間がかかるのはこの前帯状回が関係していることが分かります。

前帯状回は、葛藤や二つのタスクでの選択などにも関わる領域です。

スイッチングコストは、まさにタスク間の葛藤。

なので、前帯状回の活動が見られます。

このように、脳内メカニズムが解明されると、スイッチングコストを極力なくせるような日がくるかもしれません。

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④まとめ

以上より、タスクの切り替えやスイッチングコストについて見てきました。

まとめると以下のようになります。

  • タスクの切り替えは切り替えない時と比べて反応速度が落ちる。
  • タスクの切り替え時に反応速度が遅くなる現象を「スイッチングコスト」と言う。
  • スイッチングコストには年齢差があり、20~30代で最も減少する逆U字型を描く。
  • スイッチングコストは、自発的にタスクを切り替える時にも生じる。
  • タスクに法則性があれば、スイッチングコストは減少する。
  • 前にやったタスクと同じタスクに切り替える時、スイッチングコストは減少する。
  • タスクの切り替えの脳内メカニズムとして、前頭葉が重要。
  • スイッチングコストには、前帯状回(ACC)が重要。

急にやっているタスクから別のタスクに切り替えるのは、効率が悪くなります

できるだけ、同じタスクに集中できる環境を整えるか、上記でご紹介したようにタスクを変えるかする工夫は必要でしょう。

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参考文献

Arrington et al. (2010). Stimulus-Based priming of Task Choice During Voluntary Task Switching, Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition, 36(4), 1060-1067.

Cepeda et al. (2001). Changesin Exective Control Across the Life Span: Examination of Task-Switching Performance. Developmental Psychology, 37(5), 715-730.

Dreher & Berman (2002). Fractionating the neural substrate of cognitive control process. PNAS, 99(22). 14595-14600.

Dreisbach et al. (2006). Implicit Task Sets in task Switching? Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition, 32(6), 1221-1233.

Sohn et al. (2000). The role of prefrontal cortex and posterior parietal cortex in task switching. PNAS, 97(24), 13448-13453.

Yeung (2010). Bottom-Up Influences on Voluntary Task Switching: The Elusive Homunculus Escapes. Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition, 36(2), 348-362.

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