・周りの音やノイズによって集中力が切れる。
・集中力を高める方法はあるのか?
個人的に、心理学をしていて他人に質問される上位が集中力に関するものです。
勉強やお仕事だけではなく、趣味への没頭や他人の話に集中できるかなど仕事とプライベートに関わります。
物事に集中できるかどうかは人生の幸福度に関わると言っても過言ではありません。
そのため、どのようにして集中力を高めたり維持したりするのかは大きな課題です。
今回は、集中力が優れている人を対象にした脳科学の研究から、集中力が高い人や集中力が持続する人の特徴と脳内メカニズムを紹介します。
本記事では以下のことが学べます。
2. 集中力が高い人は集中力に関する脳領域の活動が高いのか?それとも別の能力と脳領域が関わるのか?
3. 高い集中力のメカニズムと理由
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①集中力が続かない原因はタスクと関係のない刺激によって注意が逸れるから。
集中力には二つあります。
一つは、同じ物事に集中力を全て捧げること。
もう一つは、同じ物事に集中するためにそれ以外のことを無視できることです。
集中力が高い人はどちらが優れているのかを調べた研究があります。
それが、Zanto & Gazzaley (2009)の研究です。
彼らは、下図のドット(●)の色とドットが動く方向が変化する動画を見せて、片方(色 or 動き)か両方を覚えさせる研究をさせました。
課題には、色だけに注目させる条件(Remember Color Ignore Motion)、動きだけに注目させる条件(Remember Motion Ignore Color)、両方に注目させる条件(Remember Both Color & Motion)の三つが用意されています。
その時に、頭に電極を着けて脳活動を測る脳波測定もして、課題成績の優劣に影響する脳のメカニズムを調べました。
結果としては以下の図のようになりました。
上の図は、ドットの動きを認識した場合の課題成績による脳活動の違いを示しています。
図Bを見てください。
これは、課題成績によって脳活動量が異なることを示しています。
Highは成績の高い人で Lowは成績の低い人を指します。
明らかに脳活動量が異なりますね。
この脳活動の違いは、図Aの左側の山なりがドットの動きで差が出る波形部分です。
下の図は、ドットの色を認識した場合の課題成績による脳活動の違いを示しています。
図Dも同様に、成績が高い人の方が活動量が高いです。
図Cの谷間の最初がドットの色で差が出る波形部分です。
成績が高い人と低い人で、脳波の波形に差が出ることは分かりました。
では、このことは何を意味するのでしょうか?
それを示しているのが、下の図です。
この図は、ドットの色か動きかどちらかを指定されて、指定された刺激の脳活動と指定されていない無視するべき刺激の脳活動を調べた結果を示しています。
上半分の図がドットの動きを覚えるように指定された場合で、下半分がドットの色を覚えるように指定された場合です。
左半分が指定された刺激に注意を集中した場合で、右半分が指定されていない無視するべき刺激で反応する場合です。
薄いねずみ色は成績が高い人で、濃いねずみ色は成績が低い人です。
するとまず、指定された刺激に集中した場合の脳活動は、成績の高い人でも低い人でも差がありません。
しかし、指定されない無視するべき刺激の脳活動では、〇で記されているところが成績が高い人と低い人とで差が出た部分です。
両方とも、成績が高い人の方が低い人と比べて真中の0に近く、極端な値をとっていないことがわかります。
つまり、課題と関係のない刺激に脳があまり活動していないことを示しています。
なので、集中力が高い人は、一点集中のエネルギーがすごいのではなく、集中しなくてもよい無視するべきノイズに集中力が削がれない人だと言えます。
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②集中力の高い人と低い人の決定的な違いもノイズに注意が逸れないこと。
先ほどの研究では、その場の課題成績が高い人と低い人とで比べた研究でした。
しかし、集中力は結構研究されていた、実際に集中力が高い人と低い人を分けて比べた研究もあります。
ゲームが得意な人 VS ゲームをあまりしない人
一つ目は、ゲームが得意で集中力が優れている人とそうでない人を比べた研究です。
Mishra et al. (2011)は、ゲームが得意な人とゲームをあまりしない人に、以下の図のようなアルファベットと数字が連続して呈示される実験をさせました。
この図では、上・右・左でアルファベットが一つずつ呈示されます。
どの方向に注意を向けるかを指示されて、その方向でアルファベットの中に数字が途中で呈示されます。
後にその呈示された数字を報告するという課題です。
これを、テレビゲームが得意な人とそうでない人とで比べています。
結果は以下のようになりました。
この図は、ゲームが得意な群とあまりしない群との課題成績と反応速度の差を示した図です。
図Aは、課題成績を示します。
横軸の、8.8Hzや12.2Hzは課題の提示速度を示し、課題の難しさを意味します。数字が大きいと提示速度が速く、難しいです。
黒がゲームが得意な人で、ねずみ色がゲームをあまりしない人です。
すると、どの難しさでもゲームが得意な人の方が成績が良いことが分かります。
図Bは、反応速度を示します。反応速度は下にいくほど速いことを示します。
すると、どの難しさでもゲームが得意な人の方が反応速度が速いです。
この時の脳活動を脳波を使って測定しています。
その結果が下図です。
こちらは、集中力や注意機能が関係する頭頂葉から後頭葉までの頭の後ろの方の脳の活動を示しています。
図A(8.8Hzの課題が簡単な方)も図B(12.2Hzの課題が難しい方)も、左側がゲームが得意な人の脳活動で、右側がゲームをあまりしない人の脳活動です。
一番上の図は、指定された方向に集中した時の活動を示します。
しかし、ゲームが得意な群でもしない群でも、注意を集中することに関しては脳活動に有意な違いは見られません。
真中と下の図は、指定された方向とは異なる刺激での脳活動です。
すると、ゲームが得意な人はゲームをあまりしない人よりは、活動量が低くなっています。
つまり、ゲームが得意な人は、指定されていない無視するべき刺激に脳が反応していないことを示します。
こちらも、最初の実験と同様に集中力が高い人であるゲームが得意な人は、関係のない刺激に集中力が削がれないと言えます。
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瞑想の達人 VS 瞑想素人
最後は、瞑想の達人と素人を比べた研究です(Brefczynski-Lewis et al., 2007)。
どちらの人にも瞑想をさせ、瞑想中にいろいろな刺激を与えて、その時の脳活動を調べています。
瞑想に集中できているかどうかですね。
早速結果ですが、以下の図のようになりました。
この図は、瞑想の達人と素人がドットが動く動画を見ながら瞑想に集中しているときの脳活動の差を示しています。
オレンジの部分は達人での活動が大きい領域で、青が素人で活動が大きい両雨域です。
すると、前頭葉の内側の部分や前帯状回など注意が逸らされる時に活動する脳領域の活動が素人で見られます。
なので、瞑想の素人はドットの動きにつられて集中力が途切れています。
他には、赤ちゃんの声などポジティブな音や女性の叫び声などネガティブな音を聞かせた時の脳活動も調べています。
この図のA・B・D・Eが、素人よりも達人で脳活動が下がる部分です。
AとBは注意が逸らされる時に活動する領域で、DとEはネガティブ感情で活動する領域です。
すると、図Cのように、どの脳領域でも瞑想を修行すればするほど脳活動が下がるという結果でした。
つまり、注意が逸らされる時に活動する脳領域の活動が低くなり、あまり注意が逸れないことを意味します。また、ネガティブ感情で活動する領域の活動も低くなり、ネガティブ感情も少なくなると解釈できます。
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③まとめ
以上より、集中力が高い人の脳科学について見てきました。
まとめると以下のようになります。
- 集中力が高い人は、集中力を一点集中させる能力が優れているわけではない。
- 集中力が高い人は、注意が逸らされる刺激に左右されにくい。
- 集中力が高い人は、注意が逸らされた時に活動する前帯状回の脳領域の活動が低い。
今回のお話で大事なのは、集中力が高い人は、集中力の大きさや持続時間ではなく、集中力を切らすような関係のない刺激やノイズに影響されない人だということです。
あるいは、そんなノイズの影響を抑えられる(コントロール)できる人でもあります。
集中力が続かない原因としては、この関係のない刺激やノイズに影響された時だと言えます。
集中力を高める方法として、あくまでも仮説ですが、まずは自宅やオフィスなど周りの環境をノイズが生まれないように整えるか、ノイズがある環境でも耳栓などをして対策を打つことかなと思います。
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参考文献
Brefczynski-Lewis et al. (2007). Neural correlates of attentional expertise in long-term meditation practitioners. PNAS, 104(27), 11483-11488.
Mishra et al. (2011). Neural Basis of Superior Performance of Action Videogame Players in an Attention-Demanding Task. Journal of Neuroscience, 31(3):992–998.
Zanto & Gazzaley (2009). Neural Suppression of Irrelevant Information Underlies Optimal Working Memory Performance. Journal of Neuroscience, 29(10):3059–3066.
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