・こだわりの強い人はなぜなかなか学習しないのか?
・お年寄りになると頑固になるのか?
世間にはこだわりが強い方がいます。
特に職人さんやプロスポーツ選手のように、何かに特化した人ほどこだわりが強いイメージがあります。
しかし、こだわりは頑固さでもあり、自分の考えに固執して周りを困らせることもあります。
何度も同じことしたり、自分の言動を変えない。
このようなことで悩まれているのが、自閉症スペクトラム障害(ASD)者です。
彼らはコミュニケーションや社会的相互作用の困難さで知られていますが、実はこだわりも診断基準の核なのです。
今回は、ASD者の研究を参考にして、こだわりのメカニズムを紹介します。
本記事では以下のことが学べます。
2. こだわりの脳内メカニズム
3. こだわりと学習能力との関係
4. こだわりと年齢との関係
- 目次
- ①こだわりの強い人は行動を抑制することと行動を変容することが苦手:ASDの脳内メカニズムから。
- ②こだわりの強い人はなかなか新しく学習するのが苦手:自閉症スペクトラム障害者の学習の研究から。
- ③まとめ
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①こだわりの強い人は行動を抑制することと行動を変容することが苦手:ASDの脳内メカニズムから。
こだわりと聞くと、何かモノや意見や行動に固執するイメージがあります。
同じようなことばかりしてなかなか別のことをしなかったり、それをせずには次の行動に移れない人がいます。
精神医学的には、自分の仲でのこだわり行動をしないと別の行動に移れず、他人とトラブルになると少し心配になります。
このように、こだわりの強さが、今行っている行動を抑制して、別の行動に移ることを難しくしてしまいます。
このメカニズムを研究したのが、Solomon et al. (2014)です。
彼らは12歳~18歳までの青年期の健常者と自閉症スペクトラム障害(ASD)者を対象に以下の実験を行いました。
この図が実験課題です。
最初に「+」が提示され、次に緑か赤のどちらかが呈示されます。
一定時間後に、矢印が示されます。
この時、先ほど呈示された色が緑であれば、矢印の方向のボタンを押します。
一方、赤であれば、矢印と反対方向のボタンを押すという課題です。
特に、赤の場合、行動を抑制してから行動を切り替える能力を必要とします。
12~15歳を若い群、16~18歳を年上群に分けて研究しており、その行動結果が以下の図です。
この図は、縦軸が誤答率で、左半分が赤色が呈示された時で右半分が緑を呈示された時です。
棒グラフが高いほど、よく間違えていることを示します。
濃い紫が若いASD群、赤が年上のASD群、黄色が若い健常者群で、薄い青が年上の健常者群です。
すると、年齢に関係なく、呈示された色が赤の場合、自閉症スペクトラム(ASD)群の誤答率が健常群と比べて高いことがわかります。
つまり、こだわりの強いASD群は行動を抑制して別の行動に移るのが苦手なのです。
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脳内メカニズム
Solomon et al. (2014)は、さらに脳内メカニズムも調べています。
その結果が以下の図です。
この図の右下の脳画像とグラフをご覧ください。
右下の画像は、自閉症スペクトラム障害者(ASD)群より健常者で活動が上がった領域を示します。
つまり、こだわりの強いASD群で活動が低かった脳部位です。
図を見る限り、前頭葉・頭頂葉・前帯状回(ACC)の領域がASD群であまり活動していません。
これら三つの領域は、行動をストップすることに関係する領域です。
こだわりが強い人は行動を抑制するのが苦手だというのがわかります。
また、この研究では、12~15歳を若い群、16~18歳を年上群と分けて研究しています。
若い群と年上群で前頭葉と前頭葉の内側の領域である前帯状回(ACC)の脳のつながり具合が異なることが示されています。
それが以下の図です。
この図の上下とも同じで、前頭葉とACCとの間の脳のつながりの強さを示しています。
赤がASD群で青が健常者群です。
左側が若い群で、右側が年上群です。
すると、青の健常者では、年齢によって脳のつながり具合に違いはみられませんでした。
しかし、ASD群では、年上群の方が年下群よりもつながり具合が強くなっています。
別の表現をすると、若い群の方が年上群よりも脳のつながり具合が弱いのです。
これが何を意味しているのかは、次のグラフでわかります。
この図は、誤答率と脳のつながり具合の関係を示しています。
縦軸が誤答率で、横軸が前頭葉とACCとのつながり具合の強さです。
すると、赤のASD群でも緑の健常群でも、右下がりの傾向を示しています。
これは、つながり具合が強いほど、誤答率が低くなっていることを意味しています。
まとめると、こだわりの強い自閉症スペクトラム障害(ASD)者は、今やっている自分の行動を抑制し、行動を変容することが苦手なのがわかりました。
そして、脳内メカニズムとして、前頭葉と前帯状回(ACC)との活動がASD群で低いことも示されました。
ただ、前頭葉とACCの活動の低さは、両者の脳領域のつながりの弱さと関係があります。
こだわりのメカニズムが少しわかってきたような気がします。
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②こだわりの強い人はなかなか新しく学習するのが苦手:自閉症スペクトラム障害者の学習の研究から。
こだわりが強いということは、古い考えや自分が過去に学んだことに固執する傾向がありあります。
それゆえ、新しく学習することが苦手だということが研究で示されています。
Crawley et al. (2020)は、健常者と自閉症スペクトラム障害(ASD)者に、以下の学習課題を行わせて、こだわりと学習の関係を調べました。
この図は、一連の学習課題の流れを示しています。
実験参加者は、二つの三本線の束のどちらかを選択します。
選択した束が正解であれば真中の顔が緑の笑顔になり、次の選択に移ります。
不正解だと、赤く怒った顔になり、正解を選ぶまで次の課題に移れません。
この一連の流れを繰り返して、どのパターンが正解なのかを学習していきます。
しかし、課題が半分終わったところで、これまで正解だったものが不正解になり、不正解だったものが正解になる反転学習を行わせます。
つまり、前半で学んだ逆のパターンが後半で正解になる課題をして、新しいパターンに切り替えて学習できるかを調べているのです。
この時、子供、青年期、大人の三つの群の学習成績が以下の図になります。
上の図Aは、子供(Children)、青年期(Adolescents)、大人(Adults)のそれぞれの群別での学習成績を示しています。
縦軸が正答率で、横軸が試行回数です。
41番目から反転学習が行われます。
赤が自閉症スペクトラム障害(ASD)群で、緑が健常群です。
少し年齢で傾向が違いそうでし、ASD群と健常群でも異なりそうです。
下の図Bが、全ての正答率を示しています。
左半分が前半の学習時で、右半分が後半の反転学習の時です。
左から、子供、青年期、大人をそれぞれ示しています。
すると、二つのことが見て取れます。
1) 年齢が上がるにつれて、成績が良くなる。
2) 自閉症スペクトラム障害者(ASD)よりも、健常者の方が成績が良い。
つまり、こだわりの強いASD者は学習が苦手であることがわかります。
さらに、図Cは後半の反転学習の時に、反転学習前に正解だった選択肢を正解だと間違えてしまうことを示しています。
年齢に関係なく、ASD群の方が前に学習したことに固執していることがわかります。
このように、こだわりの強い人は学習自体が苦手で、さらに新しく学習するときに以前学習したことに固執する傾向があります。
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年齢とこだわり
ちなみに、先ほどの研究で、年齢が高くなるほど学習率が高くなることを示しました。
実は、こだわりの強さも年齢が上がると弱くなることが示されています。
Esbensen et al. (2009)は自閉症スペクトラム障害者(ASD)を対象にこだわりの強さが年齢とともにどう変わるかを調べました。
すると以下のような結果になりました。
図の縦軸がこだわりの強さで、横軸が年齢です。
年齢が上がるにつれて、こだわりの強さが下がっているのがわかります。
実線が知的障害を伴う人も含めた結果で、点線はIQが正常範囲の人のみの結果です。
世間ではお年寄りほど頑固でこだわりが強いイメージがあるので少し意外かもしれませんが、年齢を経る度にこだわりは弱くなります。
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③まとめ
以上より、自閉症スペクトラム障害者(ASD)の研究からこだわりについて見てきました。
まとまると以下のようになります。
- ASDの研究から、こだわりの強い人は行動の抑制が苦手。
- ASDの研究から、こだわりの強い人は別の行動に移行するのが苦手。
- こだわりの脳内メカニズムは、前頭葉・頭頂葉・前帯状回(ACC)の三つの領域が重要。
- 特に、前頭葉とACCのつながり具合が、行動をストップすることに重要でこだわりと関係する。
- ASDの研究からこだわりが学習の困難さと関係する。
- こだわりが強い人ほど、以前に学習したことに固執する。
- 年齢が上がるほどこだわりは弱くなる。
こだわりの研究はあまりなく、自閉症スペクトラム障害者を通して推し量る研究が多いです。
しかし、こだわりが強くてトラブルになることは日常で結構あります。
一つだけ注意することは、こだわりが悪い訳ではないということです。
自分の価値観や大切なものにこだわるのは誰しもあることです。
ですが、自分と異なる他人の意見や新しいものを受け入れることも人生には必要であり、こだわりを一旦手放すことも必要です。
その辺の取捨選択ができるようになると人生はもっと生きやすくなるかなと思います。
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参考文献
Crawley et al. (2020). Modeling flexible behavior in childhood to adulthood shows age-dependent learning mechanisms and less optimal learning in autism in each age group. PlOS BIOLOGY, 18(10): e3000908.
Esbensen et al. (2009). Age-related Differences in Restricted Repetitive Behaviors in Autism Spectrum Disorders. Journal of Autism and Developmental Disorders 39(1), 57-66.
Solomon et al. (2014). The Development of the Neural Substrates of Cognitive Control in Adolescents with Autism Spectrum Disorders. Biological Psychiatry 76(5), 412-421.
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