近年、児童虐待やドメスティック・バイオレンス(家庭内暴力, DV)で児童相談書に相談したのに、相応の対応を取ってもらえず命を失った子供の報道が相次いでいます。
このようなニュースが流れる度に憤りを覚えますが、ニュースで流れるケースはほんの氷山の一角です。
児童虐待を含めたドメスティック・バイオレンスの被害者は、世界中を含めると何千万人もいると言われています。
日本でもまだ表に出ていないドメスティック・バイオレンスの被害を受けている子供が大勢いると予想されます。
児童相談所へ相談することは、上記のことも踏まえて躊躇してしまうかもしれません。
しかし、一刻も早くドメスティック・バイオレンスの被害から守るために誰かに相談するべきです。
ドメスティック・バイオレンスは、現在だけでなく将来的にも子供に悪影響を与えるからです。
今回は、ドメスティック・バイオレンスの被害を受けた子供の発達上の影響について、心理学のエビデンスをご紹介します。
なお、今回ご紹介する研究は少し古いモノばかりですが、比較的信頼性の高い研究をご紹介したいと思います。
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①ドメスティック・バイオレンスの被害は抑うつ傾向を生む
ドメスティック・バイオレンスの直接的な影響を大々的に調査したのが、Sternberg et al. (1993)の研究です。
彼らは、110もの家庭を対象に質問紙調査とインタビューを行いました。
その中で、ドメスティック・バイオレンスの被害者として、以下のグループ分けを行いました。
①子供のみがDVを受けている場合
②DVを振るう人のパートナーがDVを受けている場合(つまり、子供側からするとDVを目撃している場合に当たる)
③DVを受けていてかつDVを目撃している場合
この三グループとドメスティック・バイオレンスのない普通家庭の子供との比較研究を行いました。
いずれも年齢や男女比率等の変数を統制しています。
その結果が、下図になります。
この図から、ドメスティック・バイオレンスを受けている方がDVを受けていない比較群(comparison)と比べて、うつ病傾向を測る指標(CDI)で数字が大きくなっていることが読み取れます。
つまり、ドメスティック・バイオレンスに何らかの形で関わっている子供は抑うつ傾向を示すのです。
上記の3グループ別に示したのが、下図になります。
この図で重要なのが、DV被害のない比較群と比べて、上記のどのDVグループ(child=①, spouse=②, abused witness=③)でも抑うつ傾向が高いことです。
子供は、ドメスティック・バイオレンスを受けるだけではなく、目撃するだけでも抑うつ傾向が高くなるのです。
ドメスティック・バイオレンスは、子供の感情や情緒面において悪影響を及ぼします。
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②ドメスティック・バイオレンスは子供の知能(IQ)にも悪影響
先ほどは感情面の話をしましたが、今度は知能(IQ)の話をします。
IQは、感情面と同様に日常生活を送る上でも大切な能力です。
また、現在の生活だけではなく、将来的な成功などにも関わる重要指数とでもいえます。
つまり、認知面の問題が生じるという研究を行ったのが、Koenen et al. (2003)です。
彼らの研究は、双子を実験参加者とし、遺伝的影響や環境的影響なども統制してIQとドメスティック・バイオレンスとの直接的な関係性を示しました。
この図では、縦軸がIQの高さ、横軸がドメスティック・バイオレンスのひどさを表しています。
右に行くほどドメスティック・バイオレンスがひどいことを意味します。
つまり、DV被害がひどくなるほどIQが低くなるという衝撃的な結果です。
この研究の重要な点は、IQに影響を与える様々な要因を統制した上で、ドメスティック・バイオレンスとの関係性を示しているところです。
この図が、まとめの図になります。ドメスティック・バイオレンスはIQにマイナスの影響を与えていることがわかります。
遺伝(A)と環境(CとE)が知能にプラスの影響を与えていることが見て取れます。
ドメスティック・バイオレンスは、全体的な影響の3.8%を占める程度ですが、環境や遺伝要因を加味してもこれだけの影響力があることを強く示しています。
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③ドメスティック・バイオレンスの感情面への影響
最後に、補足ですが、ドメスティック・バイオレンスの感情面の影響については結構研究されています。
その中で、多くの研究を集めて分析し直すメタ分析の研究も行われています。
メタ分析は、エビデンスの中でも根拠としてもっとも信頼性の高い研究です。
メタ分析の詳しい説明は次の記事です。「メタ分析とは何か?心理学論文から見るメタ分析の方法と限界」
Davies et al. (2008)は、①の研究と整合的な結果を見出しました。
なので、感情面では、上記の結果は比較的信頼性が高い結果であると解釈できます。
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④まとめ
以上より、ドメスティック・バイオレンスは、子供の感情面にも認知面にも悪影響を及ぼすことが判明しました。
これらの影響を緩和あるいは無くすためにも、一刻も早い解決が望まれます。
解決には、まず児童相談所等への相談が先決です。
家族だけではなく、周りの人も、子供の将来のために警察や児童相談所へ相談しに行くことも考えた方がいいかもしれません。
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参考文献
Davies et al. (2008). Exposure to Domestic Violence: A Meta-Analysis of Child and Adolescent Outcome. Aggression and Violent Behavior.
Koenen et al. (2003). Domestic violence is associated with environmental suppression of IQ in young children. Development and Psychology, 15, 297-311.
Sternberg et al. (1993). Effects of Domestic Violence on Children’s Behavior Problems and Depression. Developmental Psychology, 29(1), 44-52.
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