・なぜ勉強をした方がいいのでしょうか?
・今の時代は検索すれば何でも調べられるから、知識なんて意味ないのでは?
このような疑問をお持ちの方は多い。
私も大学生の時、勉学に勤しんでいたら、同期の人に同じようなことを言われました。
現在、日本では勉学をする人は減少しています。
大学生を対象にした調査によると、一週間で勉強時間が0時間の人が大半を占める。
知識は社会的に生きていくうえでの基本であり、知識を持つことで新しい発想やイノベーションが生まれます。
それ以外でも、知識や多くの記憶を持つことには様々な効果があります。
そこで今回は、知識や記憶を持つことによる脳科学的なプラスの効果についてご紹介します。
意外と「そんな恩恵もあるの!?」という事実があります。
本記事では以下のことが学べます。
2. 知識や記憶によって注意力が上がる。
3. 知識や記憶により理解力が上がる。
4. 知識や記憶の研究の現状
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①知識や長期記憶を蓄えると脳の体積が向上する。
私たちは日々勉強しています。
社会人になれば、日々勉強することも仕事の一つです。
では、知識や勉強をすることで得た記憶によって脳に変化が起こるのでしょうか?
それを調べたのが、Draganski et al. (2006)です。
彼らは、試験前の大学生の脳の構造を撮像し、さらに試験直後と試験後三か月後にまで脳構造の撮像を行い、勉強により知識を得た時の脳構造の変化を捉えました。
その結果が以下の図です。
図Aの右上の領域を見てください。
この領域は側頭葉と頭頂葉の間の領域です。
脳の情報の統合領域でもあり、記憶と聴覚の情報や視覚と聴覚の情報をまとめる役割を果たしています。
この脳領域の(灰白質の)体積が増大していることがわかります。
図C1はその体積の増加を時系列推移で表しています。
縦軸が体積の量。
横軸が時系列で、1が試験前、2が試験直後、3が試験後三か月です。
すると、試験前と試験直後とでは後者の方が有意に体積が増大しています。
つまり、知識を得たことで脳構造が変化したのです。
残念ながら、三か月後まで増大はしませんでしたが、三か月後までもこの増大した状態は続いています。
図Bは、いわゆる海馬と呼ばれる領域です。
ここでも体積の増大が見られます。
海馬は、記憶する時にも記憶を思い出す時にも重要な領域です。
しかし、記憶の貯蔵庫ではありません。
あくまで、記憶の促進を行う領域です。
その領域での体積増加の推移が図C2です。
図C2を見ると、「試験前<試験直後<試験後三か月」という順番に体積が増大しています。
勉強による知識増大の効果が三か月にもわたって見られます。
このように、勉強により知識や記憶を蓄えることは脳構造の変化をもたらします。
他の研究を考慮すると、脳の体積の増大は認知や物事の処理速度の向上につながります。
知識や長期的な記憶は侮れないです。
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②知識や長期記憶の恩恵①:注意力の向上
次に、具体的に知識や長期記憶を得ることによる恩恵を見ていきましょう。
知識や長期記憶の恩恵については研究が少ないですが、代表的なものに、注意機能の向上が挙げられます。
それを示したのが、Summerfield et al. (2006)です。
彼らは、以下の図のように、絵の記憶をさせて特定の物(鍵)を探す課題と記憶していない絵で特定の物があるかどうかを判断する課題とを比べて、記憶による注意力の恩恵について調べました。
左のMemoryと書いてあるのが、記憶する絵です。
比較のために、鍵がない場合の絵もあります。
実験参加者は、覚えた絵を見て「確かこの辺に鍵があったな」と探索しま(記憶探索)。
一方、右のVisualと書かれてあるのが、記憶していない絵から鍵があるかを判断する課題です(視覚探索)。
比較のために、鍵が全くない課題もあります。
すると、結果は以下のようになりました。
縦軸は、反応速度で、絵が呈示されてから鍵を発見するまでの時間です。
青が記憶に基づいた探索課題で、オレンジが単なる探索課題です。
色の濃い方が、鍵がある場合。
薄い方が、鍵がない場合です。
すると、図Cから、記憶に基づいて探索していて鍵がある方が有意に発見までの時間が短いです。
つまり、注意力を必要とする探索課題で記憶は注意力を促進します。
その時の脳活動が以下の図です。
この図は、先ほどの研究でも登場した海馬という領域です。
記憶に基づく探索では、海馬が恩恵を与えてくれる役割をしています。
海馬と注意に関する脳領域の両方が重要です。
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他方、Stokes et al. (2011)は、この研究をより深掘りし、知覚の促進にも関わることを示しました。
課題は下図にありますように、大体先ほどの研究と同じです。
すると、結果として、図Dのように、記憶に基づく探索の方がより鍵を発見しやすいことが示されています。
この時の、視覚領域の脳活動を見て見たのが、以下の図です。
図Bは視覚野の脳領域を広げた形で示されています。
赤く光っているほど記憶探索で有意に活動していることを示します。
図Cは、領域名ごとに活動量を調べた図です。
この図で*がついているところが記憶探索で有意に活動が見られた領域です。
すると、視覚野の中で、V3やV4という領域の活動が高いことが分かります。
V3やV4は、視覚領域の中でも高次の視覚図形を検知したりする領域です。
つまり、ざっくり言うと、視覚領域の脳活動が促進されて、ものの発見が早くなります。
また、下の図は、注意に関する脳領域と海馬の活動です。
図Aの左側を見ると、頭頂葉や前頭葉の活動が見られます。
特に、黄色く光っている部位が重要です。
左側の黄色く光っている部分は、FEFと呼ばれ領域です。
他方、頭頂葉あたりの黄色く光っている部分はIPSという領域です。
この二つの領域の活動量を見たのが、図Bです。
この図の、左側のCueの部分だけ注目してください。
赤色は記憶探索、オレンジは単なる視覚探索です。
すると、記憶探索の方が、両方の領域で有意に活動が上がっています。
さらに、図Cは海馬の活動量です。
海馬も同様に、記憶探索の方で活動が上がっています。
まとめますと、記憶探索では普通に探索するよりも、より正確にかつ早くモノを発見できます。
その時に活動する領域が、視覚領域(V3やV4)・注意の領域(FEFやIPS)・海馬です。
これらの相互作用で知識や長期記憶の恩恵が説明できそうです。
海馬が重要で、海馬の活動とともに他の活動を促進しているかもしれません。
あくまでも仮説ですが…。
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③知識や長期記憶の恩恵②:前知識が話し言葉の理解力を向上させる。
最後は、知識や記憶があると、話されていることの理解力が上がることをご紹介します。
Sohoglu et al. (2012)は、最初に文字で単語を呈示し、後に音声で単語が発音される課題を用いて前知識があることの恩恵を調べました。
図のように、条件は三つあります。
一つ目が、Match条件で、文字と音声が同じ場合。
二つ目が、Mismatch条件で、文字と音声が異なる場合。
三つ目が、比較のためのコントロール条件(Neutral)で、xxxと提示されて音声が呈示される場合です。
実験参加者は、聞こえにくく加工された音声を聞いて、どの単語が発音されたのかを答えます。
すると結果は以下のようになりました。
図のように、チャンネルの高さは加工した音声の聞こえやすさと関係します。
縦軸が、音がどのくらいよく聞こえたか、つまり正答率を反映しています。
重要なのは、どのチャンネルでも、Match条件が他の二条件に比べて最も聞こえやすいという事実です。
つまり、前知識がある場合、聞こえにくさに関わらず、音声の認識力が上がります。
この時の脳活動を調べた結果が以下の図です。
これは、脳波の活動の推移を表しています。
音が呈示された時が0秒の時点で、その後の脳活動の推移です。
グラフの脳活動は、下の図の⊡で表されている脳領域です。
すると、どの時間点でも、Match条件の脳波の活動が高くなっています。
脳波の研究なので、どの脳領域が重要かは分かりませんが、知識があることで脳活動も増大し、話し言葉の理解力が促進されることがわかります。
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④まとめ
以上より、知識と記憶の恩恵の脳科学について見てきました。
まとめると以下のようになります。
- 知識や勉強により、脳の体積が増大する。
- 特に海馬の体積は、学んだ後三か月でも増大しています。
- 知識や長期記憶は、注意力の向上につながります。
- 特に、視覚野・注意に関する領域・海馬の領域の活動が増大します。
- これらの領域の相互作用によって知識や長期記憶の恩恵が実現されている可能性があります。
- 知識があることで、話し言葉をより理解しやすくなります。
- 脳活動の増大が見られて、今後の研究が必要ではあるが、ご紹介した脳領域の活動と関係する可能性があります。
知識や長期記憶は、バカにはできません。
まだまだ発展途上の研究であり、今のところは注意と理解が向上することしかいえませんが、もっとたくさんの恩恵があると個人的には思っています。
もしかしたら、共感性とかにも関わるかもしれません。
今後の研究が楽しみです。
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参考文献
Draganski et al. (2006). temporal and Spatial Dynamics of Brain Structure Changes during Extensive Learning. Journal of Neuroscience, 26(23), 6314-6317.
Sohoglu et al. (2012). Predictive Top-Down Integration of Prior Knowledge during Speech Perception. Journal of Neuroscience, 32(25), 8443-8453.
Stockes et al. (2011). Long-term memory prepares neural activity for perception. PNAS.
Summerfield et al. (2006). Orienting Attention Based on Long-Term Memory Experience. Neuron, 49, 905-916.
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