・お金持ちになって、モテモテで、欲しいモノ買って…
・貪欲な自分ではなく謙虚な自分になりたい。
ビジネスでは、貪欲であることが重要だと言われます。
確かに、貪欲さがあれば、稼ぐ気になりますし、仕事にも生が出る。
しかし、最近の心理学の研究では、必ずしも貪欲さや強欲さがビジネスでの成功や賃金の向上に関係するとは言えないことが示されています。
このように、貪欲さはビジネスや日常で過大評価されています。
なので、今回は、貪欲が本当に良いのか悪いのか、それを実際の心理学と脳科学の観点から考えます。
貪欲や強欲は個人的に悪くはないですが、損をすることが多いと思われます。
本記事では以下のことが学べます。
2. どのような場合に人間は貪欲になるのか?
3. どうしたら貪欲を抑えられるか?
4. どのようにしたら謙虚になれるか?
5. 貪欲であることは損にも勇敢にもつながる。
6. 貪欲の脳内メカニズム
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①貪欲とは何か?貪欲な人ってどんな人?最新心理学の貪欲の定義!
まず、貪欲とはどんな状態なのでしょうか?
一般的には、何でも欲しがって気が済まないという印象です。
実は、心理学では最近になってようやく貪欲の定義が示されるようになりました。
それを研究したのが、Seuntjens et al. (2014)です。
彼らは、「この言動は貪欲である」という場面を集めて分析し、二つの大きな特徴を捉えました。
それが、
- もっと手にいれたいという願望や欲求
- 十分に手にいれられていないという不満
です。
例えば、大金持ちの人は、今の収入で十分なのに、現状に「不満」を持ち、もっと稼ぎたいという「願望」を持っています。
この定義は、日常の人にも当てはめてみると、結構、的を射ていると思います。
この二つの特徴を持つ人を「貪欲な人」「強欲な人」と呼べそうです。
ちなみに、Seuntjens et al.(2015)は、貪欲指標なんかも作っています。
ご興味があれば是非やってみてください!
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②人間はどんな時に貪欲になるのか?どうすれば謙虚になるのか?
貪欲の定義を見てきましたが、貪欲はあまりイメージが良くありません。
なので、謙虚になりたいという方が多いのではないでしょうか?
まず、どのような時に貪欲になり、次にどうすれば謙虚になれるのかを心理学の研究を基に探ります。
個人ではなく、グループの代表など自分が大きくなった時に貪欲な行動に出る。
個人で自分のための意志決定をする時より、グループで話し合って自分のグループのための意志決定をする時の方がより貪欲になることが示されています。
Insko et al. (1990)は、自分一人で相手と交渉してどのくらいお互いが得する選択をするかの一人条件(Individuals)と複数の仲間の代表として相手と交渉してどのくらいお互いが得する選択をするかのグループ条件(Groups)とを比べました。
その結果が以下の図です。
この図の一段落目に注目してください。
PDGが自分が得た金額です。
PDG-Altとも傾向は同じですので、PDGの方をご覧ください。
すると、相手と競争している状態(一段落目)では、グループ条件の方(Groups)が一人条件(Individuals)よりも、より多く得られる選択肢を取ることを示しています。
他方、相手と協力関係の状態(二段落目)ですが、一人条件の方がグループ条件よりも、より多く得られる選択肢を取ることがわかります。
つまり、競争状態では、グループ代表として自分が大きくなると、貪欲な選択をするようになるということです。
協力状態でも、あまり協力的ではないことを示していますので、グループになると貪欲になりますが、少し利己的になってしまうのかもしれません。
自分が等身大ではなく、必要以上に大きくなると貪欲になると言えます。
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死や自分の限界を意識した時に、人間は謙虚になる。
では、どのようにすれば人は貪欲を抑えて謙虚になることができるのでしょうか?
一つは、先ほどの研究から、等身大の自分に戻って冷静になることです。
もう一つが、「死」や「限界」などを意識することです。
それを意識することで人間が謙虚になることを示したのが、Cozzolono et al. (2008)です。
彼らは実験参加者に、死に関するシナリオを読んで、自分に当てはめた時にどう感じるか(Death)と自分に関連させないようにした時(No Death)の二つの条件を比べました。
この時、貪欲さを質問紙で調べて、貪欲な人(High EVO)とあまり欲がない人(Low EVO)とを分けて分析しました。
すると結果は以下のようになりました。
縦軸は、実際にどれくらい貪欲な行動をしたかを示しています。
横軸で、左が死と無縁な条件で、右が死と関連させた条件です。
点線が、貪欲な人。
傍線が、欲があまりない人です。
すると、図のように、貪欲な人は、死を自分と関連させた時に、貪欲な行動が下がっていることが読み取れます。
一方、あまり欲がない人は、死が関連しているかどうかで変化は見られません。
つまり、貪欲さを抑え、謙虚な行動をするようになるのは、自分の死を意識した時です。
では、死だけなのかというとそうではありません。
それを示したのが、Cozzolino et al. (2009)です。
彼らは、死ではなく、自分のリミットや限界を感じた時に貪欲な行動が抑えられて謙虚になることを確かめました。
実験では、先ほどと同様にシナリオを読んでイメージさせます。
シナリオの内容は、家族でショッピングしたり、夕食を楽しんだりなど日常的な場面です。
二つの条件があり、一方は、「明日」そのシナリオを行うことを想像する条件(open-ended)で、もう一方は、「75歳の時」そのシナリオを行うことを想像する条件(LTP)です。
つまり、75歳というある程度の限界を意識させるかどうかです。
この研究でも、貪欲な人(High EVO)とあまり欲がない人(Low EVO)を分けて分析しています。
結果は以下のようになりました。
縦軸は、先ほどの研究と同様で、どれだけ貪欲な行動をしたか。
横軸は、左があまり欲のない人で、右が貪欲な人です。
点線が、75歳の時を想像させた条件。
傍線が、明日を想像させた条件です。
すると、点線より、自分の75歳の時を想像させた場合、貪欲な人もあまり欲がない人と同様の行動を取るようになることがわかります。
つまり、自分のリミットや限界を実感した時に、貪欲さが抑えられ謙虚になるのです。
この二つの研究を考慮すると、自分の限界を知る者が謙虚であることが頷けます。
また、貪欲は限界しらずなところがあるということです。
自分の欲に溺れる場合、自分の死や限界を意識するようにしたら謙虚になれます。
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③貪欲な人間が勇敢なのに存する理由とメカニズム:強欲の脳科学
貪欲や強欲の定義から、貪欲を抑える方法まで見てきました。
では、貪欲はどのような脳内メカニズムで生じるのでしょうか?
また、貪欲であることは得なのでしょうか?損なのでしょうか?
貪欲は対人関係で損する:返報性の原理がマイナスに作用する例
実は、貪欲な行動を取ると脳科学的にも後々損をすることが示されています。
Hu et al. (2018)は、相手と自分の報酬金額を選択する時に、自分有利な貪欲な選択をする条件と自分と相手が平等になる選択をする条件と相手が得する選択をする条件の三つの選択を相手が行った時に、実験参加者がどのような反応をするのかを調べました。
すると、三つの場合によって以下のような結果になりました。
縦軸は、実験参加者が、相手が得するような寛大な選択をした割合です。
横軸は、条件で、左が実験参加者が損になる貪欲な選択をされた条件、真中が平等な選択をされた条件、右が実験参加者が得をする寛大な選択をされた条件です。
色の違いは、コンピューターか人間かどちらが相手かを示します。
コンピューターでも人間でも同様の結果が出ていますので、省略します。
すると、三つの条件を比べてみると、相手が得して自分が損をする貪欲な選択をされた場合に、実験参加者は相手が得するような寛大な選択をしなくなることが示されています。
実際に、左側の傍線が他の二条件に比べて低くなっています。
つまり、返報性の原理に近いですが、相手が貪欲な選択をしたら、自分も貪欲な選択をする傾向があるということです。
なので、両者win-winになるには、貪欲を抑えて寛大な利他的な選択をするといいかもしれません。
この時の脳内メカニズムが以下の図です。
この図Aで貪欲と関係するのが、オレンジの部分です。
すると、重要そうなのが、前頭葉(PFC)と島皮質(AI)という領域です。
下の棒グラフは、条件ごとの脳活動量を示しています。
例えば、一番左のグラフは島皮質の活動を示しています。
強欲な選択をされたときに、平等な選択をされた時よりも、グラフが上がっています。
つまり、強欲な行動を見ると活動する領域です。
いろんな解釈がありますが、島皮質は嫌な感情と関係すると言われています。
なので、貪欲な行動は、相手を不快にさせていると考えられます。
他にも、一番右側のグラフは、前頭葉を表しています。
前頭葉は様々な脳機能と関係しますが、計算や感情などにも関係します。
もしかしたら、貪欲な行動をされると、嫌な思いをして自分の選択を考え直しているのかもしれません。
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貪欲な人間はよりリスキーな行動を取る:強欲は勇敢なのか?
最後に、貪欲な人間がなぜ貪欲な行動を取るのかを調べた研究をご紹介します。
Li et al.(2019)は、行動経済学の方法を用いて、貪欲な人とそうでない人との選択行動を比べました。
具体的には、ギャンブルというリスキーな行動にでるか安全な選択肢を取るかという課題です。
すると、貪欲さとリスキーな行動との間に次のような関係性が見られました。
縦軸が、リスキーな行動を取った割合。
横軸が、貪欲さを表しています。
右に行くほど貪欲です。
すると、両者の間には、正の相関関係があり、「貪欲なほどリスキーな行動を取る」ことが示されています。
貪欲な人はリスキーな行動を取りやすく、ある意味勇敢なのですよね。
では、なぜリスキーな行動がとれるか?
それを示したのが以下の図です。
この図は、自分が損する選択を嫌う傾向である「損失回避」と貪欲さの関係性を表したグラフです。
縦軸が、損失回避の度合いで、上に行くほど損失回避する安全パイを取る傾向が強いことを示します。
横軸は、先ほどと同様で、貪欲さを示します。
すると、損失回避行動と貪欲さの間には負の相関関係があり、「貪欲であるほど損失回避しない」という結果でした。
つまり、貪欲な人間は損する選択肢をものともしないということです。
貪欲な人間がリスキーな行動を取れるのも、損失回避をしにくいからなのです。
その時の脳内メカニズムが以下の図です。
この図で大事なのは、真中中央の前頭葉の活動です。
黄色く光っているのが分かります。
この領域の活動が、「貪欲であるほど損失回避をしない」ことと関係しています。
前頭葉は、計算や嫌な感情と関わります。
Dのグラフは、前頭葉の損失回避するときの活動と実際の行動の損失回避とが関係していることを示しています。
つまり、前頭葉的には、損失回避したいのです。
損をするのは嫌だと感じていると思われます。
けれども、Eのグラフは、貪欲な人ほど前頭葉の損失回避時の活動が弱くなっていくことを示します。
つまり、一般的には前頭葉は嫌な感情を抱いて損失回避するのですが、貪欲な人は、その活動量が低くなり、損失回避をしないようになるのです。
損をしうるリスキーな行動へのハードルが低い状態とも言えます。
ある意味、貪欲な人は脳科学的に勇敢な側面があるのです。
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④まとめ
以上より、貪欲と強欲の心理学・脳科学的知見を見てきました。
まとめると以下のようになります。
- 貪欲の心理学的定義は、もっと手にいれたいという願望や欲求と十分ではないという不満足な状態の両方があること。
- 人間は、グループの代表など等身大の自分より大きくなると、貪欲な行動に出る。
- 人間は、死や自分の限界を知ると貪欲な行動を抑えて謙虚になる。
- 貪欲な人に対して、相手も貪欲になるため、貪欲は損につながる。
- 貪欲な人は、リスキーな行動にでやすい。
- 貪欲な人は、損失回避をあまりしない傾向にある。
- 貪欲の脳内メカニズムは、前頭葉と島皮質にある。
- 脳内では、貪欲な選択をされると嫌な感情を覚える。
- 貪欲な人間は、嫌悪されるリスキーな選択をするときに、あまり嫌な感情を覚えない。
貪欲は、損失回避をしない勇敢な側面があります。
しかし、他人に貪欲さを見せると嫌われる傾向があります。
むしろ、他人も利己的にさせてしまい、損する可能性が高いです。
これらの研究から私が思うのが、貪欲はあってもいいけど、人には見せてはいけないということです。
もちろん、貪欲は個人の性格でもありますので、完全に消すことは難しいです。
でも、心理学の研究が示すように、死や自分の限界を知ることで貪欲さは抑えられます。
謙虚な人ほど、自身のリミットや限界を理解していることもわかるような気がします。
貪欲という諸刃の剣も使い方しだいです。
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参考文献
Cozzolino et al. (2004). Greed, Death, and Values: From Terror Management to Transcendence Management Theory. Personality and Social Psychology Bulletin, 30(3), 278-292.
Cozzolino et al. (2009). Limited time perspective, values, and greed: Imaging a limited future reduces avarices in extrinsic people. Journal of Research in Personality, 43, 399-408.
Hu et al. (2018). Spreading inequality: neural computations underlying paying-it-forward reciprocity. Social Cognitive and Affective Neuroscience, 578-589.
Insko et al. (1990). Individual-Group Discontinuity as a Function of Fear and Greed. Journal of Personality and Social Psychology, 58(1), 68-79.
Li et al. (2019). Neural mediation of greed personality trait on economic risk-taking. eLife, e45093.
Seuntjens et al. (2014). Defining greed. British Journal of Psychology.
Seuntjens et al. (2015). Dispositional Greed. Journal of Personality and Social Psychology, 108(6), 917-933.
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