・子育てに苦労し、ストレスが溜まります。
・特に発達障害児の子育ての実態を知りたい。
子育ては大変ですが、人生で経験する大きな幸せの一つでもあります。
子育てに苦労は絶えませんし、上手くいかず、ストレスもたまります。
様々な子育てに関する苦労話は聞きますが、発達障害を持つ子供を育てる両親はどのくらい大変なのでしょうか?
過去に、自閉症スペクトラム障害(ASD)児の子育てにかかる経済的負担が様々な国で算出されています。
膨大な額になりますが、心理学的にはASD児を持つ両親の心理的疲労の方が気になります。
今後の支援を考えるにあたって、ASD児の子育てに関わる両親の実態を知ることは不可欠です。
周りの方のサポートが得られず困る方もいらっしゃいます。
今回は、発達障害に直接関わらなくても、是非知っていただきたい内容です。
本記事では以下のことが学べます。
2. 発達障害を持つ子供の両親の心理的苦労とストレス
3. 自閉症スペクトラム障害児の子育ての心理的疲労を軽減する方法
4. 発達障害児を育てるということ
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①自閉症スペクトラム障害(ASD)児の子育てをする親は苦労とストレスが多い。
子育てはそれだけで多くの苦労とストレスが発生しますが、自閉症スペクトラム障害児の場合だとその度合いが定型発達児よりも強いという研究が複数報告されています。
例えば、Smith et al. (2010)は、大人の発達障害の親の研究ですが、定型発達者との比較を行うことで、子育ての大変さを示しました。
その結果が下図です。
この図は、様々な指標で、自閉症スペクトラム障害者(ASD)の親と定型発達者(Comparison)の親の子育てに関する苦労が比較されています。
Positive affectは、ポジティブな感情を抱いている度合いですが、ASDの親は定型発達者と比べて低くなっています。
逆に、Negative affectは、ネガティブな感情ですが、ASDの親の方が高くなっています。
他にも、Fatigue(疲れ/疲労)も、ASDの親の方が高いです。
ASDの子育てをする親は、定型発達者よりも精神的にマイナスになりやすく、疲れもたまりやすいと解釈できます。
下図は、ストレス度合いとポジティブ感情の度合いの関係を示しています。
縦軸がポジティブ感情の強さで、横軸がストレス源の多さです。
紫が自閉症スペクトラム障害児の親で、青が定型発達児の親です。
すると、両者ともストレス源が多いほどポジティブ感情は下がりますが、一貫してASD児の親の方がポジティブ感情が低いことが分かります。
では、どのようなことがストレスになっているのか?
それを示しているのが以下の図です。
これも各指標がストレスの原因を示しています。
一貫してASDの親の方が定型発達の親よりもより高くなっています。
例えば、Argumentsは、子供と口論することを示しますが、ASDの親の方が高いです。
Stress at homeは、家でのストレスですが、それすらもASDの親の方が高いです。
最後に、Network stressは、対人関係上のストレスです。
これは、親戚やご近所との関係上でのストレスで、ASDの親の方が高いです。
発達障害の場合、こだわりが強く、コミュニケーションが苦手なため、ご近所さんや親戚に迷惑をかける場面が多くなるからだと思われます。
しかし、Smith et al. (2010)は、子育ての実態だけではなく、ASD者の子育てをする親にとってストレスが緩和される方法も調査しています。
それを示したのが下図です。
この図は、各指標が支援方法を表しており、*がつく項目が統計的にASDの親にとって助けになる項目です。
重要なのが、Positive network eventとReceived emotional supportの二つです。
まず、Positive network eventは、親戚や学校の先生などつながりのある第三者で良き理解者がいることです。
そして、その良き理解者のもと、ASD者と他の子供や親とで交流があったりすることも含まれます。
重要なのは、理解されて受け入れる状況を作ることです。
それが、自閉症スペクトラム障害者本人にも、親にとっても大変さが緩和されます。
次に、Received emotional supportは、カウンセリングしてもらえたり、相談者がいたりすることです。
親にとって、自分の悩みや困りごとを相談でき、自分の感情を受け止めてくれる存在がいるだけで、ストレスが大きく緩和されます。
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Smith et al. (2010)は、大人の発達障害を持つ親の研究ですが、もちろん子供の発達障害を持つ親の研究もあります。
むしろ、こちらの方が多く研究されています。
Hayes & Watson (2013)は、自閉症スペクトラム障害児の子育てをする親の研究をかき集めて、分析し直す「メタ分析」という方法を使って、ASD児の子育てをする親の大変さを明確化しました。
メタ分析については以下の記事に詳しく書いています。
合わせて読んでいただけると幸いです。
その結果が以下の図です。
この図は、ASD児と定型発達児の親の大変さを比較しています。
数字が大きいほど、ASD児の親の方が子育てに苦労することを物語っています。
一番下の、♰をご覧ください。
1.8となっており、0よりも統計学的に有意に、ASD児の親の方が子育てに苦労されていることが分かります。
また、自閉症スペクトラムと知的障害などの他の障害を持つ子供の親との比較を行ったのが以下の図です。
図の見方は同じで、一番下の♰をご覧ください。
0.6と少しだけのように見えますが、統計学的に0より有意に大きく、ASD児の親の方が、他の障害を持つ親よりも、子育てに苦労されていることがわかります。
以上、二つの研究をご紹介しましたが、自閉症スペクトラム障害を持つ子供を育てることがいかに大変なのかがわかります。
やはり重要なのが、周りの理解であり、子供が何かかんしゃくを起しても笑顔で見守りたいものです。
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②自閉症スペクトラム障害(ASD)児を育てる親のストレスを減らす効果的な方法とは?
先ほどは、ASD児を育てることがいかに大変なのかを見ました。
そこで重要なのが、どのようにすれば子育ての大変さを軽減することができるのか、あるいは、親の立場としてどのように構えれば子育てのストレスが和らぐのかを知ることです。
自閉症スペクトラム障害児を育てる親は仕事よりも子育てを優先すると良い。
当たり前かもしれませんが、ASD児の母親は仕事よりも子育てを優先に考えます。
それを示したのが、Tunali & Power (2002)です。
彼らは、ASD児の母親と定型発達児の母親のワークライフバランスについて調査しました。
その結果が以下の図です。
図のAutisticが自閉症スペクトラム障害児の母親で、Non-autisticが定型発達児の母親の回答です。
統計的に有意差があり、重要な項目が、Importance of job、Importance of parental success、Importance of job in defining life satisfaction、Importance of parenting in defining life satisfactionの四つです。
Importance of jobは、仕事の重要性で、ASDの親<定型発達の親。
Importance of parental successは、子育ての成功の重要性で、ASDの親>定型発達の親。
Importance of job in defining life satisfactionは、生活満足度における仕事の重要性で、ASDの親<定型発達の親
Importance of parenting in defining life satisfactionは、生活満足度における子育ての成功の重要性で、ASDの親>定型発達の親。
つまり、ASD児の親は子育て重視で、定型発達児の親は仕事重視です。
では、子育てをする母親の生活満足度と関連することは何でしょうか?
それが下図です。
この図の*がついている項目が、生活満足度と統計学的に有意に関係する項目です。
左側がASD児の母親、右側が定型発達児の母親です。
すると、ASD児の母親の場合全ての項目で関係性が見出されています。
他方、定型発達児の母親は、Reported understanding of child’s behavior (子供の行動への理解)のみ生活満足度に関係します。
では、他の項目は何か?
Leisure activities with familyは、家族との余暇の過ごし方です。
Rated importance of understanding child’s behaviorは、子供の行動を理解する重要性です。
Rated importance of being a successful parentは、子育てに成功する親であることの重要性です。
つまり、子育てが上手く行くことを重視しています。
重要なのは、この三つです。
まとめると、子供を含めた家族との時間を大事にし、子供の行動を理解し、子育てに成功することに専念することが、ASD児を育てる母親の生活満足度の向上に関係します。
ASD児を育てることは大変ですが、理解を持って家族の時間を大切にし、仕事よりも子育てに力を入れると、生きていることに満足できます。
解釈は複数ありそうですが、ASD児の母親はより子供との何気ない時間を大切にしているのかもしれません。
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自閉症スペクトラム障害者(ASD)の子育て時のいくつかの対処方法とやらない方がいい方法
子育てに関わる苦労ややストレスにどう対処するのかは重要です。
自閉症スペクトラム障害児についてはより苦労やストレスがかかることを見てきました。
その子育て経験から、苦労やストレスへの良い対処法と悪い対処法があります。
それを調べたのが、Hastings et al. (2005)です。
彼らは質問紙を用いて、ASD児の母親と父親の両方でどのようなストレス対処法をとっているのかを調べました。
その方法が、下図の四つにまとめられています。
まず四つの方法についてです。
Active avoidanceは、ストレス源からの逃避です。
Problem-solvingは、計画を立てたり、社会的な支援を受けたりする問題解決的な行動を指します。
Positiveは、子供の問題行動に対してユーモアやポジティブな言葉で解釈し直したりすることです。
要は、認知をネガティブからポジティブなものにすることです。
Religious/denialは、宗教等に救いを求めたりすることです。
後で出てきますが、感情的な拠り所を求める方法の一つです。
これら四つのストレス対処法がASD児の子育てで見受けられました。
この図の重要な点は、どの方法が不安やうつやストレスと関係するかです。
*がついている方法が、統計学的に有意にストレス等に関係しています。
すると、Active avoidance、つまり、現実逃避をすると結局ストレスなどに余計に繋がることが見て取れます。
確かに、子育ては大変です、ましてや、ASD児は定型発達児よりも苦労は大きいでしょう。
しかし、そのような子育ての苦労やストレス源ですらも、ユーモアでポジティブに解釈したり、カウンセリングなどの外部の社会的支援を受けることで緩和することができます。
そして、その方が後々のストレスも低減されます。
「問題行動だ」と思わずに、どんと構えている方が良いのです。
ちなみに、父親も同様の結果を示しています。
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自閉症スペクトラム障害児の子育てで生じるストレスへの対処法は、年齢によって変える方がいい。
最後に、子育てで悩む年齢ごとの対処法についてです。
特に、ASD児の母親が子供の年齢が上がるにつれてストレス対処法を変えていることが示されています。
Gray (2006)は、小学生の頃に始め、中学生になった時まで調査を継続することでASD児の子育てに伴うストレス対処法の推移を研究しました。
一言で言えば、「問題解決的な対処法から感情的な対処法への移行」ですが、その詳細が以下の図に示されています。
First studyは、初めの小学生の頃のストレス対処法を示しています。
特に多いのが、特別支援などの外部の支援機関の活用と家族のサポートです。
つまり、先ほどの研究で言えば、外的支援を求めたりする問題解決的な方法です。
しかし、重要なのが、Follow-up studyの結果との違いです。
こちらでは、子供が中学生に上がった時の対処法を報告しています。
まず、重要なのが、一番下のTotal coping…という欄です。
この欄は、対処法を行った母親の数ですが、First studyよりも少なくなっています。
つまり、子供が大きくなるとストレス対処法を実施する母親が少なくなるのです。
解釈はいくつもありますが、一つは、自閉症スペクトラム障害児の問題行動が少なくなること。
もう一つは、母親が慣れることが考えられます。
個人的には、医療現場と他の多数の論文を見ていると、大人になるにつれて自閉症スペクトラム障害者の問題行動は少なくなります。
そのことから、成長とともにASD児も学んでいて、問題行動が減るのだと思われます。
これは、定型発達児でも同じだと思います。
ASDであれ、定型発達であれ、関係なく学習し成長します。
次に、重要なのが、ストレス対処法の違いです。
特に、Otherという、宗教的な救いを求めたり、他人との交流を求めたりする感情的な対処法に回答する母親が多くなっています。
全体の人数自体が減っているのに、この項目は倍に増えています。
つまり、子供が成長するにつれて、問題解決的な方法ではなく、自分の感情的な対処方法に切り替えるのです。
ずっと、問題解決的な方法を行っていると逆に精神衛生的に辛いのかもしれません。
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③まとめ
以上より、自閉症スペクトラム障害(ASD)者の子育てに関する研究を見てきまいた。
まとめると以下のようになります。
- ASD児は定型発達児よりも、子育てに関わるストレスや苦労が多い傾向にある。
- ASD児への良き理解者がいると子育てへのストレスや苦労が緩和される。
- 良き理解者を見出せるかは子育てにおいて大きい。
- ASD児は他の障害を持つ子供よりも、子育てに苦労する可能性が高い。
- 研究では、ASD児の母親は、仕事よりも子育て優先の方が苦労やストレスは少なくなる。
- その方が生活満足度も高くなる。
- 様々なストレス対処法があるが、現実逃避はしない方がいい。
- 現実逃避は、ストレスだけではなく、不安やうつにも関係する。
- 社会的支援を求めたり、子供の問題行動に対してユーモアやポジティブな解釈をするなど、問題解決的な方法が一般的にストレスや苦労が軽減される。
- しかし、子供が成長するにつれて、問題解決的な方法から自分の感情をいたわる方法へと対処法を変える方が良い。
- ASD児は、成長するにつれて学習し、両親の子育てへのストレスや苦労は減る傾向にある。
個人的な経験ですが、今回ご紹介した研究を考慮すると、ASD児であれ定型発達児であれ、親はどんと構えて何か問題が起きれば笑って過ごせるような態度で臨むのが一番子育てのストレスや苦労が少ない気がします。
ASD児は、小学生辺りまでは確かに苦労は多いかもしれません。
しかし、ASD児も成長するにつれて学習し、何をしていいのか、何をしてはいけないのかが分かってきます。
これも両親の子育ての賜物かはわかりませんが、早期発見と子育て方法の工夫が先決だと思います。
子育てに関してはこれからの研究しだいですが、決して悲観しなくても良いと思います。
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参考文献
Gray (2006). Coping over time: the parents of children with autism. Journal of Intellectual Disability Research. 50(12), 970-976.
Hastings et al. (2005). Coping strategies in mothers and fathers of preschool and school-age children with autism. autism, 9(4), 377-391.
Hayes & Watson (2013). The Impact of Parenting Stress: A Meta-analysis of Studies Comparing the Experience of Parenting Stress in Parents of Children with and without Autism Spectrum Disorder. Journal of Autism and Developmental Disorders, 43, 629-642.
Smith et al. (2010). Daily Experiences Among Mothers of Adolescents and Adults with Autism Spectrum Disorder. Journal of Autism and Developmental Disorders, 40(2), 167-178.
Tunali & Power (2002). Coping by Redefinition: Cognitive Appraisals in Mothers of Children With Autism and Children Without Autism. Journal of Autism and Developmental Disorders, 32(1), 25-34.
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