・想像力がなさすぎて何も思いつかない。
・想像しているときの脳はどうなっているの?
相手を想いやる。
相手の立場に立つ。
他人の状況を考え、行動をシミュレーションする。
全て想像力が関わります。
想像力と言えば、頭の中でビジュアルに何かを考えることを意味します。
近年特に、政治家などの方々が「想像力が足りない」と批判を受けています。
その場合、想像力は何か事が起こる前に何が生じうるのかという危険察知に関係します。
もちろんビジネスの場でも計画や戦略を立てる時に想像力は不可欠です。
では、どのようにすれば想像力は向上するのでしょうか?
皆さん気になるところだと思います。
そのために、今回は、想像している時の脳内メカニズムをご紹介します。
メカニズムが分かれば、想像力を向上できるかもしれません。
本記事では以下のことが学べます。
2. ビジュアルで視覚的に想像する時に、何が生じているのか?
3. 自己と他者の想像、文章から絵を想像、風景の想像など様々な想像に共通するものは何か?
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①想像力の脳内メカニズムとしてどの脳領域が関係しているのか?
想像力の脳科学的研究は、1990年代から意外とたくさんあります。
ただ、どうやったら本当に実験参加者に想像させることができるのかに苦労します。
そんな苦労もある中で、運動課題を用いて運動する自分を想像している時の脳内メカニズムを探った研究があります。
Gerardin et al. (2000)は、特定の指の曲げ伸ばしと、それを想像している課題を行わせました。
実験としては、単純ですが、当時にしては工夫している方だと思います。
想像している時の方が実際に運動している時よりも活動した脳領域が以下の図です。
この図で大切なのは、前頭葉と頭頂葉の領域の活動です。
左の図は左側が脳の前方を表します。
前頭葉の運動領域が赤く活動していることがわかります。
他にも、計画(プランニング)などでも活動する前頭葉領域の活動も見られます。
他方、頭のてっぺんからちょっと右寄りの部分の領域の活動も見られます。
この領域はprecuneusやIPSとよばれる頭頂葉の領域です。
この領域は、空間把握や様々な感覚情報の統合をしたりします。
特に、空間把握を利用して、想像している時に、3Dで空想を思い浮かべているのかもしれません。
また、一般的に「想像は右脳」と聞いたことがある方がいらっしゃるかもしれません。
しかし、これからご紹介するように、この噂は根も葉もない嘘です。
というのも、この図のように左脳の活動がだいたいの研究で優位だからです。
ちゃんと論文ベースの情報を見れば、右脳―左脳の二元論的な考え方は止めた方がいいことがわかります。
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先ほどの研究は運動の想像の研究でしたが、絵や顔などビジュアルを想像する研究もあります。
Ishai et al. (2000)は、顔や家などの物体を想像させた時の脳活動を調べました。
その結果が以下の図です。
図の上側の真ん中と右の図を見てください。
真中は頭のてっぺんの方が光っていることが分かります。
右の図では脳の前方が光っています。
これも先ほどと同様の頭頂葉と前頭葉が活動していることを示しています。
下の棒グラフは、想像している時(ねずみ色)と実際に絵を見ている時(赤)との活動量の違いを示しています。
いずれも、横軸の左側~右側にかけて、頭頂葉から前頭葉の領域を指名しています。
どの領域もねずみ色の方が高くなっています。
Ishai et al. (2000)は、他にも興味深い研究結果を示していますので、興味のある方は是非原著を当たってみてください。
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②ちょっと変わった想像力の脳科学:簡単な応用研究
これまで見てきたように、想像力には前頭葉と頭頂葉が関係します。
では、この基礎的な脳内メカニズムは、どのような想像でも当てはまるのでしょうか?
A. 文章や言葉から絵などのビジュアルを想像する時の脳科学
私たちは、文章を読んだり、他人と話している時に、言葉からビジュアルを想像します。
小説を読んでいる時は特にそうですね。
では、この時の脳内メカニズムはどうなっているのでしょうか?
Mellet et al. (2002)は、口頭で地理的な場所を説明し、実験参加者がその説明から正しい地図を描けたかどうかを見て、言葉をビジュアルに想像して把握するの時の脳内メカニズムを調べました。
その結果が以下の図です。
この図は、MS-TEXT(緑色)が、言葉からビジュアルを想像する時の脳活動を示しています。
一方、MS-MAP(黄色)は、研究者が以前に行った、絵を見せて絵を想像する研究課題での活動を示します。
図の脳画像で赤く光っている領域は、MS-TEXTでより活動した領域です。
つまり、言葉からビジュアルの想像時により活動した領域です。
すると、図より、後頭葉、前頭葉、頭頂葉、側頭葉のそれぞれ一部が光っています。
前頭葉と頭頂葉は、先ほどまで見てきた研究と同じですが、言葉を処理する側頭葉も関係しています。
このように、言葉からビジュアルを想像する時、想像力に関する前頭葉と頭頂葉の領域は共通していますが、言葉が関わるぶん、側頭葉の領域がプラスで関係していることが分かります。
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B. 自分と他者の立場を想像する時の脳科学
次に、自分と他者の立場の違い等を想像する時に関する脳内メカニズムの研究です。
普段の日常で自分と相手のことを過去や未来にわたって思い描くときにも関係します。
Szpunar et al. (2007)は、自分の過去と未来を想像している時と、クリントン大統領という具体的な他者のことを想像しているとこの脳活動を調べました。
その結果が以下の図です。
図の一番上にあるように、赤色が自分の未来の想像、青色が自分の過去の想像、黒がクリントン大統領を想像している時の脳活動をそれぞれ示します。
図の左側ABCDは、自分の未来>自分の過去の時の脳活動です。
図の右側EFGHは、自分>他者(クリントン大統領)の時の脳活動です。
すると、左図より、重要なのは、未来のより想像力を必要とするときに前頭葉(AB)と頭頂葉(C)の活動が高くなっています。
なので、想像力を膨らませる時は、これまで見てきた領域が重要なのがわかります。
一方、右図より、重要なのは、同じく前頭葉(E)と頭頂葉―後頭葉(H)です。
これまでと同様の領域の活動が、自分と他者との立場の違いを想像する際にも必要なのが分かります。
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③想像力の脳科学の新展開:前頭葉と海馬の関係性
最後に、最近の研究から、想像力の脳内メカニズムの面白い研究をご紹介します。
Barry et al. (2019)は、「ジャングル」などの単語を聞かせて、その光景をイメージさせる研究を行いました。
つまり、シーンを頭の中で思い描く研究です。
この時の脳活動が以下の図です。
この図では、前頭葉と側頭葉の黒い〇の海馬の領域の活動を示しています。
これだけでは普通の研究ですが、面白いのはここからです。
この前頭葉と海馬のつながりの関係性をも調べています。
その図がこちら。
Aの左右の図は、各脳領域がどの方向に影響を与えているのかを調べています。
左側が、海馬(黄色, HC)が前頭葉(赤色, vmPFC)に働きかけているモデル(緑色の矢印)です。
右側が、前頭葉から海馬に働きかけているモデル(青色の矢印)です。
想像している時に、どちらの領域がどのように働きかけているのかを調べています。
その結果が、Bです。
Bによると、右の前頭葉が海馬に働きかけるモデルの方が圧倒的に支持されていることがわかります。
海馬は、場所細胞で有名なように空間や場所に関係する領域です。
また、記憶に関係することも広く知られています。
つまり、この研究は、風景などのシーンをビジュアルに想像する時に、前頭葉が活動し、前頭葉が海馬に働きかけて、3Dのビジュアルを作っている可能性を示唆しています。
これからの研究しだいですが、脳領域間の働きかけなどの詳細な関係性もわかると想像力を向上させることにもつながるかもしれません。
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④まとめ
以上より、想像力の脳内メカニズムについて見てきました。
まとめると、以下のようになります。
- 想像している時に重要な脳領域は前頭葉と頭頂葉
- 特に頭頂葉は空間把握に関係し、ビジュアルで3Dに想像を膨らませることに関係する。
- 文章や言葉からビジュアルに想像する時も、前頭葉と頭頂葉の活動が見られ、さらに言葉に関する領域の活動がプラスして見られる。
- 自分と他者の立場の違いを想像する時も、前頭葉と頭頂葉の活動が重要。
- 最近の研究から、前頭葉と海馬の関係性も想像力には重要。
- 特に、前頭葉から海馬に働きかけてビジュアルをイメージするという仮説が立てられている。
これらの知見はほぼどの想像力にも関係すると言えそうです。
Winlove et al. (2018)は、様々な想像力に関する脳科学的研究を集めて分析し直すメタ分析の手法を使って、想像力に関する脳領域の特定を行いました。
なお、メタ分析に関しては、以下の記事に詳しく書いています。
あわせて読んでいただけると幸いです。
メタ分析の結果が以下の図です。
この図のAを見ると、まさにこれまで見てきた前頭葉と頭頂葉の領域が光っていることが分かります。
メタ分析は研究のエビデンスでは最も信頼できる研究です。
前頭葉と頭頂葉という脳内メカニズムはほぼ確かな証拠だと言ってもいいと思います。
では、結局想像力を向上させる方法は何か?
そう問われると、今科学的にこれという方法はありません。
ですが、前頭葉と頭頂葉を鍛えるような訓練をすればいいと思われます。
まだ仮説段階ですが、想像力に悩まれる方の参考になれば幸いです。
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参考文献
Barry et al. (2019). the Neural Dynamics of Novel Scene Imagery. Journal of Neuroscience, 39(22), 4375-4386.
Gerardin et al. (2000). Partially Overlapping Neural Networks for Real and Imagined Hand Movement. Cerebral Cortex, 10, 1093-1104.
Ishai et al. (2000). Distributed Neural Systems for the Generation of Visual Images. Neuron, 28, 979-990.
Mllet et al. (2002). Neural Basis of Mental Scanning of a Topographic Representation Built from a Text. Cerebral Cortex, 12, 1322-1330.
Szpunar et al. (2007). Neural substrates of envisioning the future. PNAS, 104(2), 642-647.
Winlove et al. (2018). the neural correlates of visual imagery: A co-ordinate-based meta-analysis. Cortex, 105, 4-25.
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