・女性脳は感情に特化している。
・男性脳優位や女性脳優位は本当か?
よく脳科学の話をすると「男性脳や女性脳は本当にあるのか?」と聞かれます。
確かに、日常生活では男性と女性の言動は異なるように見えます。
男性は理路整然としていて恋愛では過去のパートナーに未練を抱く。
女性は感情豊かに話し、過去にこだわらず次の恋愛に目を向ける。
などなど。
しかし、この言動の差は、育ちや環境によるもので本来男女脳はないと主張する研究者もいます。
では、本当に脳に性差はあるのでしょうか?
今回は脳の物理的な構造に注目します。
本記事では以下のことが学べます。
2. 脳の構造上の性差について
3. 感情の処理の仕方と脳の構造との関係
4. 脳のつながりの性差について
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①感情の処理(コントロール)の仕方と脳の構造の性差
以前の記事では、男性と女性で感情の感じ方や強さに違いがあることを紹介しました。
女性の方がうつ病になりやすく、感情のコントロールが苦手だと言われています。
感情のコントロールには脳の構造の違いが関係していることが言われています。
それを示したのが、Welborn et al. (2009)です。
彼らは脳の体積の大きさと感情コントロールの性差について調べています。
この図をご覧ください。
図の赤で示されているのは、女性の方が男性よりも体積が大きかった脳領域を示しています。
特に、左側と真中の図が見やすいですが、この領域は前頭前野の前の方であり、感情や感情コントロールに主に関係していると言われています。
つまり、感情に関わる前頭葉の領域は、一般的に女性の方が体積が大きいのです。
この研究では、特にvmPFC(腹側内側前頭前野)の領域が感情コントロールと性差が関係することを突き止めました。
この図は、縦軸がvmPFCと関係がある感情の項目です。
プラスになるほど男性と関係し、マイナスになるほど女性と関係します。
特に感情コントロールの項目であるReapprとSupprを見てください。
Reapprは、感情コントロールの再評価法を示します。
再評価法とは、感情を喚起する刺激をポジティブやニュートラルに解釈する方法です。
例えば、駅で電車に並んでいる時、割り込まれたらイラっとしますが、「この人は割り込まないといけないくらい急いでいるのだな」と解釈して納得することが挙げられます。
Supprは、感情コントロールの抑制法を示します。
抑制法とは、生じた感情を表に出さないようにぐっと押し殺す方法です。
両者の詳しい説明は過去の記事を参照していただきたいと思います。
簡単に説明しますと、再評価法は心身ともに健康的な感情コントロール法ですが、抑制法はストレスやうつ病に関係します。
この結果では、女性の方がSuppr(抑制法)をしてしまい、かつvmPFCの体積が抑制法をするほど小さくなります。
男性では、Reappr(再評価法)をよくし、かつvmPFCの体積が再評価法をするほど大きくなります。
まとめますと、一般的に前頭前野の感情領域は女性の方が大きいですが、抑制法をするほど体積は小さくなります。
一方、男性は、女性よりも概してvmPFCは小さいですが、再評価法をするのどvmPFCの体積は大きくなります。
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②男性脳と女性脳は本当にあるのか?性別による脳構造の違い
先ほど感情コントロールというスキルと性差によって脳構造に違いが生じることがわかりました。
では、そもそも、脳全体を調べた時に、男性脳と女性脳と言われるような違いはあるのでしょうか?
実は、脳構造の男女差を調べて研究はたくさんありますが、一貫した結果は得られていません。
しかし、Ruigrok et al. (2014)は、メタ分析という手法を使って脳構造の男女差について調べました。
メタ分析とは、多くの研究を集めて再分析し、一定の見解を得る分析方法です。
詳しくはこちらの記事に記載しております。
合わせて読んでいただけると幸いです↓
このメタ分析を使用して脳構造の男女差を示した図が以下の図です。
この図の赤い部分が、女性の方が灰白質の体積が大きい領域です。
青は男性の方が灰白質の体積が大きい領域です。
特に上半分の図を見てください。
先ほど見てきた前頭葉の先端領域は赤く、頭頂葉と後頭葉の領域は青いです。
つまり、女性は前頭葉のように感情や相手の立場に立つ共感に関する領域の体積が大きい。
一方、男性は、空間把握や視覚処理などに関する領域の体積が大きいです。
これは解釈の問題になりますが、可能性として男女で脳構造の違いはあるかもしれません。
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③脳領域間のつながりに関する男女差
脳領域の体積の違いを見てきましたが、脳領域を結ぶつながりは男女で差があるのでしょうか?
どれだけ町が大きくても、別の町とのつながりがなければ交通の便も悪くなりますし、孤立します。
配線で言えば接触の悪い状態です。
それと同じで、脳領域間のつながりも非常に大切なのです。
町と町を結ぶ脳領域間のつながり方の男女差を示したのが、Ingalhalikar et al. (2014)です。
この図の上側二つが男性の脳領域間のつながりです。
下半分が女性の脳領域間のつながりを示します。
青い線は、脳領域内のつながりで、例えば前頭葉と前頭葉を結ぶようなつながりです。
オレンジの線は、脳領域間のつながりで、例えば前頭葉と頭頂葉や右脳と左脳を結ぶつながりが挙げられます。
すると、男性はどの領域でも脳領域内でのつながりが多く、女性では脳領域間のつながりが多いです。
これも解釈の問題になりますが、男性は、同じ領域を使うスキルが深まっていき、オタク気質を示しているのかもしれません。
一方、女性は、違う脳領域間でのつながりや右脳と左脳を結ぶつながりが強く、幅広いスキルや何かと何かを掛け合わせるスキルが得意のかもしれません。
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④まとめ
以上より、男性脳と女性脳を脳構造の観点から見てきました。
まとめると以下のようになります。
- 女性は男性よりも一般的に前頭葉の体積が大きい。
- 女性は抑制法を、男性は再評価法をよくし、それが前頭葉の大きさと関係する。
- 女性は男性よりも、前頭葉や側頭葉などの領域の灰白質の体積が大きい。
- 男性は女性よりも、頭頂葉や後頭葉などの領域の灰白質の体積が大きい。
- 男性は女性よりも、脳領域内のつながりが強い
- 女性は男性よりも、脳領域間のつながりが強い。
結論として、男性脳と女性脳はあるのか?
答えはまだわからないです。
構造上は今回見てきたように、違いはあります。
しかし、それが男性と女性の元来の違いなのか育ち方の影響によるのかわかりません。
いろんな要因がありますので、「ある」と確実には言えませんが、「あるかもしれない」とは言えます。
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参考文献
Ingalhalikar et al. (2014). Sex differences in the structural connectome of the human brain. PNAS, 111(2), 823-828.
Ruigrok et al. (2014). A meta-analysis of sex differences in human brain structure. Neuroscience and Behavioral Review, 39, 34-50.
Welborn et al. (2009). Variation in orbitofrontal cortex volume: relation to sex, emotion regulation and affect. SCAN, 4, 328-339.
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