・事業承継のやり方がわかりません
・どうしても事業承継を成功させたいです
企業が長続きするには、成功した代の人物(先代経営者や創業者)だけではなくその後継者の代でも成功し続けなければならない。
その後継者の募集に困る会社が多く、それが事業承継の根本的な問題です。
これまでは、事業承継の研究が少なく、人望や直感に頼った後継者の選別が蔓延していました。
しかし、近年の経営学の発展により、エビデンスに基づいた事業承継成功の要因が特定されつつあります。
本記事では、海外の研究と日本の研究を少し織り交ぜて、事業承継問題解決への糸口を探ります。
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①事業承継のジレンマ:子供を継がせるか第三者を後継者にするか
まず、事業承継で問題となるのは、現任者の子息を後継者とするか第三者を後継者として募集するかです。
この問題に関する研究はかなり蓄積されていて、各論文を集めて、その論文のデータを元にさらに分析するメタ分析が使用されている論文もあります。
メタ分析の重要な点は、各論文だけでは見いだせない発見が行われたり、同じ分野で同じ内容の研究をしているが結論が相反する場合に正否どちらかなのかを判定したりするために行われます。
そして何より、メタ分析の結果は、エビデンスの中で最も信頼性が高い研究とされています。
詳しくは次のページで解説していますのでそちらをご参照ください。「メタ分析(meta-analysis)とは何か?心理学の論文から見るメタ分析の方法と限界!」
事業承継の子息後継者のメタ分析を行った研究を見てみると、子息を後継者に選ぶ方が、第三者を後継者に選ぶよりも、その会社のパフォーマンスが高いという結果が報告されています(van Essen, Carney, Gedajlovic, and Heugens, 2015)。
この研究は海外の研究ですが、日本企業を対象にした研究結果と整合しています(安田, 2005)。
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②なぜ子息が後継者の方が会社のパフォーマンスがよくなるのか?
なぜ子息が後継者の場合、第三者が後継者となるよりも業績等のパフォーマンスが高いのかという点を皮切りに、日本の研究(堀越, ;安田, 2005)から、事業承継成功の要因を考えてみましょう。
過去の研究を総括した堀越(2017)は二つの結論を次に挙げています。
①「現任者は、信頼に値する後継者の存在が、事業承継に必要なもの全てであるかのように考えることを避けなければならない」
②「後継者の選択と育成のプロセスにおいて、現任者やファミリーの誠実な関与がなされないのであれば、次世代に対するリーダーシップの委譲のための計画を立てるよりも、ビジネスを売却することを計画した方が良いかもしれない」
まず、一点目ですが、先任者が後継者の邪魔をする可能性を堀越(2017)は指摘しています。
堀越(2017)は、過去の研究から「先任者は自らが組織をコントロールし続けることを主張し続ける」と述べています。
その弊害として「先任者は次期経営者の能力をなかなか認めようとせず、かれ自身は統治者もしくは代表者の段階から進もうとしない」ことを指摘しています。
つまり、先任者の影響により、後継者がなかなか育たないということです。
実質的に先任者が統治する形となるため、事業承継の意味がない。
堀越(2017)は「院政」はマイナスに働くとも述べています。
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③先代経営者は後継者に何もしない方がいいのか?
しかし、先任者の関与が全くなくてもよいかというとそうではない。
それが二点目です。
堀越(2017)の考察によると、
先代経営者が承継後の経営に関与しすぎると後継者は経営改革に取り組みにくくなるが、一方で、先代経営者は経営に全く関与しなかった場合に比べると、経営には関与しなかったが求めればアドバイスをしてくれたり、最終判断は現経営者に任せたが先代経営者も積極的に意見を述べたりする方が係数の値はややたかく、従って先代経営者がまったく口出ししないよりは、必要に応じてバックアップする方が後継者は経営改革に取り組みやすい
ことを指摘している。
また、
オーナー企業の7割は先代経営者が一線を退いた後も何らかの経営関与をしてきたが、その関与は必要に応じた頻度・内容にとどめていることが多
いことを述べている。
つまり、先代経営者は現任者(後継者)の必要に応じた対応をするという程度の関与は、事業承継の成功要因として大きいということ。
堀越(2017)は、これらの意見を総括して、「事業承継プロセスで最も重視される要因は、経営者(先行経営者)であろう」と主張しています。
また、安田(2005)の研究では、子息継承でも募集した第三者の後継者でも「いずれにおいても承継準備期間の存在が承継後の企業パフォーマンスに対して良好な影響を与える」ことを実証し、事業承継には「やはり一定の準備が・・・必要なのである」と結論づけています。
事業承継を決意した経営者は、後代が育成されるこの準備期間の間に、適度な関与をすることが事業承継の成功に影響するといえます。
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④まとめ
以上より、海外の文献と本国の文献を見比べた結果、事業承継の成功要因は、十分な準備期間を設けて、その間に先代経営者が後代経営者のサポートをしながら後代を育成することだと考えられます。
子息が後継者の場合、募集した第三者の後継者と比べて前代経営者の意見が得られやすいと考えられます。
どれくらいの関与が必要かというと、具体的にはまだ研究が進んでいませんが、必要とあればアドバイスするという程度にとどめる(堀越, 2017)のがよい。
いわゆる、お目付け役程度の役割ですね。
事業承継がうまく行かず、第三者の後継者を募集しても泣く泣く倒産する企業が相次いでいます。
人手不足の今日こそ、少ない人材の中で事業承継を成功させることが、企業にとっても、その顧客にとってもありがたいものとなります。
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参考文献
堀越 昌和(2017)「事業承継の経営学的な研究の方法論に関する一考察:事業承継の本質と課題に関する予備的考察」研究年報経済学 75(3・4), 307-318,
東北大学経済学会
Van Essen. M., Carney. M., Gedajlovic. E. R., and Heugens. P. M. A. R.(2015).How does Family Control Influence Firm Strategy and Performance? A Meta-Analysis of US Public Listed Firms. Corporate Governance: An International Review, 23(1), 3-24.
安田 武彦(2005)「中小企業の事業承継と承継後のパフォーマンスの決定要因―中小企業経営者は事業承継に当たり何に留意するべきか―」中小企業総合研究, 創刊号