・年をとうるごとに、物忘れがひどくなってきている。
・なぜ年齢が上がると記憶力が下がるのか?
年齢が上がるにつれ、記憶力の低下が激しくなっていきます。
もともと記憶力がよくなかったのにと落胆する人は多いです。
「若い頃は、教科書を一回読めば覚えられたのに」と過去を懐かしむことも。
では、なぜ年齢が上がると忘れっぽくなるのでしょうか?
そもそも年齢が上がるにつれ、記憶力が下がることは本当なのでしょうか?
年齢による記憶力の低下は防ぐことができるのでしょうか?
そんな疑問を心理学の研究をもとに解説します。
本記事では以下のことが学べます。
2. 年齢が上がると物忘れがひどくなる原因
3. 年齢による記憶力の衰えを防ぐ方法
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①年齢により記憶力が下がる原因は注意散漫にあり!
なぜ年齢が上がるにつれて記憶力が低下するのかについて心理学で多くの研究が行われてきました。
その数ある中でも有力な説は、「年齢が上がるにつれて周りのノイズに影響を受けやすくなる」ことです。
つまり、無関係な情報などによって、頭の容量がいっぱいになり、注意散漫になることです。
それを示したのが、McNab et al. (2015)です。
彼らは18歳~69歳までの2万9000人以上もの人を対象に研究しました。
どんな研究をしたのかというと、きわめてシンプルです。
上図のように、三つの条件を設けた記憶課題をしました。
基本的な流れは、左側のA条件のように、赤丸が呈示された場所を覚えます。
一定時間後、先ほど呈示された赤丸の位置をタップして答える記憶課題です。
この赤丸の数が増えたり減ったりして、その人の記憶力を調べます。
ここで二つの条件が設けられています。
まずは、真中のB条件です。
この条件では、赤丸と一緒に黄丸も呈示されます。
この黄丸は無視すべきノイズです。
一定時間後に、黄丸ではなく、赤丸の位置を正しく答えます。
つまり、覚える時に、覚えるべきものとノイズの両方が一緒に呈示される条件です。
次は、右側のC条件です。
この条件では、赤丸が呈示されて赤丸が消えた後に、ノイズである黄丸が呈示されます。
その後、赤丸の位置を正確に答えます。
つまり、覚えた後に、ノイズが時間差で呈示される条件です。
この三つの条件での記憶成績を年齢ごとに見たのが以下の図です。
上の図Aは、年齢と条件ごとの記憶成績です。
縦軸は、各条件での記憶成績です。
横軸は、年齢層を表し、右に行くほど高齢層を指します。
黄色が赤丸のみのA条件、赤が赤丸と黄丸が同時に呈示されるB条件、青が赤丸の後に時間差で黄丸が呈示されるC条件での成績です。
すると、図のように、年齢が上がるにつれてどの条件でも記憶成績が下がっていきます。
特に成績の低下が顕著なのは、40代くらいからです。
しかし、条件ごとにみると、青の条件でダントツで成績が低くなっていることがわかります。
ちなみに、下の図Bは、ノイズの黄丸が呈示されるB条件とC条件の脳への負荷量を示しています。
明らかに時間差でノイズが呈示されるC条件の方が、年齢が上がるにつれて負荷が大きくなっていきます。
例えば、お仕事でもうるさい環境下で話されても意外と覚えているのに、仕事の話と別の話が後で頭に入ってくると忘れてしまうということにもこの結果は繋がります。
大事な情報の後に関係のない情報を時間差で聞くと、大事な情報を忘れやすくなるのです。
この傾向は年齢が上がるにつれてひどくなっていきます。
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B条件やC条件のように、ノイズがあることで頭に負荷がかかる話をしましたが、年齢が上がるについれて脳の容量が下がることも研究では長年言われています(Jaroslawska & Rhodes, 2019)。
特に、マルチタスクをさせると年齢が上がるにつれて歴然とパフォーマンスが下がってきます。
脳の容量の問題とノイズの問題もあり、できるだけ注意が散漫にならない環境を作れると、ご高齢の方も楽にお仕事できたり、日常生活を過ごせたりできるようになるかもしれません。
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②年齢による記憶力の低下を和らげることはできるのか?
先ほどの研究から、年齢を重ねると、ノイズに影響されやすく、脳の容量が少なくなり、忘れっぽくなる話をしました。
では、この記憶力の衰えを防ぐ方法はあるのでしょうか?
答えは、”YES”です。
具体気には、脳トレが効果的と言われています。
その脳トレの効果を調べたのが、Nguyen et al. (2019)です。
彼らは、高齢者の脳トレの研究を集めて分析し直すメタ分析という方法で高齢者の脳トレの効果を示しました。
メタ分析については、下記の記事に詳しく解説しております。
あわせてお読みください。
彼らの研究結果は以下のようになっています。
これは、脳トレの効果を論文毎に示していますが、大事なのは、一番下のOverall Mean Effect Sizeの欄です。
この欄を右に見ていくと、1.00の少し前あたりに◇があります。
これは、高齢者でも脳トレの効果が結構あることを示しています。
なので、研究に基づいた脳トレは効果的と言えます。
では、どのような脳トレが効果的なのでしょうか?
今回は代表的な二つの脳トレを紹介します。
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一つ目は、最初の研究のような視空間的な記憶を試す脳トレです。
まず赤丸の位置を覚えて、数秒後にその赤丸があった位置を正確に答える方法です。
最初に覚える赤丸の数や位置を増やしたりして、脳に負荷をかけていきます。
それを繰り返す脳トレは複数の研究で効果があることが言われています。
二つ目は、N-Back課題と呼ばれる方法です。
これは、次々とランダムに数字が呈示されます。
課題としては、今呈示されている数字は先ほど呈示されたものと同じかを判断します。
より難易度を上げるには、今呈示されている数字は二つ前に呈示されたものと同じかを判断させたりします。
心理学では、大体4±1個ぐらいしか覚えられないと言われているので、四つぐらいを目安にやってみると良いでしょう。
余談ですが、上記のような脳トレをすると、高齢者であれば他の能力にも脳トレの効果が波及すると言われています。
例えば、視空間的な脳トレをすると集中力が上がることなどです。
ただし、この脳トレの波及効果は、あってもかなり弱いとNguyen et al. (2019)の研究では示されています。
それでも、せめて記憶力だけはなんとか若いことと同様に保てるかもしれません。
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③まとめ
以上より、年齢が上がるにつれて記憶力が低下する話をしました。
まとめると以下のようになります。
- 年齢が上がるにつれて記憶成績は本当に下がる。
- 特に、ノイズが一緒に呈示されるよりノイズが時間差で呈示される方が年齢による影響で成績が顕著に下がる。
- 脳トレで年齢による記憶力の低下は和らげられる。
- 特に、視空間的な記憶やN-Back課題のような学術的に効果が確かめられている方法を取ると良い。
- 高齢者の場合、脳トレの効果が他の能力に波及することもある。
年齢による記憶力の衰えは、結局脳の容量の低下を防ぐこととノイズを少なくして負荷を小さくすることの二つが大事です。
高齢になっても自分の能力を存分に発揮するには、ノイズを少なくしたり脳の負荷を小さくしたりする環境改善が必要です。
あとは、トップやマネジメント層など上の者が指示を与えるときに出来るだけ脳の負荷を下げるように工夫することも大切です。
心理学を知ることでこのように生きやすい世界を実現できます。
この記事が少しでも皆様が生きやすい方向に貢献できれば幸いです。
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参考文献
Jaroslawska & Rhodes (2019). Adult Age Differences in the Effects of Processing on Storage in Working Memory: A Meta-Analysis. Pschology and Aging, 34(4), 512-530.
Nguyen et al. (2019). Immediate and Long-term Efficacy of Exective Functions Cognitive Training in Older Adults: A Systematic Review and Meta-Analysis. Psychological Bulletin, 145(7), 698-733.
McNab et al. (2015). Age-relaed changes in working memory and the ability to ignore distraction. PNAS, 112(20), 65156518.
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