・リハビリテーションのメカニズムを知りたい。
・効果的なリハビリテーションを行いたい。
事故や脳梗塞などで手足の運動機能が上手く働かない患者さんが大勢います。
その運動機能を動くようにするのがリハビリテーション(リハビリ)です。
でも、リハビリをしてもどこまで動くようになるのかには個人差があります。
そこで今回は、リハビリに励む患者さんや医療従事者の方のために、リハビリの脳内メカニズムについて解説します。
メカニズムが分かれば、効果的なリハビリにもつながります。
また、一人でも多くの患者さんのQOL向上にもつながります。
本記事では以下のことが学べます。
2. リハビリの経過と脳との関係
3. 効果的なリハビリの方法
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①サルの研究から分かったリハビリテーションによる脳構造の変化
リハビリの研究は1990年代には結構ありました。
その大半が、動物を使った研究です。
理由は、fMRIなどの脳機能計測装置がなかったこと。
そして、動物研究では、意図的に脳をマヒさせたりすることができるからです。
人間では倫理的に研究できないことも動物研究では可能です。
そこで、人間に近いサルの研究でリハビリと脳の関係性を調べたのが、Nudo et al. (1996)です。
彼らは、サルの運動に関係する脳を意図的に壊し、手を自由に使えなくします。
その後、二日にかけて食べ物の皿手を伸ばす訓練をさせました。
そのリハビリの経過が以下の図です。
縦軸は運動のぎこちなさを示します。
下に行くほど成績が良くなります。
横軸は時間の経過です。
0のところで手術し、脳を破壊します。
0の前(左)が手を自由に動かせていたときの成績です。
この成績が基準になります。
0の後(右)がリハビリの経過を示しています。
今回は黒の棒グラフのみに注目してください。
リハビリをするごとに、棒グラフが下の方に下がり、成績が良くなっています。
リハビリの効果が明確に表れています。
手術前後の脳活動の違いが以下の図です。
左側の図が手術前。
右側が手術して、十分リハビリした後の脳構造です。
各色はそれぞれの別のタスクをした時に活動する脳領域です。
例えば、黄色は手首と腕を動かした時に活動する脳の領域です。
両者を見比べると、色の配置が全く異なることが分かります。
つまり、手術後に、脳が活動する配置がリハビリにより変化したのです。
リハビリにより脳構造が変わることを如実に示しています。
このように、サルの研究からリハビリは脳構造を変化させることが分かりました。
この脳構造の変化により、損傷した箇所の機能を代替しているのかもしれません。
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②人間の研究でもリハビリテーションによって脳構造に変化が生じる
動物の研究では、リハビリにより脳構造に変化が生じることが分かりました。
では、実際に人間ではどうなのでしょうか?
A) リハビリテーションは小脳の活動を上げる
人間のリハビリの効果についての研究として、Small et al. (2002)が挙げられます。
彼らは、運動領域の脳梗塞患者を対象に、リハビリの効果と脳活動の変化を記録しました。
彼らのリハビリは指をタッピングしたり、グリップを握ったりする方法です。
そのリハビリの経過が以下の図です。
この図は、上に行くほど運動成績が良いことを示しています。
ねずみ色がリハビリによって機能回復度が高い患者さんの成績。
黒はリハビリをしてもなかなか運動能力が向上しなかった患者さんの成績です。
横軸は、リハビリ開始から何か月経ったかを示しています。
すると、月を追うごとに成績が上がっています。
しかし、黒の患者さんは、3か月目くらいから成績が頭打ちになっています。
成績の良さで脳活動にも変化がありそうです。
その脳活動を調べたのが以下の図です。
この図は、小脳という運動に関係する領域の活動の時系列を表しています。
リハビリ成績の良かった患者さんの小脳の脳活動です。
赤の折れ線グラフに注目してください。
すると、赤の折れ線グラフは、月を追うごとに活動が増加していることがわかります。
一方、この図は、リハビリ成績が芳しくなかった患者さんの小脳の脳活動の時系列です。
二か月目から赤のグラフでも青のグラフでも活動が落ちます。
つまり、先ほどのリハビリ成績と同様の傾向を小脳の脳活動が示しています。
小脳は、リハビリの向上と関係があると思われます。
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B) 大脳皮質の運動野の活動はリハビリとともに下がる
次に、脳の運動野と呼ばれる領域ではリハビリによってどう変わるのか?
それを研究したのが、Ward et al. (2003)です。
彼らは、病院で行われる様々なリハビリを受けている人を対象に実験をしました。
リハビリ内容としては、指の運動や握力の測定などがあります。
実験課題として、握力の測定を行いましt。
その時の脳活動が以下の図です。
この図はリハビリ途中の脳活動を表しています。
緑の矢印で示された領域が運動野に当たります。
リハビリの途中では、運動野の領域が活発です。
おそらく、まだ上手く手を動かせず、たくさん努力している状態だと思われます。
最後にリハビリ後ではどうかというと以下のようになります。
少しややこしいですが、赤く光っている領域がリハビリによって活動が下がった領域です。
真中の図のように、運動野の領域がリハビリによって下がっていることがわかります。
リハビリによって回復すればするほど、運動野の活動は下がるのです。
おそらく、リハビリによって自由に動かせるようになりあまり努力しなくてもよくなったことを表していると思われます。
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③まとめ
以上より、リハビリテーションの脳メカニズムについて解説してきました。
まとめると以下のようになります。
- リハビリにより微細な脳構造が変化する。
- 簡単なリハビリにより効果が得られるのが、大体3~6か月
- リハビリにより小脳の活動が増大する。
- リハビリにより、運動野の活動が下がる。
- 最初は意識的に努力して手足を動かしていたが、リハビリを通して手足が自然と自動的に動くようになる。
重要なのは、活動のパターンの変化ですね。
リハビリ後、小脳の活動は↑、運動野の活動は↓です。
仮説段階ですが、運動野の活動が小脳の方へシフトしていくのかもしれません。
そのシフトする段階で、運動野では構造変化が起きているということがサルの研究から推察されます。
今回は少し古い研究を中心に見てきましたが、比較的新しい研究でも同様の傾向がみられています。
・運動野の活動をいかに下げられるか。
・小脳へのシフトをいかにうまくできるか。
この二点を踏まえたリハビリが最も効果的なのかもしれません。
もっとミクロな話になると、運動野と小脳で構造的な変化を起こすリハビリも必要になるでしょう。
本記事が一人でも多くの患者さんの幸せに繋がれば幸いです。
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参考文献
Nudo et al. (1996). Neural Substrates for the Effects of Rehabilitative Training on Motor Recovery After ischemic Infarct. Science, 272, 1791-1794.
Small et al. (2002). Cerebeller hemispheric activation ipsilateral to the paretic hand correlates with functional recovery after stroke. Brain, 125, 1544-1557.
Ward et al. (2003). Neural correlates of outcome after stroke: a cross-sectional fMRI study. Brain, 126, 1430-1448.
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