- リズム音痴で困っています。
- リズムを取っている時、脳はどうなっているの?
- コミュニケーションがうまく取れません。
音楽やダンスでは、リズムが大事なのは言うまでもありません。
しかし、リズムが上手く取れずに困ることは実はたくさんあります。
会話のリズムが取れないと「空気が読めない」と言われます。
何気なく連絡をするとタイミングが悪いと言われます。
脳内リズム・体内リズムが崩れると病気になります。
このようにリズムは人間の生活の基礎なのです。
プレゼンや発表では話し方のリズムが良いと相手にも好印象です。
そこで今回は、リズムの脳内メカニズムに焦点を当て、リズムが特にコミュニケーションにとって大切であることをエビデンスを基に考えます。
リズム音痴は、コミュニケーション音痴にもつながる目からうろこの発見をご紹介します。
本記事では以下のことが学べます。
1. 脳活動はリズムに合わせたパターンを示す。
2. リズムがコミュニケーションにとって不可欠
3. 音の音素レベルでもリズムが関係する。
4. 単語レベルの理解にもリズムが関係する。
5. 文章・会話文レベルでもリズムが関係する。
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①リズムの脳科学:脳はリズムに合わせた活動パターンを示す。
リズムと言えば、音楽やダンスをイメージする方が多いですが、脳活動は外のリズムに合わせた活動パターンを示します。
8ビートや16ビートのような決まったリズムでもそうですし、一秒間に何回波が表れるかという周波数レベルのリズムでも脳活動のパターンが生じます。
脳が周波数レベルのリズムに合わせて活動することを示したのが、Nozaradan et al. (2011)です。
彼らは、下図のように刻まれたビートを頭の中で再現して周波数に合わせた脳活動パターンが見られることを示しました。
図Aが実際に実験参加者が聞いた音の詳細です。
基本的には、一秒間に2.4回ビートを刻む(周波数の)音を聞かせます。
この2.4Hzの周波数を聞いている時をベースにします。
このビートを聞いている時に、一秒間に1.2回(1.2Hz)のビートを想像する条件と一秒間に0.8回(0.8Hz)のビートを想像する条件とを作りました。
脳波計を使って、2.4Hzのビート音を聞かせながら、1.2Hzと0.8Hzを想像させるのです。
すると脳活動は以下のようになりました。
この図の真ん中を見てください。
縦軸は脳活動の強さ。
横軸は、周波数(Hz)を示しています。
青が2.4Hz
赤が1.2Hz
緑が0.8Hzのビート音を想像させたときです。
すると、1.2Hzを想像させた時に、1.2Hzのところで脳活動が上がっていることがわかります。
また、0.8Hzを想像させた時は、0.8Hzと1.6Hzのところで脳活動が上がっています。
一番下の図は、横軸を伸ばした場合です。
大体が、真中の図形通りの周波数のビート音を脳も刻んでいることがわかります。
より条件ごとに細かく見たものが以下の図です。
青が2.4Hz
赤が1.2Hz
緑が0.8Hzでそれぞれ表されています。
矢印のところで活動が大きくなっており、脳もリズムに合わせて活動していることがわかります。
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このように、脳活動は外のリズムに合わせたパターンを示します。
この研究では想像させたので、本当に実験参加者がビートをちゃんと刻んでいたのかはわかりません。
そこで、客観的に音を聞かせて脳活動がリズムのタイミングに合わせたパターンを示すことを調べたのが、Henry & Obleser(2012)です。
彼らは、下図のAように、3Hzの音を聞かせて、音の間の隙間に気づくかどうかという課題をさせました。
一秒に3回刻むビートの中に無音期間が混じっているのです。
同様に脳波で脳活動を記録しました。
すると、以下のような結果になりました。
図Aは、先ほどの研究と同じで、縦軸が脳活動の高さ。
横軸が周波数を表します。
すると、↓にある通り、3Hzと6Hzの辺りで脳活動が上がっています。
つまり、ほぼ3Hz刻みで脳活動もビートを刻んでいるのです。
リズムやタイミングというのは、脳活動レベルでも反映されていることがわかります。
リズム音痴の方はもしかしたら脳活動レベルでもリズムが乱れている可能性があります。
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②言葉の理解とコミュニケーションにもリズムが関係する。
では、この脳活動レベルでもリズムを刻むという事実はなぜ重要なのでしょうか?
その一つが、言葉の理解やコミュニケーションに関係するからです。
言葉の音素レベルの理解には、低い周波数レベルの脳活動が重要。
母音や子音の音素レベルの理解には、脳活動のリズムが大事であることをLiberto et al. (2015)は示しました。
彼らは短い文章を聞かせて、それを逆順に再生させた文章と比較して、理解度を確かめながら、言葉の音素レベルの脳活動とリズムとの関係を調べました。
詳述は論文を参照していただく方が良いですが、音素レベルを理解している時の脳波活動の結果が以下の図になります。
それぞれの図は、脳波の周波数帯域を表します。
Δ波では、1~4Hzという具合にです。
一般的に、α波やβ波というのは周波数帯域を表します。
「α波が出ている」というのは、単にその周波数帯期の脳波の活動が強いかどうかです。
すると、5つのグラフから、最も縦軸が高いのが上の真ん中のθ波のグラフです。
その次が、上の左側のΔ波のグラフです。
つまり、だいたい、1~8Hzまでの比較的ゆっくりとした低周波数の波が出ていることが分かります。
単語を認識するのに必要な音素の理解には、低周波数の波が関係していることがわかります。
これがなぜ重要かと言うと、実は、単語レベルや文章・会話レベルの理解でも、脳の低周波数レベルのリズムが関係するからです。
その足掛かりになった研究ともいえます。
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単語レベルの理解にも脳活動のリズムが関係する。
先ほどは音素レベルでしたが、これを単語レベルでも脳内にリズムが生じることを示したのがDing et al. (2016)です。
彼らは、下図のaのように、単語を巧みに操作して、一単語レベル・一フレーズ・一文となるようにそれぞれ条件を変えて実験参加者に聞かせました。
図Cのように、文章(sentence)レベルでは1Hzの活動が見られました。
フレーズ(phrase)レベルでは、2Hzの活動が見られ、単語(syllable)レベルでは4Hzの活動が見られました。
つまり、単語ごとのまとまりでは一語ずつ4ビートが刻まれ、フレーズごとの集まりでは二語ずつの2ビートが刻まれ、文章では一文ずつ1ビート刻まれています。
単語レベル、フレーズレベル、文章レベルのそれぞれの理解の仕方によって脳のリズムも異なるのです。
より細かく示したのが下の図になります。
左の赤が中国語話者に中国語を聞かせた時。
右の青が英語話者に中国語を聞かせた時です。
なお、●は単語で、二つにまとまっているのがフレーズレベルです。
それぞれのグラフの見方は簡単で、縦軸が脳活動の強さ。
横軸が、周波数です。
どの図形でも、大体、単語ごと、フレーズごと、文章ごとで周波数がそれぞれ刻まれています。
中国語を訓練した英語話者でもこれは同じ傾向を示します。
つまり、単語、フレーズ、文章ごとで脳のリズムが異なるのです。
このリズムが崩れると単語の聞き取りにも困難するかもしれません。
これらの脳活動がどの領域で生じているのかも調べられています。
それが以下の図です。
この図の右側が重要です。
●が左脳で、○が右脳です。
すると大体が側頭葉の上の辺りに位置していることが分かります。
この領域は、
「他人の話をちゃんと聞くための心理学と脳科学:話の処理の脳活動と聴覚と視覚」
「ミュニケーション(話し言葉の理解としゃべるとき)の脳科学:聞き違いの元は協力不足」
でもご紹介した通りに、文章や会話の理解など聴覚に関係する領域です。
聴覚領域で、脳がリズムに合わせたパターンを示しているのです。
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文章・会話文レベルの理解にも脳のリズムは関係する。
先ほどの研究で、若干文章レベルを扱いました。
では、もっと長い会話文レベルだとどうなのでしょうか?
それを研究したのが、Koesem et al. (2018)です。
彼らは、下図のように、普通の文章と、同じ文章ですが、早口にした文章とを聞かせて文章や会話文理解の脳のリズムを調べました。
普通の文が上の青いSlow rateの文章で、3Hzぐらいの遅さ。
一方、下の赤いFast rateが早口にした文章で、5Hzくらいの早さです。
脳波で脳活動を計測すると以下のようになりました。
図の見方はこれまでと同様です。
縦軸が脳活動の強さ。
横軸が周波数です。
すると、普通の文章でも早口の文章でも、それぞれ3Hzと5Hzのところで活動が高くなっています。
この図は、活動領域を示しています。
大体側頭葉のあたりの活動が見られます。
先ほどの研究とも整合的です。
つまり、文章や会話文レベルでもリズムが非常に大事になるということです。
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③まとめ
以上より、脳とリズムの関係についてご紹介しました。
まとめると以下のようになります。
- リズムの認識には、脳がそのリズムに合わせた活動パターンを示すことが重要
- リズムは、音素レベルの理解にも重要になる。
- 特に、言葉の理解にはゆっくりな低周波数の活動が関係する。
- 単語・フレーズ・文章レベルのそれぞれで脳活動のリズムがある。
- 文章や会話文レベルの理解にも脳活動のリズムが重要。
リズムは単にタイミングを刻むだけではありません。
我々の言葉の認識に大きな影響を与えます。
他にも、リズムは、相互行為といった相手と自分の役割を交互させることにも関係するという研究があります。
今回はご紹介しませんが、リズムはコミュニケーションの基礎なのです。
将来的には、リズム音痴を治すだけではなく、コミュニケーショントレーニングにもつながる基礎研究だと思います。
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参考文献
Ding et al. (2016). Cortical Tracking of Hierarchical Linguistic Structures in Connected Speech. Nature Neuroscience, 19(1), 158-164.
Henry & Obleser (2012). Frequency modulation entrains slow neural oscillations and optimizes human listening behavior. PNAS, 109(49), 20095-201000.
Koesem et al. (2018). Neural Entrainment Determines the Words We Hear. Current Biology, 28, 2867-2875.
Liberto et al. (2015). Low-Frequency Cortical Entrainment to Speech Reflects Phoneme-Level Processing. Current Biology, 25, 2457-2465.
Nozaradan et al. (2011). Tagging the Neuronal Entrainment to Beat and Meter. Journal of Neuroscience, 31(28), 10234-10240.
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