・若者と比べて高齢者の方は気分が安定しているのか?
・年齢を重ねると丸くなる?
私たちは幸せを求めています。
仕事やプライベーでは、ネガティブな気持ちになることが多いですが、それでもできるだけポジティブに考え、生きようとします。
暮らしていく中で、感情の浮き沈みは、日常の幸福度に大きく影響します。
そんな時、ふと高齢者の方々を見ると、穏やかな方が多い気がします。
なぜ、ご高齢の方は温厚なのでしょうか?
実は心理学では、高齢者には「ポジティブ効果」というものがあると知られています。
ポジティブ効果とは、若者と比べてお年寄りの方がポジティブな感情を抱きやすいというものです。
今回は、気分をポジティブに保つ秘訣を高齢者から学びます。
本記事では以下のことが学べます。
2. 高齢者は、ポジティブな記憶を思い出しやすく、ネガティブな記憶は思い出しにくい。
3. 高齢者は、ネガティブな感情からポジティブな感情に回復しやすい。
4. 高齢者の気分は安定している。
- 目次
- ①お年寄りは若者に比べて、ポジティブなモノに注意が向き、ポジティブな記憶が残りやすい。
- ②高齢者はポジティブな感情を抱きやすく、情緒も安定している。
- ③ポジティブ効果はワーキングメモリや集中力と関係する。
- ④ポジティブ感情はネガティブ感情を和らげる。レジリエンスとの関係。
- ⑤まとめ
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①お年寄りは若者に比べて、ポジティブなモノに注意が向き、ポジティブな記憶が残りやすい。
お年寄りにとってはポジティブな記憶 > ネガティブな記憶
年齢が上がるほどポジティブになるという研究が最近ではたくさん出てきています。
古い研究でも、高齢になるほど認知機能もポジティブになります。
Mather & Carstensen (2003)は、高齢者がネガティブなものよりもポジティブなものをよく覚える傾向にあることを示しました。
彼らは画像の片方にポジティブな顔かネガティブな顔かを呈示し、もう一方にニュートラルな顔をペアで呈示しました。
その視覚刺激に対する注意の向け方と顔画像の記憶テストをさせました。
まず、高齢者の注意の向き方についてです。
この図は、ニュートラルな顔と比べて感情的な顔でどのくらい反応速度が異なるかを示しています。
縦軸は、注意がポジティブに偏向しているのか、ネガティブに偏向しているのかを示します。
上に行くほどポジティブな方に注意のバイアスがかかっていることを表しています。
白がポジティブな顔が呈示された時、ねずみ色がネガティブな顔が呈示された時です。
左側が若者(20代)で、右側が高齢者(60代以上)です。
すると図より、若者はポジティブな顔でもネガティブな顔でもそれほど注意にバイアスはかかっていないです。
しかし、高齢者は、ポジティブな顔の場合、注意が良く向いていることが分かります。
高齢者は、ポジティブな方に注意がよく向くのです。
次に、記憶成績はどうなのか?
それを示したのが以下の図です。
この図の上側半分が記憶成績を示しています。
Youngerが若者の成績。
Olderが高齢者の成績です。
左側半分がポジティブな顔の記憶成績で、右側半分がネガティブな顔の記憶成績です。
すると、全体的な数字は若者の方が高く、記憶成績は良いのですが、重要なのはポジティブな顔やネガティブな顔がニュートラルと比べてどれくらい覚える割合が多かったかです。
若者を見ると、ポジティブでもネガティブでもニュートラルとそれほど数字に違いはありません。
しかし、高齢者になると、ポジティブな顔はニュートラルな顔と比べて記憶成績が良く、ネガティブとニュートラルでは差はないという結果でした。
なので、高齢者は若者と比べて、ポジティブなものに注意が行き、ポジティブなものをよく覚えると言えます。
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自分の過去を振り返る時も高齢者はポジティブな記憶をよりよく思い出す。
先ほどは、顔の記憶をその場で思い出す研究でしたが、過去に思いを馳せる場合どうなのでしょうか?
それを研究したのが、Kennedy et al. (2003)です。
彼らは47歳~102歳までの300人の高齢者を対象にしています。
この中で、年齢が高い群と低い群とに分けて分析しています。
また、過去を思い出すときに、正確に思い出すことを強調した条件(Accuracy)と、その時の感情に注目していることを強調した条件(Emotion)とを設けて研究しています。
年齢と条件についてそれぞれの結果が以下の図です。
縦軸は、どれだけポジティブな記憶を思い出したのかを示します。
Accuracyが性格に思い出すように強調した条件。
Emotionが感情に注目していると強調した条件です。
Younger controlは年齢の低い群で、Older controlは年齢の高い群です。
すると年齢が若い群よりも高い群の方が、ポジティブな記憶を思い出しやすいことが示されています。
さらに興味深いことに、正確さではなく、感情を重視して思い出してもらうと、よりポジティブな記憶を思い出しやすくなっています。
一般化は難しいですが、年齢が高くなるほどポジティブな記憶を思い出しやすく、感情に焦点を当てて思い出してもらうとよりポジティブな記憶を想い出すようになります。
なお、これら二つの研究結果から、高齢者の記憶と注意に関するポジティブ効果はかなり広く当てはまりそうです。
Reed et al. (2014)は、たくさんの研究を集めてきて分析し直し、一定の結論を出すメタ分析という手法を使って高齢者のポジティブ効果を検証しました。
なお、メタ分析については以下の記事に詳しく説明しています。
併せて読んでいただけると幸いです。
高齢者の感情に関する研究を集めてメタ分析したのが以下の図です。
この図で大切なのは、引かれた直線が0よりも高いことです。
なお、年齢が高くなるほど直線が上がっているので、ポジティブ効果は高齢になるほど高くなると言えます。
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②高齢者はポジティブな感情を抱きやすく、情緒も安定している。
たまに、怒りに燃えるおじいちゃんやおばあちゃんを見かけますが、基本的に高齢者は穏やかなイメージがあります。
では、高齢者の感情はどのような傾向があるのでしょうか?
それを示したのが、Carstensen et al. (2012)です。
彼らは同じ集団の高齢者を長期間調査し、感情体験が年齢によって変化するのかを調べています。
その結果が以下の図です。
上の図Aは、縦軸がポジティブ感情体験の多さ。
横軸は年齢を表しています。
図より、20代~70代くらいまではポジティブ感情体験が多くなっていきます。
しかし、70代くらいで頭打ちになり、少し下降傾向になります。
ポジティブな感情体験がどのくらい多いのかをカウントしていますので、70代くらいまでは日常でポジティブな気持ちになっていることが多いと分かります。
ただ、70代からは下がっていますが、外出などの活動自体が少なくなりますので、この結果をそのまま鵜呑みにすることはできません。
しかし、年齢が上がるほどポジティブになっていきます。
下の図Bは、縦軸が感情を極端に強く感じることが少ないという感情の安定状態度合いを示します。
横軸は同様に年齢です。
こちらは、年齢が上がるにつれて上がっています。
つまり、年齢を重ねるほど、情緒不安定になりにくく、穏やかになると言えます。
この図は、ポジティブ感情体験の多さと生存率を示しています。
縦軸が生存率。
横軸が調査開始から何年経過したかを示しています。
黒はポジティブ感情体験が多い群で、ねずみ色が少ない群です。
すると、時が進むにつれて両群の差が開いていき、黒の方が生存率が高いことが分かります。
ポジティブ感情体験が多いと長生きにもつながるかもしれません。
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③ポジティブ効果はワーキングメモリや集中力と関係する。
さて、これまでの研究から、高齢者にはポジティブな感情を抱きやすいというポジティブ効果があることが示されています。
では、このポジティブ効果はなぜ生じるのでしょうか?
Mather & Knight (2005)は、頭の中で一時的に記憶するワーキングメモリと集中力とを調べて、ポジティブ効果に関係する要因を調べました。
まず、彼らは、ポジティブな絵、ネガティブな絵、ニュートラルな絵をそれぞれ見せて記憶テストを行いました。
その結果が以下の図です。
縦軸は思い出せた絵の割合です。
左側が高齢者で、右側が若者です。
ねずみ色が思い出せた絵の中でのネガティブな絵の割合で、白がポジティブな絵の割合です。
すると図より、高齢者はポジティブな絵の方がネガティブな絵よりも思い出した割合が多いです。
一方、若者はネガティブな絵の方が割合が大きく、高齢者とは真逆です。
つまり、この研究でも高齢者にポジティブ効果が見られました。
次に、ワーキングメモリ能力を調べて、その能力の成績によって分類して分析した結果が以下の図です。
上の図Aが、ワーキングメモリが高い群の結果で、下の図Bが低い群の結果です。
図Aの高い群の場合、先ほどと同様の結果が示されています。
一方、図Bの低い群では、高齢者でネガティブな絵の割合が多くなっています。
つまり、ワーキングメモリという認知機能がポジティブ効果に影響するのです。
最後に、絵を見せている間に、音を呈示し、その音の変化が何回生じたのかを答えさせる研究もしました。
つまり、絵の記憶と音の識別のマルチタスクをして、集中力を分散させた場合どうなるのかを見ています。
その結果が以下の図です。
上の図Aは、絵だけの今までと同様の条件であり、結果も同様です。
下の図Bは、マルチタスクの条件です。
すると、高齢者でネガティブな絵の割合が格段に上がっています。
まとめると、ポジティブ効果は集中力のような高次の認知機能と関係するのです。
なので、もしこの高次な認知機能が阻害されると、ネガティブな感情が強くなるのかもしれません。
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④ポジティブ感情はネガティブ感情を和らげる。レジリエンスとの関係。
いくらポジティブ効果があると言っても、ネガティブな感情と無縁の生活は不可能です。
では、ネガティブな感情を和らげることはできるのでしょうか?
それを示したのが、Ong et al. (2006)です。
彼らは日記をつけてもらって、ネガティブ感情やストレスがどのような特性によって和らいだり、解消したりするのかを調べました。
その結果が以下の図です。
この図は、日々のストレスが高い人の場合を示しています。
縦軸は日々のネガティブ感情の強さ。
横軸は日々のポジティブ感情が強い(High)か弱い(Low)か。
傍線がレジリエンスの低い方で、破線が高い方です。
レジリエンスとは、ストレスからの回復力や適応力などを表します。
図より、レジリエンスの高い破線の場合、日々のポジティブ感情の高低によってネガティブ感情は変わりません。
しかし、レジリエンスが低い傍線の場合、日々のポジティブ感情が高低により、ネガティブ感情の高さが変わります。
もちろん、ポジティブ感情が高いと、ネガティブ感情は低いです。
つまり、ポジティブ感情は、ネガティブ感情を緩和させる緩衝材になります。
なお、ストレスレベルが低い場合はどうなのでしょうか?
それが以下の図です。
図の見方は同様です。
しかし、ポジティブ感情はそれほど関係なく、単にレジリエンスの高低によってネガティブ感情の高さが変わります。
レジリエンスが高い人は、低い人と比べてネガティブ感情は低くなります。
これらより、高いストレス状態では、レジリエンスが低い人は、ポジティブ感情を抱くことやポジティブ感情を経験すると、ネガティブ感情が下がると言えそうです。
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⑤まとめ
以上より、お年寄りのポジティブ感情とネガティブ感情について見てきました。
まとめると以下のようになります。
- 高齢者はネガティブなものよりポジティブなものに注意が向きやすい。
- 高齢者はネガティブなのもよりポジティブな記憶が残りやすく、思い出しやすい。
- 年をとるほどポジティブな感情を抱きやすくなる。
- 年をとるほど情緒が安定する。
- 高齢者のポジティブ効果には注意力や集中力など高次の認知機能が関係する。
- ポジティブ感情はネガティブ感情を和らげる役割を果たす。
人生の目的の一つが幸せになることとしたら、年齢が上がるにつれてポジティブな経験をしやすくなり、幸せを抱きやすくなるかもしれません。
年の功と言えるかもしれませんが、ご高齢の方の研究は私たちの幸せの糸口をつかめる研究でもあると思います。
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参考文献
Carstensen et al. (2011). Emotional Experience Improves With Age: Evidence Based on Over 10 Years of Experience Sampling. Psychology and Aging, 26(1), 21-33.
Kennedy et al. (2003). The Role of Motivation in the Age-Related Positivity Effect in Autobiographical Memory. Psychological Science, 15(3), 208-214.
Mather & Carstensen (2003). AGING AND ATTENTIONAL BIASES FOR EMOTIONAL FACES. Psychological Science, 14(5), 409-415.
Mather & Knight (2005). Goal-Directed Memory: The Role of Cognitive Control in Older Adults' Emotional Memory. Psychology and Aging, 20(4), 554-570.
Reed et al. (2014). Meta-Analysis of the Age-Related Positivity Effect: Age Differences in Preferences for Positive Over Negative Information. Psychology and Aging, 29(1), 1-15.
Ong et al. (2006). Psychological Resilience, Positive Emotions, and Successful Adaptation to Stress in Later Life. Journal of Personality and Social Psychology, 91(4), 730-749.
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