・自分を大事にして何が悪いのですか?
・利己的な方が得するのかな?
人間は利己主義なのか。それとも利他主義なのか。
この問題は人類が誕生して以来の大問題です。
一見、自己中な利己主義の人間の方が得をしているかのように思います。
他人に気を遣って、他人のために何かしても何のお返しもなく、むしろ文句を言われることもあります。
有名なビジネス書や社会人の間では、「giveの精神」と言って利他主義を賞賛します。
でも、なんか利己主義の方がトータルして得するような・・・。
待ってください。
実は、近年の心理学の研究では、利己主義的な人間よりも利他主義的な人間の方が良いことが示されています。
今回は、この利他主義と利己主義の心理学についての知見をご紹介します。
本記事では以下のことが学べます。
2. 罰は利他主義を促さない。
3. 共感性が利他主義を助長する。
4. 親近感や親しさと利他主義的行動
5. 利他主義の恩恵
- 目次
- ①人間は本来利他主義的な生物である。
- ②共感性の高い人は利他的になりやすい。
- ③親しさや親近感が利他主義的な行動を促す。
- ④利他主義の恩恵:利他的な人はモテるし、一緒に仕事したいと思われるし、長期的な関係を築きたいとも思われる。
- ⑤まとめ
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①人間は本来利他主義的な生物である。
周りの人間を見ると、自分勝手な行動をとる方が多いように思われます。
しかし、意外にも心理学では、利他主義が根底にあることを示しています。
Rand et al. (2012)は、人間が本来的に利他主義的な行動をとり、むしろ熟考すると利己主義的になることを示しました。
人間には、二つのシステムがあります。
一つ目は、感情的ですぐ判断するシステム。
二つ目は、理性的で合理的なゆっくりと判断するシステム。
何かを判断する時には、この二つのシステムが働きます。
そこでRand et al. (2012)は、行動経済学的実験で、数秒以内に判断した人とゆっくり判断した人とを分けて分析しました。
すると、以下のような結果になりました。
図aの縦軸は、どれくらいの人が他人に施しを与えたかを示しています。
つまり、上に行くほど利他的だということです。
左の青の棒グラフが、10秒以内の即決した人。
右の赤の棒グラフが、10秒以上ゆっくりと熟考した人です。
すると、すぐに判断した方が、明らかに熟考した人よりも利他的になります。
図bは、縦軸は同じですが、横軸を判断の速さにした場合の図です。
右に行くほど判断が遅いことを示します。
すると、図bより、判断が遅いほど他人に施す人の割合が低くなり、利己的になることがわかります。
重要なのは、すぐに判断する場合です。
即決の場合は、考える理性的要素が薄いですから、より本能的な判断になります。
その本能レベルでの判断であるほど、利他的なのです。
なので、本来、人間は利他的であることが示唆されます。
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罰の行使は逆に人を利己主義的にしてしまう。
Fehr & Rockenbach (2003)は、行動経済学的実験を行い、利己的に振る舞う人に罰を与えることができる条件を設けました。
一見、罰があると利他的に振る舞うようになりそうですが、そうではありません。
それが以下の図です。
この図は、罰を受ける側の結果を示しています。
縦軸は、罰を受ける側が相手に渡したお金の金額。
横軸が、罰を与える側が最初に罰を受ける側に預けたお金の金額です。
白が、罰を与えた条件。
ねずみ色が、罰を設けていない条件。
黒が、罰があるけれど罰を行使しなかった条件です。
すると、罰の権限を持っている人は、どのくらいお金を預けても、同様の結果が見られます。
つまり、罰を行使した条件では罰を受けた側はあまりお金を返しません。
一方、罰の権限はあるけれども罰を行使しなかった場合、罰自体がない条件よりも戻ってくるお金は多くなりました。
この研究から、罰はあるけれどよっぽどでない限り行使せずにいる方が、相手も利他的になります。
皮肉ですが、罰を行使しまくる場合、人は利己的に振る舞うのです。
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その人が利己主義か利他主義かを見分ける方法
次にご紹介する研究は、みなさんの気になるところだと思います。
その人が利己的か利他的かを判断する方法が一応あります。
Simpson & Willer (2008)は、利己主義的な人と利他主義的な人とを分けて、行動経済学的ゲームをさせました。
そのゲームでは、自分の行動が数人のグループ全体に周知される公的条件と自分の行動が一人のみ分かるプライベート条件の二つがありました。
つまり、「利己的か利他的か」と「公的条件とプライベート条件」があります。
すると、結果は以下のようになりました。
この図の、縦軸は、どれくらい利他的な行動をしたかを示します。
左側が利他主義の人。
右側が利己主義の人です。
濃いねずみ色が、プライベート条件。
薄いねずみ色が、公的条件です。
すると、公的条件では、利己主義の人が少し低いですが、同じくらい利他的行動をとります。
一方、プライベート条件では、差は歴然です。
利他主義的な人でも少しだけ利己的になりますが、利己的な人と比べると利他的な行動をとります。
一方、利己主義的な人は、ここぞとばかりに利己的になります。
つまり、公の行動ではわかりませんが、いざ行動の結果が当事者だけにしかわからない状況になると、利己主義が浮き彫りになります。
プライベートでも利他的な人とつき合いたいものです。
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②共感性の高い人は利他的になりやすい。
では、利他的な人は利己的な人と何が違うのか?
大きな特徴は、共感性の高さが上げられます。
Smith et al. (1989)は、実験参加者を共感性の高い群と低い群に分けました。
その後、とある女性の悲惨な日常をつづったビデオテープを見せて、実験参加者が彼女にアドバイスするかどうかで利他的な行動をとるかどうかをみました。
すると、結果は以下のようになりました。
この図のFeedbackの有無はそれほど気にしないでください。
左側が共感性が低い群。
右側が共感性が高い群です。
すると、共感性が高い群の方が、共感性が低い群よりも数値が高く、他人にアドバイスをする利他的行動にでることが示されています。
他にも、共感性を高めるために、ビデオテープを見ている時に、出演女性の惨状を想像する群としない群に分けて実験も行いました。
すると、下図のようになりました。
この図も見方は同じです。
右側が想像した群。
左側がそうでない群です。
すると、惨状を想像して共感性を高めた方が、数値が高く、より他人を助ける利他的行動に出やすいことがわかります。
つまり、利己的な人と利他的な人との違いは共感性にあるのです。
さらに、利己的な人でもシチュエーションを想像させたりすることで利他的にできる可能性もあることが示唆されています。
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③親しさや親近感が利他主義的な行動を促す。
次に、どのような人が利他的な行動をしてもらえるのかという点についてです。
親しみが利他的行動を促す。
自分が親しいと思う人には利他的行動をしたくなる。
友達や家族や恋人など、自分と親しい間柄にある人には利他的に尽くしたくなるものです。
それを示したのが、Mikulincer et al. (2005)です。
彼らは、実験参加者に、まず自分の友達や家族など親しい間柄の人の名前を記入させました。
他の参加者には、単なる知り合い程度の名前を書かせます。
また、他に、親しい人の写真を見せる条件も設けています。
その後、女性が嫌な体験をさせられるビデオを見せて、ビデオ上の女性が代わってくれるように懇願した時に、代わってあげられるかどうかで利他的な行動が行われるかどうかをみました。
すると、結果は以下のようになりました。
彼らの研究は、アメリカとイスラエルで行われており、両者とも同じ傾向を示しているので、上の図のアメリカの結果に注目します。
この図のWilling to helpとAgree to helpが女性を助けようとした利他的行動を示します。
Attachment Figureは、親しい人の写真を見た条件。
Close Personは、友達や家族などの名前を記入した条件。
Aquaintanceは、単に名前を記入した条件を示します。
すると、下二つの両方の指標で、写真を見た条件の場合、数値が大きく、助けるという利他的な行動を示すことがわかります。
つまり、親しみを感じさせるようにすると利他的行動をしやすくなるのです。
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感情的に親近感が強いほど利他的行動をしやすくなる。
親しみがわく人に利他的行動をすることがわかりましたが、この親しみが強いほどより利他的行動をすることが示されています。
Curry et al. (2012)は、家族と友人を分け、さらにどのくらい連絡を取りあっているかでも分けて、親密性が利他的行動に結びつくかを調べました。
すると、以下のような結果になりました。
縦軸は、どのくらい募金や寄付してあげたいかを示しています。
横軸は、
1が毎週連絡を取る場合。
2が毎月連絡を取る場合。
3が毎年連絡を取る場合です。
傍線が家族で、破線が友達です。
すると、図より、友達よりも家族の方が寄付をしたい度合いが高いことがわかります。
また、どのくらい頻繁に連絡を取り合っているかによっても少しだけですが、利他的行動に関係します。
特に、毎週くらいの頻度で連絡し合っている人には、より寄付をしてあげたいと思う傾向があります。
この図は、感情的な親密度を表します。
横軸と線は先ほどと同様です。
すると、図より、家族の方が友達よりも感情的親密度が高いのが分かりますが、家族の場合、毎週レベルで頻繁に連絡を取り合っていると親密度が格段に高くなります。
先ほどの研究を考慮すると、感情的に親密な人に対してほど利他的に行動したくなるようです。
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④利他主義の恩恵:利他的な人はモテるし、一緒に仕事したいと思われるし、長期的な関係を築きたいとも思われる。
最後は、利他主義であるといいことが起こるという研究です。
Barclay (2010)は、マッチングアプリのようなデートサイトの自己紹介文で利他的な行動を示すプロフィールとそうでないプロフィールを用意し、男女で利他的な人とどのような関係性を結びたいのかを研究しました。
すると以下のような結果になりました。
縦軸はよりその関係性を結びたいと思う度合い。
横軸が関係性です。
ねずみ色が、女性が利他的な男性を評価した場合。
白が、男性が利他的な女性を評価した場合です。
すると、
- 男女とも利他的な人と長期的な関係を結びたい(Long-term relationship)
- 男女とも利他的な人と友達になりたい(Plat. friends)
- 男女とも利他的な人からお金を借りたい
という傾向が見られました。
一方、男女で異なる評価もありました。
- デートする場合、男性が利他的だと女性はしたいと思う(Date)
- 働く場合、男性が利他的だと女性は一緒に働きたいと思う(Work with)
という傾向です。
つまり、男女とも良い関係を築くには利他的な人の方がいいと思っています。
他方、女性は利他主義的な男性を魅力的に思います。
しかし、男性はあまり利他主義的な女性を魅力的には思いません。
男女によって利他主義の評価は分かれるのです。
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さらに、この研究を押し進めたArnocky et al. (2017)は、利他主義であることが恋愛経験に大きく関係することを突き止めました。
それを示したのが以下の図です。
縦軸は各関係性の経験量です。
横軸は、左側が募金や寄付等をしない非利他的な人で、右側が募金や寄付等をする利他的な人を示します。
緑の破線が男性で、赤の傍線が女性です。
すると、統計的に有意な差がありあそうなのが、
(b)生涯のデート相手の数
(c)生涯のセックスのパートナーの数
(d)生涯のセックスフレンドの数
です。
いずれも、男性の場合、利他的であるほど多いのが特徴です。
この研究でも、女性が利他的であるかどうかはあまり関係ないことが示されています。
利他主義は、男性の場合、大きく得をします。
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⑤まとめ
以上より、利他主義の心理学的知見を見てきました。
まとめると以下のようになります。
- 人間は元々利他主義的である可能性が高い。
- 利己主義は理性的に熟考するときに出やすい。
- 罰は人間を利他的にせず、むしろ利己的にさえする。
- 罰は、用意してもいいけどめったに行使しないのが利他的行動をもっとも引き出す。
- 共感性が利他的行動を促す。
- 親近感や親しさを感じる人にほど利他的行動をする。
- 人は、親密度、特に感情的な親密度が高い人に利他的行動をする。
- 人は、利他主義的な人と長期的な関係性を結びたい。
- 男性の場合、利他主義的であるほどモテるなどの恩恵を受ける。
- 女性は、利他主義的男性を好むが、男性は女性が利他主義的かどうかはあまり気にしない。
社会では「giveの精神」と呼ばれ、利他主義的な行動をするように言われます。
もちろん様々な理由がありますが、利他主義的な人は対人関係で恩恵を得やすいです。
また、利己的な行動は、人間の理性が生み出した悪魔のような気もします。
本来、人間は利他的な協力的な人間なのかもしれません。
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参考文献
Arnocky et al. (2017). Altruism predicts mating success in humans. British Journal of Psychology, 108, 416-435.
Barclay (2010). Altruism as a courtship display: Some effects of third-party generosity on audience perceptions. British Journal of Psychology, 101, 123-135.
Curry et al. (2012). Altruism in social networks: Evidence for a 'kinship premium'. British Journal of Psychology. https://doi.org/10.1111/j.2044-8295.2012.02119.x.
Fehr & Rockenbach (2003). Detrimental effects of sanctions on human altruism. Nature, 422, 137-140.
Mikulincer et al. (2005). Attachment, Caregiving, and Altruism: Boosting Attachment Security Increases Compassion and Helping. Journal of Personality and Social Psychology, 89(5), 817-839.
Rand et al. (2012). Spontaneous giving and calculated greed. Nature, 489, 427-430.
Simpson & Willer (2008). Altruism and Indirect Reciprocity: The Interaction of Person and Situation in Prosocial Behavior. Social Psychology Quarterly, 71(1), 37-52.
Smith et al. (1989). Altruism Reconsidered: The Effect of Denying Feedback on a Victim's Status to Empathic Witnesses. Journal of Personality and Social Psychology, 37(4), 641-650.
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