精神医学/Psychiatry 記事/Article

うつ病の認知脳科学:感情コントロールが苦手でネガティブ感情を自分のせいにしがち

・すぐに感情を表に出してしまいます。

・感情コントロール力を身に着けたい。

・うつ病と感情コントロールの関係は?

人とコミュニケーションする時に感情は切っても切り離せません。

時に他人の言動にイラっときても、それを表に出さずにやり過ごすことが必要です。

この時に行うのが、感情コントロールです。

以前の記事「科学的に正しい感情コントロールの方法:EQを高めて怒らない自分になる」では、心理学的に効果のある感情コントロール法についてご紹介しました。

しかし、この感情コントロールが苦手な方々います。

それが、うつ病患者さんです。

あまり知られていませんが、うつ病は症状的にも、お薬の副作用でも、すぐにイライラしやすくなります

感情に衝動的にもなります。

以前の記事「うつ病の認知脳科学:ネガティブ感情への異常反応とポジティブ感情の枯渇」では、うつ病患者さんの感情の脳内メカニズムが健常者と異なることをご紹介しました。

今回は、一歩踏み込んで、うつ病の感情のコントロールについて脳内メカニズムを基軸に解説します。

本記事では以下のことが学べます。

1. うつ病患者は感情コントロールが苦手

2. 感情コントロールに関する前頭葉の機能がうつ病患者では上手く働かない。

3. 感情に関わる偏桃体と前頭葉とのつながりがうつ病患者では弱い。

4. うつ病患者はネガティブ感情を自分のせいにしやすい。

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①うつ病患者はネガティブ感情を判断する時に前頭葉が上手く機能しない。

うつ病患者さんが感情的になりやすいことは一般的に知られています。

特に、イライラなどの怒りの感情が出やすく人間関係でも問題になりやすいです。

前回記事「うつ病の認知脳科学:ネガティブ感情への異常反応とポジティブ感情の枯渇」では、うつ病患者さんはネガティブ感情に敏感になっていることをご紹介しました。

このネガティブ感情を評価するときに、うつ病患者さんの脳は健常者と働き方が異なります。

Grimm et al. (2007)は、ポジティブな絵とネガティブな絵を見せて、その絵がどのような感情価を帯びているかを判断させる課題を、うつ病患者に行いました。

すると、うつ病患者は、健常者よりも、絵をよりネガティブなものと判断する傾向があることが示されました。

その時の脳活動が以下の図です。

depression negative emotion prefrontal

図Aは健常者の脳活動で図Bはうつ病患者さんの脳活動です。

図Aより、前頭葉の領域で白く光っているのがわかります。

一方、図Bでは、同じような領域の活動は見られますが、黄色く光っており、健常者よりも活動量が少ないことが予測されます。

特に、前頭葉の活動に注目した図が、CとDです。

図Cは左脳の前頭葉の活動量を示します。

左の棒グラフは、PVが単に絵を見たコントロール条件。

EJは絵のポジティブ/ネガティブを判断する条件です。

濃いねずみ色が健常者で、薄い方がうつ病患者です。

すると、EJの時に、健常者の方が活動が高くなり、うつ病患者では十分に前頭葉が活動していないことがわかります。

その活動を時系列で表したのが右図の折れ線グラフです。

絵を呈示されて判断している時に、健常者では活動が上がっていますが、うつ病患者ではそれほど上がっていません

図Dは無視で結構です。

つまり、感情に関わることをするときにうつ病患者さんは十分に前頭葉が活動しないのです。

さらに、前頭葉の活動と主観的な感情価の判断との関係が示されているのが、以下の図です。

depression prefrontal brain negative emotion valence

図AとBはそれぞれ左脳の前頭葉の活動です。

図Aがポジティブな絵を見た時で、図Bがネガティブな絵を見た時の判断です。

重要なのは、真中のグラフと右側のグラフです。

真中が健常者で、右側がうつ病患者です。

グラフの縦軸が前頭葉の活動量で、横軸が主観的な判断です。

今回はネガティブ感情に焦点を絞ります。

図Bより、健常者の場合、ネガティブ感情が強いと判断するほど前頭葉の活動も上がっています

一方、うつ病患者の場合、ネガティブ感情が強いと判断しても前頭葉の活動は上がっていません

よって、ネガティブ感情に直面した時に、うつ病患者は前頭葉が上手く機能しないのです。

前頭葉が上手く機能しないとどういうことになるのか?

それが下記にご紹介する通り、感情コントロールが上手く機能しないことと繋がります。

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②うつ病患者は感情コントロールが苦手で前頭葉機能が上手く働かない。

ネネガティブ感情を判断する時に、前頭葉が上手く機能しないことがわかりました。

これは、ネガティブ感情にさらされた時に脳の防御機能のようなものがうまく働かないとも考えられます。

ネガティブな刺激に何もせずに受けっぱなし状態です。

このときに必要になるのが、感情コントロールです。

ネガティブ刺激から心を守る方法でもあります。

Erk et al. (2010)は、ネガティブな絵を見せた時にネガティブな感情をそのまま抱くコントロール条件とネガティブな感情の解釈を変えたりする感情コントロール条件を設けて、うつ病の感情コントロールの脳内メカニズムをさぐりました。

後者の条件では、例えば、「この絵は単なる絵にすぎず現実ではない」と考えたり、第三者のような自分を観察する自分を設けて冷めた状態で自分を客観視したりする方法を行わせました。

感情コントロールをしている時の脳活動の結果が以下の図になります。

depression emotion control prefrontal brain

上の図は、健常者が感情コントロールをしている時の脳活動です。

先ほどの研究と同様に前頭葉の部分が黄色く光っています。

コントロール条件と感情コントロール条件との前頭葉の活動の違いが真中の図です。

NoREGがコントロール条件で、REGが感情コントロール条件です。

感情コントロールをしている時の方がより前頭葉が活動しています

さらに重要なのが、右のグラフです。

これは、縦軸がネガティブ感情に関わる偏桃体の活動で、横軸が前頭葉の活動を表します。

偏桃体が活動するほどネガティブ感情が強いと言われています。

このグラフは少し特殊で、縦軸は上に行くほど偏桃体の活動が抑えられると解釈します。

すると、グラフより、前頭葉の活動が上がれば上がるほど、偏桃体の活動が抑えられるという関係性が見られます。

健常者では、このような結果になります。

下の図は、健常者とうつ病患者の前頭葉の脳活動を比較した図です。

青が健常者で、赤がうつ病患者です。

すると、感情コントロールをするREGの条件で、うつ病患者の脳活動が上がっていないことがわかります。

つまり、うつ病患者さんは感情コントロールが苦手で、上手くできていないのです。

そして、ネガティブな感情に関わる偏桃体と前頭葉の結びつきがうつ病患者で悪いことも示されています。

depression emotion regulation prefrontal amygdala

下の図をご覧ください。

この図は、前頭葉と偏桃体との結びつきの強さを表しています

右図の棒グラフがそうで、縦軸が結びつきの強度です。

青が健常者で、赤がうつ病患者です。

すると、一目瞭然で、うつ病患者の前頭葉と偏桃体の結びつきが低いことがわかります。

つまり、うつ病患者さんは、前頭葉が機能せず感情コントロールが苦手で、偏桃体との結びつきも弱い

そのため、ネガティブ感情を抑制したり弱めたりすることがなかなかできないのです。

脳内メカニズムとして、うつ病患者さんがなぜネガティブ感情に脆弱なのかがわかります。

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③うつ病患者はネガティブ感情を自分のせいにしがち

うつ病患者さんは、ネガティブ感情にさらされると感情コントロールが上手くできないことが分かりました。

さらに、うつ病患者さんは、ネガティブ感情を自分のせいにして、ポジティブ感情を他人や環境のせいにする傾向があります

ネガティブ感情が抑制できないのに、さらにネガティブ感情を自分に呼び込むのです。

Loeffler et al. (2018)は、嬉しい時の顔写真と悲しい時の顔写真を用いて、感情の判断をさせることで、感情をどのように帰属させるかを調べました。

まず、うつ病患者の質問紙調査で、以下のような傾向がみられました。

depression emotion internal attribution

図の縦軸は、上に行くほど自分のせいだとする傾向を示します。

横軸の左がポジティブな出来事で、右がネガティブな出来事です。

薄いねずみ色が健常者で、濃いねずみ色がうつ病患者さんです。

すると、ポジティブな出来事では、健常者の方が自分のせいだとする傾向があります

一方、ネガティブな出来事は、うつ病患者の方が自分のせいにする傾向が見られます

つまり、うつ病患者さんは、ネガティブを自分に、ポジティブを他者に帰属するのです。

depression anhedonia internal attribution

この図は、縦軸がアンへドニア(あまり嬉しさなどのポジティブ感情を感じない)度合いを示します。

アンへドニアに関しては以前の記事「うつ病の認知脳科学:中核症状の一つである気分の落ち込みの脳内メカニズム」で詳しくご紹介しております。

横軸が、自分のせいにする度合いです。

すると、図より、ポジティブ感情を抱かないほど自分のせいにするという関係性が見られます。

では、ネガティブ感情を自分に、ポジティブ感情を他者に帰属する時に関係する脳領域はというと以下の図になります。

depression brain parietal internal attribution

図Aの、後ろの方で赤く光っているのがわかります。

この領域は、頭頂葉の辺りで、自己や他者とのかかわりなどと関係します。

図Bは、縦軸が頭頂葉の活動量です。

横軸は、ポジティブな感情を自分に帰属する度合いです。

すると、ポジティブな感情を自分に帰属するほど、この領域の活動が下がっています。

これは、なぜ重要なのかというと、この領域の活動が、健常者では上がるのですが、うつ病患者さんでは下がっているという逆の状態が生じているからです。

ポジティブを自分に帰属しないメカニズムの一端が解明されてきています。

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④まとめ

以上より、うつ病患者の感情コントロールと帰属の脳内メカニズムについて見てきました。

まとめると以下のようになります。

  • うつ病患者はネガティブな感情を判断する時に前頭葉が上手く機能しない。
  • うつ病患者は、ネガティブな感情をコントロールするのが苦手。
  • うつ病患者は、感情コントロールをするときに必要な前頭葉が上手く機能しない。
  • うつ病患者の脳では、偏桃体と前頭葉の結びつきが悪い。
  • うつ病患者は、ネガティブを自分に、ポジティブを他者に帰属する。
  • ポジティブを自分に帰属しづらいため、よりネガティブになっていく。

うつ病患者さんは、感情のコントロールが苦手なゆえに、ネガティブ感情の悪影響をダイレクトに受けます。

さらに、感情コントロールをしても、健常者と異なる方法を用いてしまい、適切に感情コントロールができないということも別の研究で示唆されています(Ehring et al., 2010)。

うつ病の治療には様々なものがありますが、適切な感情コントロールを見に着けることはその一つとして重要です。

感情コントロールの研究が進むことを願っています。

本記事が少しでもうつ病研究等のお役に立てると幸いです。

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参考文献

Erk et al. (2010). Acute and Sustained Effects of Cognitive Emotion Regulation in Major Depression. Journal of Neuroscience, 30(47), 15726-15734.

Ehring et al. (2010). Emotion Regulation and Vulnerability to Depression: Spontaneous Versus Instructed Use of Emotion Suppression and Reappraisal. Emotion, 10(4), 563-572.

Grimm et al. (2007). Imbalance between left and Right Dorsolateral Prefrontal Cortex in Major Depression Is Linked to Negative Emotional Judgment: An fMRI Study in Severe Major Depressive Disorder. Biological Psychiatry, 63(4), 369-376.

Loeffler et al. (2018). The regulation of positive and negative emotions through instructed causal attributions in lifetime depression- A functional magnetic resonance imaging study. NeuroImage: Clinical, 20, 1233-1245.

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