・行動経済学と普通の経済学ってどう違うの?
・行動経済学って日常生活に役に立つの?
ご存知の方も多いかもしれませんが、Richard Thaler(リチャード・セイラー)さんという方をご紹介します。
ノーベル経済学賞授賞理由
「人間の特性が合理的市場にどのように影響するかを示した。経済と個人の意思決定という心理的分析の架け橋を築き、経済をより人間的なものにした」”for his contributions to behavioral economics”
Richard H. Thaler has incorporated psychology realistic assumptions into analyses of economic decision-making. By exploring the consequences of limited rationality, social preference, and lack of self-control, he shown how these human traits systematically affected individual decisions as well as market outcomes.
https://www.nobelprize.org/nobel_prizes/economic-sciences/laureates/2017/press.html (ノーベル賞のホームページ参照)
経済学と言ってもこの方の専門は「行動経済学」です。
よく聞くけど、「行動経済学」とはなんでしょうか?
普通の経済学とはどう違うのかわからない方も多いと思います。
みんな知っているけど、実際行動経済学ってどのような学問なのかをご紹介します。
本記事では以下のことが学べます。
2. 行動経済学の代表的な理論と実験について
3. 現代の行動経済学の実態について
4. 初学者でも理解できるお勧めの本
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行動経済学とは?
行動経済学ってどんな学問?
行動経済学を知るには、ちょっと歴史をおさらいした方がよくわかりますので、ちょっとだけ過去に戻ってみましょう。
なお、ここからは、(Scientific Background on the Sveriges Riksbank Prize in Economic Sciences in Memory of Alfred Nobel 2017 RICHARD H. THALER: INTEGRATING ECONOMICS WITH PSYCHOLOGY The Committee for the Prize in Economic Sciences in Memory of Alfred Nobel THE)を参考に話を進めます。
ざっくりした歴史
むかしむかし、1940年代まで、経済学は「人間は合理的に行動する生き物」だということを前提に研究が進んでいました。
合理的人間ってどんな人間?
⇒どんな時でも利益を最大にできる超合理的なロボットのような人間
しかし、1950年代にAllaisが「合理的人間」を想定した経済理論に合わない行動がいくつか生じることを指摘しました。
人間は、人生全体を見て利益が最大になるような行動をとらず、むしろ刹那的な選択ばっかりする。
そんな報告がだんだん出てくるようになりました。
そんな時、1979年に、KahnemanとTverskyがProspect Theory(プロスぺクト理論)というものを提唱しました。
この理論では以下の4つの特徴を持っています。
1)人間は、利益を、富のレベルではなく、ある参照点と比較して利益が増大するか減少するかで決めている。
ある基準点があって、その基準点からお金が増えるか減るかで利益を考えている。
2)人間は、利得よりも損失の方により敏感である。
得することよりも損することを嫌う方が勝つ。
3)人間は、鋭敏性の低下(diminishing sensitivity)を利得と損得の両方で示す。
$100⇒$200の方が、$10100⇒$10200の場合よりも得したと感じる。
4)この理論には、確率的重みづけ(probability weighting)が組み込まれてある。(なお、確率の重みづけの仕方は、主観的で変化しうる)
結論から言えば、「人間はそんな合理的な生き物ではない」ということを公的に主張したのでした。
このプロスペクト理論を経済学に応用した最初の人物がセイラー博士です。
その功績が認められてノーベル経済学賞を取ることになりました。
ちなみに、心理学で唯一ノーベル賞を受賞した研究が、このプロスペクト理論です。
2002年にカーネマン博士が経済学賞を受賞しました。
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結局、行動経済学って何なの?
人間に対する考え方を変えただけではない。
計算や統計だけを使ったり、シミュレーションしたりするのではなく、被験者を呼んで、実験をして人間の経済行動を研究する。
それが「行動経済学」です。
ざっくりわかりやすく言うとこんな感じ。
どんな実験をやっているのか実際に体験してみましょう。
行動経済学でおそらく最も有名な「最後通牒ゲーム(Ultimatum Game)」をご紹介いたします(下図参照)。
- 登場人物は2人。白がA君。黒がB君。
- まず、一人(A君)に一定額のお金が支給されます(2000円)。
- 次に、A君はB君に自分がもらったお金をいくらか決めて渡します。
なお、B君はA君がいくらもらったかを知っています。
- そして、B君は、A君が提示した金額を「受け取るか」「拒否するか」を選べます。重要なのは、B君が拒否した場合、A君に支給されたお金は全て没収されます。
逆に、B君がA君の金額を「受け取る」という選択をした場合、B君はA君から金額を受け取り、残りのお金をA君が懐に収めます。
典型的な結果がこちら(Sanfrey et al. 2003)
右図の黒い棒グラフに注目。
図は受け手側がOKをする割合を示しています。
実験参加者は受け手側。
今回の例で言えば、A君が1600円を手元に残して、B君が400円を提示された場合に、B君がOKする確率が5割くらいまでに落ちる。
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行動経済学の面白さ
この結果を見て、「あれ?」と思った方はいるかもしれません。
というのも、もし人間が「合理的」なのであれば、B君は最低金額(今回では200円)を提示しても必ずOKするはずです。
拒否すれば両者とも0円なわけですから。
人間は「合理的ではない」のです。
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行動経済学の現在
神経科学的(脳科学的)アプローチが最近かなり流行っています。(Knoch et al. 2006, Gabay et al. 2014)
「Neuroeconomics」という言葉も存在するくらいです。
もっと進んで、経営学に応用した「Neuromarketing」というのもあります。
このような基礎的な研究だけではなく、日常生活を舞台にした研究もかなりあります。
もしかしたら、そちらの方が面白いかもしれませんね。
人間の感情と意思決定の関係が理解されつつあります。
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ここでお勧めの本を二冊ご紹介します。
・友野典男(2006)『行動経済学―経済は「感情」で動いている』光文社新書
この書籍では、行動経済学の基礎的な実験を紹介しています。
教科書の簡単バージョンのようなものです。
プロスペクト理論の詳細も記述されていますので、行動経済学の基礎はこの一冊でばっちりです!
もっと学びたい方は、参考文献欄に記載されている論文や書籍に当たるのがよいと思われます。
ただ、古い書籍ですので、最新の研究を知りたい方は、それこそセイラー博士の書籍を読んでみてはいかがでしょうか。
・ダン・アリエリー(2013)『予想どおりに不合理―行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」』早川書房
この書籍は、身近な例を出して行動経済学の知見を紹介してくれています。
こちらは、応用に近いかもしれません。
話のネタになると思われます。
そういう研究もされているのかと感心するような一冊です。
参考文献もちゃんと載せてありますので、興味が出て原著に当たることもできます。
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参考文献
Scientific Background on the Sveriges Riksbank Prize in Economic Sciences in Memory of Alfred Nobel 2017 RICHARD H. THALER: INTEGRATING ECONOMICS WITH PSYCHOLOGY The Committee for the Prize in Economic Sciences in Memory of Alfred Nobel THE. https://www.nobelprize.org/nobel_prizes/economic-sciences/laureates/2017/advanced.html
Gabay et al. (2014) The Ultimatum Game and the brain: A meta-analysis of neuroimaging studies, Neuroscience and Behavioral Reviews, 47, 549-558
Knoch et al. (2006) Diminishing Reciprocal Fairness by Disrupting the Right prefrontal Cortex, Science, Vol. 314, 829-832
Sanfrey et al. (2003) The Neural Basis of Economic Decision-Making in the Ultimatum Game, Science, Vol. 300, 1755-1758
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