・ストレスで何も頭に入ってこない。
・ストレスは脳にどんな影響があるの?
現代人のお悩みベスト3に入ってくるくらいストレスはやっかいなものです。
ストレスが溜まると、何も手に就かず、勉強も仕事も進みません。
そんな経験は誰にでもあるのではないでしょうか?
では、ストレスは私たちの行動や認知機能にどのように影響するのでしょうか?
今回は、ストレスのメカニズムではなく、ストレスによって生じる影響に焦点を当てます。
なお、ストレスの脳内メカニズムに関しては前回の記事にありますので、併せて読んでいただけると幸いです↓
本記事では以下のことが学べます。
2. ストレスは地図などのナビゲーション機能に影響する?
3. ストレスは新しい発見をする創造性に影響する。
4. ストレスは新しく学習するよりも習慣化した行動を起しやすくさせる。
スポンサーリンク
①ストレスは記憶に悪影響を及ぼす。
まず最初に紹介するのが、ストレスの記憶への影響です。
実は、ストレスが記憶に影響するという研究は意外と少ないのが現状です。
その中でも、Evans & Schamberg (2009)は、青年期の人を対象に貧困など日々受けていた慢性的なストレスが記憶に悪影響を及ぼす可能性があることを示しました。
彼らは、インタビューや質問紙を通して、どれくらい生まれてからストレス事案がり、どれだけストレスフルな生活を送っていたのかを調べました。
その後、現在(17歳)時点のワーキングメモリ力を探り、ストレスの記憶への影響を調べています。
ワーキングメモリとは、相手の言葉や電話番号など、必要なことを記憶し、一旦頭の中に置いておく記憶力です。
彼らの研究では、タブレットを使って、順番通り色が光るのを記憶し、順番通りタッチして記憶力を調べています。
すると、このワーキングメモリ力とこれまでの慢性的なストレス度合いとの関係が以下のようになりました。
この図は、縦軸がワーキングメモリ力で、上に行くほど成績が良くなります。
横軸は、ストレス度合いで、右にいくほどストレスが高いことを示します。
すると、この図より、右肩下がりなのがわかります。
つまり、ストレス度合いが高いほどワーキングメモリ力は下がるのです。
生まれてからの今までのストレス堆積が記憶に影響することを示したのです。
全く別の研究では、一過性のストレスだと記憶に影響があるとは言えないというものが多く、慢性的なストレスか今まで溜まってきたストレスという長期的なストレスが記憶に影響すると考えてよさそうです。
スポンサーリンク
②ストレスがナビゲーションの記憶と創造力に悪影響を及ぼす。
二つ目は、一過性のストレスが、地図や迷路などのナビゲーションをする記憶に影響するのかという研究です。
Brown et al. (2020)は、とある迷路を使って決まったルートを覚えさせる研究を行いました。
この時、コントロール群とストレス群を用意し、ストレス群は間違った道を行くと電気ショックを受けるというストレス状態にさらしました。
すると、結果から、迷路に置いてあった目印などの記憶に両群で差はありませんでした。
つまり、一過性のストレスでは記憶自体に影響はなさそうです。
しかし、違いが生じたのは、ショートカットを発見するという創造力です。
その結果が以下の図になります。
図Aにあうように、左側が学習した慣れた道です。
一方、真中と右の二つの図のように、迷路の左側でショートカットが存在します。
それを見つけられた割合を示しているのが下の図Bです。
図Bの左側Probe1を見てください。
縦軸が、そのやり方をした人の割合です。
横軸が、迷路のやり方を示しています。
青がコントロール群で、赤がストレス群です。
すると、左側のショートカット(shortcut)では、青の棒グラフの方が高いことがわかります。
一方、学習した慣れた道(familiar)では、逆に赤の棒グラフの方が高いことがわかります。
図Cは無視で結構です。
このように、ストレスが与えられると、新しい方法やショートカットを思いつきにくいことがわかります。
この時の脳活動が以下の図です。
この図Aで大切なのが、左上に示されている海馬の領域と、前頭葉の領域です。
図Bでは海馬の、図Cでは前頭葉の活動の時間経過がそれぞれ示されています。
青がコントロール群で、赤がストレス群です。
図Bの下側の海馬の活動をご覧ください。
学習した慣れた道を行くとき(familiar)でもショートカットを見つける時(Probe1)でも基本的に、ストレス群の方が活動が低いです。
海馬は、場所細胞という細胞があるくらいで、空間把握に関わります。
図Cの前頭葉でも、ストレス群では、学習した慣れた道(familiar)でもショートカットを見つける時(Probe1)でも活動が低いです。
前頭葉は、頭の中で空間を思い描いたり、発想などの創造力と関係性します。
よって、ストレスは、行動面だけではなく、脳メカニズム的にも創造性を発揮することを阻害するのです。
スポンサーリンク
③ストレスは慣れた行動や習慣に固執させる傾向がある。
最後に、ストレスによって人は昔の慣れたことや習慣に固執させるという驚きの研究を紹介します。
Schwabe & Wolf (2009)は、冷水に手を入れたストレス群と温水に手を入れたコントロール群に分けて、報酬と図形のペアを覚える課題をさせました。
なお、報酬としては、みかんジュースかチョコミルクが貰えます。
飲みものの報酬が貰える図形とのペアをたくさん学習させて覚えた後に、報酬として選択したみかんジュースかチョコミルクを実際に食べさせます。
つまり、報酬でちょっとだけ飲んでいたけど、学習後にがっつりと報酬を口にするのです。
すると、実験参加者さんはがっつり食べた報酬は「もういらない」という状況になります。
この状況を利用して、学習した報酬と図形のペアのテストをします。
テストの時は報酬は一切もらえません。
かつて報酬としての価値を持っていたものと新しく報酬となるものとの二つが生じるというわけです。
このテストの時に、コントロール群とストレス群とで行動に差がありました。
この図は、縦軸が、報酬が貰える可能性が高い図形を選ぶ割合です。
横軸は、テストの時間です。
学習時では、報酬が貰える可能性の高い図形と低い図形がありました。
学習後に報酬をがっつり食べることでどのように価値づけが変わるかを見ています。
左側がストレス群で、右側がコントロール群です。
重要なのが、○と●の折れ線グラフです。
●は学習時とは異なる報酬が貰えると想定される図形を選んだ割合。
つまり、新しく報酬として価値のあるモノです。
○は学習時は報酬でしたが、がっつり食べて報酬としての価値がなくなった図形を選んだ割合です。
まず、右側のコントロール群ですが、ほぼ一貫して、○は●よりも選ぶ割合が下がっています。
一方、左側のストレス群では、○と●を選んだ割合が同じくらいになっています。
つまり、本来がっつりと食べて報酬としての価値が下がっているのに、ストレス群では習慣で選んでしまっていることを示しています。
このことから、ストレスを受けている時は、新しく学習したりすることより、習慣化した行動がでやすかったり、過去の価値に固執してしまうことがあると思われます。
スポンサーリンク
④まとめ
以上より、ストレスの認知機能への影響を見てきました。
まとめると以下のようになります。
- 一過性ではなく、慢性的なストレスやストレスの蓄積が記憶力低下に繋がる。
- ストレス下ではショートカットなどの新しく効率的な手法を創造しにくい。
- ストレス下では、習慣化した行動に従いやすい。
- ストレス下の脳活動は、海馬と前頭葉で活動が低くなる。
- ストレスを受けると、慣れた方法を選択するか過去のやり方に固執する。
②と③を合わせると、ストレスで影響が出そうなのは、新しいことを学ばず古い慣れた方法に固執してしまうことかなと思います。
もしかしたら、新体制に順応できなかったり、こだわりの強い人はストレスとなんらかの関係があるかもしれません。
スポンサーリンク
参考文献
Brown et al. (2020). Stress Disrupts Human Hippocampal-Prefrontal Function during Prospective Spatial Navigation and Hinders Flexible Behavior. Current Biology, 30, 1821-1833.
Evans & Schamberg (2009). Childhood poverty, chronic stress, and adult working memory. PNAS, 106(16), 6545-6549.
Schwabe & Wolf (2009). Stress Prompts Habit Behavior in Humans. Journal of Neuroscience, 29(22), 7191-7198.
スポンサーリンク