・怖いと感じたらどんどん怖いものが増えていく。
・なんで不安や恐怖は一般化していくのか?
大事な試合やプレゼン前で、失敗の不安や恐怖に駆られて眠れなくなることはよくあります。
その時、普段不安に感じないことでも不安になったりしませんか?
あるいは、ホラー映画を見た後は普段は怖くないものも怖くなったりしませんか?
このように、不安や恐怖を抱くと普段は不安や恐怖を抱かない対象にまでそれらを感じてしまうことを心理学や脳科学では「一般化」と呼ばれます。
この一般化はどのようなメカニズムで生じるのでしょうか?
不安や恐怖の一般化で辛い思いをされる方が大勢います。
今回は、そんな不安や恐怖の一般化について実際の脳科学的研究を見ていきます。
本記事では以下のことが学べます。
2. 精神疾患を持つ方ほど不安や恐怖が一般化しやすい?
3. 不安や恐怖の一般化の脳内メカニズム
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①不安や恐怖が一般化する現象が心理学では確認されている。
不安や恐怖を普段そうでもない対象にまで抱いてしまうことは、精神疾患の研究で比較的最近示されました。
その研究が、Lissek et al. (2010)です。
彼らは、健常者とパニック障害者を比較することで、不安や恐怖の一般化現象を示しました。
この図は、彼らが行わせた実験課題です。
基本的にはシンプルな課題です。
実験参加者は、画面に様々な大きさの〇が呈示されて、その後数秒後に電気ショックが来たり来なかったりします。
この〇が呈示された時に、どれくらい電気ショックが来るのかを実験参加者に評価させる課題です。
図の上側のCS-やCS+と書かれている欄が大切です。
上半分のAの欄を例にしますと、CS-とは電気ショックが絶対に来ない刺激を指し、CS+は必ず電気ショックが来る刺激を指します。
〇がC1~C4と大きくなっていきます。
本来、電気ショックはC1~C4まで同確率で来ますが、〇の大きさで電気ショックが来るかのように思えます。
この課題を健常者とパニック障害の方にさせるのです。
すると結果は以下のようになりました。
左側の赤がパニック障害の方の反応で、右側の青が健常者の反応です。
縦軸が、電気ショックが来ることを予想して体が反応する生理指標を示します。
上に行けば行くほど、体の反応の強さを示します。
横軸は、CS-~CS+までの〇を提示した時のそれぞれの反応です。
すると、右側の健常者ではC3~C4の間に一気に体の反応が大きくなっていく図が描かれています。
つまり、電気ショックが来ると予想される刺激にだけ反応して、その他はあまり反応していません。
しかし、左側のパニック障害者は、健常者がC2~C3までの電気ショックが来ないと予想される刺激でも体が大きく反応していることが伺えます。
なので、パニック障害者は、本来不安や恐怖の対象でもない刺激にも不安や恐怖を抱くようになった(不安や恐怖が一般化した)と解釈できます。
また、体の反応だけではなく、主観的な予想でもパニック障害者は健常者よりも電気ショックが来る可能性があると評価しています。
左側の図は、縦軸がどれくらい電気ショックが来るか予想させた指標です。
赤がパニック障害者で青が健常者です。
ほぼどの刺激でもパニック障害者の方が電気ショックが来ると予想しています。
右側は、各大きさの〇が呈示された時にどれくらい早く電気ショックがくると回答したのか、その反応速度の早さを示しています。
縦軸が反応速度の早さで、下に行くほど反応が早いことを示します。
すると、C2~C4までの比較的電気ショックが来ないと予想される刺激で、パニック障害者の方が健常者よりも早く反応しています。
これらの結果から、パニック障害者の方は体の反応も頭での予想でも不安や恐怖が一般化していることがわかります。
ちなみに、同じ研究チームの研究で、不安障害の方も同じ傾向を示すことがわかっています(Lissek et al., 2014)
精神疾患の方は特に不安や恐怖が一般化しやすいと思われます。
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②不安や恐怖の一般化の脳内メカニズム
では、この不安や恐怖が一般化する脳のメカニズムはどのようになっているのか?
それを最初に示したのが、Cha et al. (2014)です。
彼らは、〇ではなく、横棒を使用して横棒の長さによって電気刺激が来るという同じような研究をしました。
今回は、不安障害者と健常者を比べて、fMRIを用いて脳のメカニズムを調べています。
早速、脳活動として以下の結果がでました。
こちらは、脳の奥の方の報酬系の領域を指します。
報酬系は、報酬だけではなく、刺激に対する計算や予測などにも関係しています。
この研究では、どれだけ電気ショックが来るかを予想しています。
右端の折れ線グラフをご覧ください。
赤が不安障害で、黒が健常者の脳活動です。
縦軸は、報酬系の脳活動量を示します。
横軸の、GS 60, GS 40, GS 20はそれぞれ数字が小さくなるにつれて電気ショックが必ず来るCSに近い図形になります。
すると、黒の健常者では図形が異なるにつれて脳活動も下がっていきますが、赤の不安障害者ではGS 60やGS 40など電気ショックが来ないと予想される図形でも健常者より脳活動が高く反応しています。
なので、この脳活動の研究から、報酬系が不安や恐怖の一般化に関係していると予想されます。
この図は、報酬系とつながって同じように活動している領域を示します。
特に大切なのが、左側二つのACCと書かれた領域です。
前頭葉の奥の方の部分だとご理解いただけると分かりやすいです。
この領域は、前帯状回と呼ばれる領域で、葛藤状態を示していると言われています。
また、ACCは不安でよく活動すると言われていて、報酬系とACCのつながりが不安や恐怖の一般化に関わっていると解釈できます。
この図は、報酬系の活動と不安尺度との関係性を示しています。
不安が高ければ高いほど、報酬系の活動も上がるという関係性が示されており、やはり報酬系が不安の一般化と関係していると予想されます。
この研究から、不安の一般化は、報酬系と前帯状回(ACC)の二つの領域が関わっていると思われます。
特に、不安が強い場合、「これももしかしたらこれも危ないかも?」とより不安になって葛藤して前帯状回(ACC)が活動し、さらに報酬系も不安を予想するという仮説も考えられます。
この研究では、行動面の評価がありませんでしたが、比較的最近のLaufer et al. (2016)の研究では、行動面でも不安の一般化が確認され、同じように報酬系と前帯状回(ACC)の活動が報告されています。
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③まとめ
以上より、不安や恐怖の一般化現象をまとめると以下のようになります。
- パニック障害や不安障害など普段から不安や恐怖が強い人は、普段不安や恐怖の対象にならないものまで不安や恐怖になる一般化現象が生じる。
- 不安や恐怖の一般化で関わる脳領域は、報酬系と前帯状回(ACC)である。
- これらの領域の活動から、不安や恐怖の一般化のメカニズムとして、不安や恐怖から葛藤状態に陥り、その葛藤状態が不安や恐怖を感じやすくさせて一般化してしまうと考えられる。
本来、不安や恐怖は体を守る防衛機能です。
しかし、精神的な状況の変化によって不安や恐怖が一般化し、自分を辛くしてしまう。
不安や恐怖の一般化現象は比較的最近研究が進んできたばかりなので、まだ対処法はわかりませんが、せめて一般化現象が生じることを知れば、自分を省みることができます。
自分を省みることができると、医療機関で早期発見ができます。
また、一般化現象を知っているご家族や友人がいるとそれで苦しむ人を早く医療機関と結びつけることができます。
知ることで大きく変わると思います。
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参考文献
Cha et al. (2014). Hyper-Reactive Human Ventral Tegmental Area and Aberrant Mesocorticolimbic Connectivity in Overgeneralization of Fear in Generalized Anxiety Disorder. Journal of Neuroscience, 34(17), 5855-5860.
Laufer et al. (2016). Behavioral and Neural Mechanisms of Overgeneralization in Anxiety. Current Biology, 26, 713-722.
Lissek et al. (2010). Overgeneralization of Conditioned Fear as a Pathogenic Maker of Panic Disorder. American journal of Psychiatry, 167, 47-55.
Lissek et a. (2014). Generalized Anxiety Disorder is Associated with Overgeneralization of Classically Conditioned-Fear. Biological Psychiatry, 75(1), 909-915.
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