
・アクティブ・ラーニングは効果があるの?
・アクティブ・ラーニングはどうすればいいですか?
近年では、日本の教育現場にもアクティブ・ラーニングが取り入れられています。
アクティブ・ラーニング導入の是非については、古くから議論があります(Prince, 2004)。
学校関係者や教育評論家等の中には、アクティブ・ラーニングの導入に賛成の意見を述べている方も多いです。
他方、教育現場では、やり方が分からない教師が多いこともニュースで取り上げられていました。
そこで、実際にアクティブ・ラーニングは、勉強やその他の能力で従来の授業法よりも効果的なのでしょうか?
また、効果があるとしてどのくらいの費用対効果があるのでしょうか?
心理学と教育学の研究をご紹介します。
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①アクティブ・ラーニングとは何か?
まず、アクティブ・ラーニングとは何でしょうか?
ご説明したいのですが、「アクティブ・ラーニング」の定義が、論者によって異なり、一致していないと主張する論文があります(Prince, 2004)。
しかし、ここでは、話を進めるためにPrince(2004)の定義を踏襲することにしましょう。
Prince(2004)によると、アクティブ・ラーニングとは、
「生徒を学習プロセスに従事させる指導方法」です。
具体的には、「アクティブ・ラーニングでは、生徒が有意義な学習活動を行い、自分たちが何をしているのかを考える」ことが必要とされるという。
重要な点は、従来型の受け身的な態度ではなく、生徒が学習プロセスに自主的に関与することです。
つまり、グループ学習とか共同学習とかいろいろな手法がありますが、重要なのは、生徒が自分から学習することだと言えます。
この学ぶことに対する「自主性」と「関与」こそがアクティブ・ラーニングの神髄です。
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②アクティブ・ラーニングの効果
では、アクティブ・ラーニングは勉強に有効なのか?
Freeman et al. (2014)は過去のアクティブ・ラーニングと称される手法を取り入れた研究のメタ分析を行い、その効果を検証しています。
上図Aは黒の縦線より右側が多いほど誤答率が低いことを示し、上図Bは右に行くほど単位を落とす人が少ないことを示します(青が従来型の授業で、オレンジがアクティブ・ラーニングです)。
すると、アクティブ・ラーニングは従来型の授業と比べて、統計的に有意に試験の誤答率を低下させ(A)、落第者も有意に少なくなる(B)ことが示されています。
アクティブ・ラーニングは、有効な手法であると言えます。
ただし、分野はいわゆる理系分野に限られると言われています。
この図は、理系分野の中でもアクティブ・ラーニングによってより効果が生まれやすいかどうかを調べた図です。
図から、理系分野であればアクティブ・ラーニングは一定程度効果があると言えそうです。
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③アクティブ・ラーニングの費用対効果は?
アクティブ・ラーニングは、理系分野で有効であることが分かりました。
しかし、その費用対効果はどうなのでしょうか?
なぜこれが問題になるのか?
それは、アクティブ・ラーニングは、傍から見ていると、時間とコスト(教師への負担・生徒への負担)が多い気がするからです。
生徒が自主的に学習を進めることは、教師が生徒一人一人やり方の違う学習過程に気を配らないといけないのです。
上記の研究で示された効果は、この莫大なコストに見合うのでしょうか?
個人的にはアクティブ・ラーニングの取り組みには賛成したいのですが、もし莫大なコストをかけて従来型の授業よりも費用対効果が低いのなら、大いに賛成することはできない。
むしろ、その場合、一部の有志だけを集めて学校の授業プラスアルファでアクティブ・ラーニングを取り入れた授業をする方がいいような気がします。
例えば、現場の声として、「従来型の授業に慣れた生徒にアクティブ・ラーニングの手法をやれと言ってもすぐにはできない」「アクティブ・ラーニングではコミュニケーションを他の生徒ととることが多く、コミュニケーションの取り方の問題が生じる」など、様々な問題が生じる可能性があります(Modell, 1996)。
そして、Modell(1996)は、そのような問題を解決するコツや方法論を論文で記述していますが、それだけで、授業のいくつかを費やさないといけないと思わる方法なのです。
これはかなり非効率な気がします。
実際、いろいろ調べてみましたが、残念ながら、アクティブ・ラーニングの費用対効果を調べた研究は少ないようです。
どのように研究したらいいのかもわからないことも大きく関係していると思われます。
しかし、例えば、一教師当たりの給料を労働時間や授業単位数で割った数などを計算することは容易です。
その値を元にすれば、費用対効果はすぐに出せます。
基本的に公立校などに限定すれば、教師の給料は一定していて、計算するのはそれほど難しくないと思われます。
教育経済学が、他の学問と決定的に異なる点を橋野(2016)は挙げています。
橋野(2016)によれば、
「教育経済学に固有性・意義を見出すとすれば…費用便益分析などに注目すべき」点です。
アクティブ・ラーニングの費用対効果の検証は、これからの教育経済学の課題となりそうです。
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参考文献
Freeman et al. (2014). Active learning increases student performance in science, engineering, and mathematics. PNAS, Vol. 111, No. 23, 8410-8415.
橋野昌寛(2016)「教育政策研究から見た教育経済学」教育学研究, Vol. 83, No.3, 27-35
Modell. H. I. (1996). Preparing students to participate in active learning environment. Advanced in Physiology Education, 270, 69-77.
Prince. M. (2004). Does Active Learning Work? A Review of the Research. Journal of Engineering Education.
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