哲学/philosophy 本・解説/Book・Review

人間誰もが持っている倫理観の本質とは?倫理学の統一理論を目指して

・倫理って難しい。

・倫理って結局人それぞれでしょ。

・倫理で正しい答えなんて探してもムダ

倫理」と言えば何をイメージするだろうか?

ある人の

倫理観

倫理的行動

正しさ

など

人間が社会の中でどのように行動するべきかを規定するものというの印象が強い。

高校や大学の授業で「倫理」を選択した方もいるかもしれない。

その方からすると、哲学や道徳とほぼ同義ではないかと思われます。

一方、本や授業や講義などで扱われている倫理学とは何でしょうか?

受精卵から出発してどこからが人間なのか、人工妊娠中絶を巡る議論、安楽死・脳死問題などが思い出されます。

これらの問題の共通点として、

意見が対立していてすぐに解決するのは難しい

ということと

立場や主義によって状況や判断が異なる

ということが挙げられます。

しかし、このような倫理観を批判し、確固とした普遍的な倫理的立場が存在すると述べたのが、ピーター・シンガーの『実践の倫理』です。

ではシンガーが述べる倫理的立場とは何か?

早速見ていきましょう

1. シンガー『実践の倫理』の概要とさわり

2. 一般的な倫理観への批判

3. 倫理とは呼べない4つの意見

4. 普遍的に正当化できる統一的な倫理とは何か?


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①序論の大胆発言

シンガーは、序論で以下のように述べている。

<何が正しくて何が不正か>は自己の社会の規準に依存しているに違いないと考える人は多い。・・・この信念が・・・間違いである

そして、シンガーは様々な議論を通して、以下の確信を持つようになりました。

<倫理学の推論と議論について―普遍的な、ないしは多くの異なる文化を通じて少なくとも広く共有されている―基準が存在する>という私の見解をかえなければならないようなことは何もなかった。

大胆な発言です。

では、シンガーの言う倫理の基準とは何でしょうか?

ここでの倫理とはどういう意味なのでしょうか?

『実践の倫理』のさわりの部分を見ていきます。

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②一般的な倫理学を批判:「倫理ではないもの」4つ

まずシンガーは、倫理の一般的イメージや論争のあり方について批判しました

具体的には、倫理」ではない特性について以下4点を挙げています。

一点目:倫理はモラルという言葉でイメージされる性の問題ではない

倫理ではない第一のことは、<特に性に関する一連の禁止>である。性は特別モラルの問題では全くない。性についての決定には誠実さの考慮、他者への配慮、思慮分別などが含まれるが、この点で性が特に他と異なっているわけではない。・・・したがって、本書は性道徳についての討論を含まない。

例えば、公共の場でのセックスの話など性的なモラルについての話をしているのではないということです。

ここでシンガーは、倫理の普遍的な理論を確立したいのです。

なので、性の問題だけではなく、車の運転や他の道徳的問題にも当てはまる倫理を扱いたいので、性を特別視したり、性道徳を述べることはしません

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二点目:倫理は地に足がついていない高尚なものではない

倫理でない第二のことは、<理論上は全く崇高であるが実践上役に立たない理想的な体系>である。こうした体系とは反対のことが真理に近い。すなわち、倫理的な判断のポイントはもっぱら実践を導くことにある

本書の題名の通り、実践上に関わることが倫理なのです。

机上の空論や現実の世界とは切り離したような倫理学・倫理観は「倫理」ではないのです。

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三つ目:倫理が宗教とみなされるべきではない

倫理でない第三のことは<宗教の脈略でしか理解できない何か>である。私は倫理を宗教から全く独立したものとして扱うことにする。

倫理と宗教はあくまでも別個です。

過去に、宗教の教義が正しさを規定していたこともありますが、「人は・・・伝統的な宗教が提供している動機なしですますことができ」ます。

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四つ目:倫理は状況や信条如何によって変わるものではない

倫理でないものとして私が否定する第四の、最後の主張は、<倫理は相対的ないしは主観的である>とする主張である。

「私の立場では・・・」とか「あなたの視点では・・・」というような主張を嫌います。

序論のように、シンガーは倫理には普遍的な基準が存在すると強く主張しています。

なので、このことを否定するのも頷けます。

なお、なぜこの第四の主張が否定されるのかを知りたい方は、本書を是非手に取ってください。

詳細にかつ論理的でわかりやすく理由が述べられています。

この説明にはかなり紙幅が割かれているので、重要な部分なのですが、今回はさわりを分かりやすくするために省きます。

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③「倫理」とは何か:功利主義的立場への序章

このようにシンガーは、一般的な倫理観や倫理的と呼ばれるものを否定しています

この分類だと、学校や大学で学ぶような倫理学は倫理ではないのかもしれません。

では、シンガーの述べる「倫理的なもの」とはどういう性質を備えているのでしょうか?

慣習とはちがう倫理的信念をかかげている人たちが何らかの理由から自分たちのしていることが正しいと信じているならば、やはり倫理の基準に従って生きているということである。

ある人が倫理基準に従って生きていることを我々が認めようとするならば、その正当化は特定の種類の正当化でなければならない。

倫理原則の正当化は、どんな片寄ったグループや党派的グループによってもなされえない、ということである。倫理は普遍的見地をとる。この意味は、特定の倫理判断が普遍的に適用可能なものでなければならない、ということではない・・・その意味は、倫理判断を下すさいには人は自分自身の好き嫌いを越えるということである。

このように述べられています。

つまり、一般的な俗流の慣習とかでもなく、

さらに何らかのグループに属する場合の考え方とかでもなく、

純粋に好き嫌いという主観でもなく、

普遍的な正当化ができ、その信念・理由に従って正しいと信じている場合、倫理と呼べるのです。

少し抽象的になりますが、ここがシンガーにとって重要な点になります。

例えば、「村の慣習で○○の行為が正しい」というのは倫理ではありません。

右翼左翼などのような特定集団に当てはまる倫理観も倫理ではありません。

「私はこの意見は好きだから賛成」という好き嫌いの次元も倫理ではありません。

どの特定のものに当てはめることなく、純粋に普遍的に正当化できる信念や理由に従った行動こそが倫理なのです。

そして、いろいろな哲学的な議論を見た後に、功利主義的な考えをピーター・シンガーは支持します。

この功利主義的な立場こそが普遍的に正当化できる立場だと述べています。

具体的には、

<私自身の利益は、私自身の利益だからというだけで他者の利益以上の価値をもつわけではないこと>を認める

と言います。

つまり、私を絶対化したり、私益を優先させるという考えではありません。

純粋に足し算として自分自身も他者と同じ「1」として扱う功利主義的考えこそが普遍的倫理だと言うのです。

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④シンガーの倫理とは何か:広義の功利主義的立場の内容

この広義の功利主義的立場から重要な概念を引き出します。

それが、「<利益に対する平等な配慮>」という概念です。

この概念には前提として、「<人間の相違が、人種や性によるものではなく、個人的なものである>という事実」があります。

シンガーは、例として「知能」の研究を挙げています。

この研究では、白人が黒人よりも知能(IQ)が高いというものです。

これに対して、シンガーは、あくまでも「平均的な」知能が白人の方が高いのであって、白人よりも知能の高い黒人もいるという反論を行っています。

つまり、集団や人種などで差がありそうな知能でも個人の違いとして捉えるのです。

そこで本題の「利益に対する平等な配慮」とは何か?

ピーター・シンガーの言葉によると、

本質的な点は、道徳的な考慮をするさいに、我々が自分の行動に影響される人々全員の同様の利益に等しい重みをおくということにほかならない。つまり、ある可能な行為がXとYにのみ影響を与え、しかもYが得る利益よりもXのこうむる損害のほうが大きいならば、その行為はしないほうがよい、ということ

です。

具体的にシンガーは苦痛を除去するという利益を例として挙げています。

苦痛をとり除くことの究極的な道徳的理由は、単に苦痛そのものが望ましくないということであって、Xの苦痛が望ましくない・・・ということではない、と。当然、Yの苦痛に比べてXの苦痛の方がより強烈だから、Yの苦痛のほうがまだましだということはありえよう。その場合には、平等な配慮の原理はXの苦痛除去のほうをより重視するだろう。

つまり、二人の人物が痛みを感じていても、それぞれの個別の状況はあるが、基本的には両者ともイーブンな存在として扱うということです。

Xを特別視するわけではない

なので、痛みを感じているXがいたとしても、より痛みが大きいYがいれば、鎮痛剤はYに与えるという考え方です。

それゆえ、

<利益に対する平等な配慮>の原理は、さまざまな利益を公平に計るためのはかりの役割を果たす。真のはかりは、利益の強いほうを、あるいは同種類の利益が複数あり、そのいくつかがまとまれば数少ない利益よりも重要になる場合には、そのいくつかの利益のほうを優先する。が、はかりは誰の利益を図っているかについては、全く考慮しないのである。

となります。

ここが広義の功利主義と呼ぶ所以です。誰かを絶対視したり特別視したりせず、かつ合計して最大の利益を出すということですね。

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⑤まとめ

以上がピーター・シンガー『実践の倫理』のさわりの部分です。

まとめると以下のようになります。

  • 倫理とは、モラルの問題でも、宗教の問題でも、個人的な問題でも、抽象的な問題でもない。
  • 倫理とは、慣習や特別のグループの思想・信条や個人の好き嫌いの問題でもない。
  • 倫理とは、普遍的に正当化できる行動のよりどころ
  • シンガーの立場は、広い意味での功利主義的立場
  • 特定の誰かを特別視するのではなく、全員がイーブンで、なおかつ利益が最大になるようにする。

この広義の功利主義的立場に基づいて、『実践の倫理』では、動物の権利・人種差別・殺人・安楽死・経済的な平等・人工妊娠中絶の問題を語ります。

展開している各論の結論にショックを受ける方もいるかもしれませんが、徹底して哲学的に論理的に、倫理を追及している優れた書籍だと思います。

読む価値ありです。

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