・無意識が意識を支配しています。
・サブリミナル効果が広告等に応用されています。
普段買い物をしたり、運動をしたりする時、意識的に「こうしよう」と思って行います。
しかし、買う物を選ぶ時、無意識に「なんとなくこれいいな」と思って選ぶことはありませんか?
スポーツをしている時、無意識に体が反応するなんてこともよくあること。
私たちが日常生活を送るのに無意識は不可欠です。
かの有名なフロイトも無意識が意識に干渉していると説きました。
では、この無意識はどのくらい私たちの意識や認知機能に影響を及ぼしているのでしょうか?
今回は、心理学で有名なサブリミナル効果とともに無意識について考えます。
本記事では以下のことが学べます。
2. 無意識が視覚や聴覚などの知覚に影響すること
3. 無意識が記憶や抑制などの認知に影響すること
4. 無意識がモチベーションや運動能力の向上にも影響すること
- 目次
- ①無意識を実験する:サブリミナル効果とは何か?
- ②無意識の知覚:知覚へのサブリミナル効果
- ③無意識の認知:認知のサブリミナル効果
- ④無意識によるモチベーションと運動能力の向上:サブリミナル効果の応用
- ⑤まとめ
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①無意識を実験する:サブリミナル効果とは何か?
ところで、どのようにして無意識を研究するのでしょうか?
無意識の研究の大半は、サブリミナル効果を応用して研究します。
ではこのサブリミナル効果とは何でしょうか?
以下でご紹介する研究は全てサブリミナル効果を利用しています。
サブリミナルとは、英語で「subliminal」です。
心理学辞典によりますと、「ある刺激が刺激閾以下であること」を指します。
そして、その刺激は「通常検出されない」と述べています。
簡単に言いますと、人間が知覚できない刺激のことです。
例えば、プレゼンの場面を思い浮かべてください。
自分が聴衆側です。
プレゼンのスライドを見ている時に、発表者が誤ってボタンを二回押して、あまりにも早くスライドが切り替わり、見るはずのスライドが見えないことがあります。
この場合の見るはずのスライドが刺激になります。
あまりにも早くて人間には知覚不能とか、あまりにも微弱で人間には感知不能とかそういう刺激のことを「サブリミナル刺激」と言います。
このサブリミナル刺激を提示した後、人間の行動が変化することを総称して「サブリミナル効果」と言います。
このサブリミナル効果が脚光を浴びたのが映画館での出来事でした。
映画の途中に、ポップコーンの宣伝文をサブリミナル刺激として入れると、ポップコーンの売上が上がったという逸話があります。
未だにサブリミナル効果が本当にあるのか議論されていますが、今回はサブリミナル効果を応用した無意識の研究をご紹介します。
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②無意識の知覚:知覚へのサブリミナル効果
サブリミナル効果に関する研究は結構古く、1980年代にはもう複数ありました。
初期の研究では、まずは人間の視覚や聴覚などの五感にサブリミナル効果が生じるのかを調べています。
視覚のサブリミナル効果
Bar & Biederman (1998)は、視覚のサブリミナル効果を確かめました。
実験参加者に、何度も一瞬だけサブリミナルに絵を呈示して、その絵が何なのかを答えさせる研究です。
すると以下のような結果になりました。
この図では、一つだけ突出している黒の棒グラフがあります。
画面を九等分して、どの位置にどんな絵のサブリミナル刺激を呈示するかによって結果が異なることを示しています。
結果、突出している黒の棒グラフのように、同じ絵で同じ位置に呈示した場合のみ絵が何かを答えられる確率が高くなることが示されています。
この35%という確率は偶然当たる確率よりも高く、サブリミナル効果が働いたことを示しています。
つまり、実験参加者は、何が呈示されたのかはわからないけれども、なんとなく見せられた絵を当てることができるのです。
視覚のサブリミナル効果があることが示唆されます。
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聴覚のサブリミナル効果
次は聴覚に関するサブリミナル効果です。
Kouider & Dupoux (2005)は、一見雑音にしか聞こえない単語をサブリミナル刺激として何度も呈示し、その後の単語判断課題でサブリミナル効果が出ることを示しました。
それが以下の図です。
ねずみ色がサブリミナル刺激です。
黒が別の刺激だと思ってください。
左右の違いは気にしなくて大丈夫です。
すると、サブリミナル刺激を呈示した方が、単語の意味判断のスピードが速いことが分かります。
つまり、聴覚でもサブリミナル効果が出ることが示唆されました。
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嗅覚のサブリミナル効果
知覚編の最後は嗅覚のサブリミナル効果です。
Li et al. (2007)は、実験参加者にまず三つの匂いを嗅いでもらい、良い匂いと普通の匂いと嫌な匂いとを分けさせます。
その後、それぞれ嗅いでも匂いが分からないくらい薄くしたものを嗅がせて、人の顔の魅力度を判定させました。
すると以下のような結果になりました。
縦が顔の魅力度を示しています。
図の左側がサブリミナル刺激の場合で、右側が普通に匂いが分かる場合です。
まず普通は右側のように、匂いによって顔の判定は変わりません。
しかし、左側のグラフを見ると、良い匂いを嗅いだ時(黒の棒グラフ)に顔を判定するとかなり魅力的に評価したことが分かります。
逆に、嫌な匂いを嗅いだ時(ネズミ色の棒グラフ)は、顔の魅力度評価が下がっています。
このように、嗅覚のサブリミナル刺激によって顔の判定が変わることが分かりました。
つまり、嗅覚でもサブリミナル効果は生じるのです。
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③無意識の認知:認知のサブリミナル効果
次は認知機能についてです。
認知機能は一般的に、意識的に行われることが多いです。
何かを選択したり、何かを考えたり。
しかし、認知も無意識の影響を受けることが複数の研究で示されています。
記憶のサブリミナル効果
まずは記憶に関してです。
記憶のサブリミナル効果に関しては結構古くから膨大な研究があります。
その中でも初期の研究が、Jacoby & Whitehouse (1988)です。
彼らは、実験参加者にパソコンで単語を呈示してその後に呈示された単語をどれくらい覚えているのかをテストしました。
その時に、見えないくらい早いスピードで別の単語を挿入して(サブリミナル呈示)サブリミナル効果が生じるかを見ています。
すると以下のような結果になりました。
この図は、呈示されていない単語を呈示されたと答えた確率を表しています。
つまり、誤答率です。
Awareは単語がサブリミナルでない場合。
Unawareは単語がサブリミナルに呈示された場合です。
Matchの欄を見ていただくとわかる通り、Unawareの方がAwareを上回っています。
つまり、単語がサブリミナルで呈示された場合、実験参加者は本当は見ていないのに見たと言ってしまうのです。
記憶のサブリミナル効果が示されたのです。
実際に見えない単語を見たと答えるようになるのだから恐ろしいですね。
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ワーキングメモリ(作動記憶)のサブリミナル効果
次はワーキングメモリについてです。
ワーキングメモリとは、ある物事を短期間頭の中に置いておいて必要とあれば思い出すという記憶能力のことです。
以前「脳トレや頭の体操で頭は良くなるのか?脳トレの認知機能向上についてのまとめ」の記事でご紹介しましたので、あわせて読んでいただけると幸いです。
この記憶能力は、IQなどにも関係する大事な能力です。
実はこのワーキングメモリもサブリミナル効果が働くというのです。
Soto et al. (2011)は、図形の模様が異なる刺激を用意し、サブリミナルでその刺激を呈示して、実験参加者にその後呈示する図形の模様と一緒かどうかを判断させました。
結果が以下の図です。
この図は、正答率を表しています。
いろんな条件で試していますが、どれも55%くらいの正答率をたたき出しています。
つまり、あてずっぽうよりも少し高い正答率です。
記憶するべき刺激をサブリミナルに提示しても正答判断ができるのです。
このように、一旦呈示された刺激を頭の中に置いといて、それが後の刺激と同じかという判断をするワーキングメモリ課題でも、サブリミナル効果が生じることがわかりました。
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学習のサブリミナル効果
次に、物事の学習にもサブリミナル効果が表れます。
Monahan et al. (2000)は、実験参加者にある図形をサブリミナル呈示して学習させ、その後、その学習効果が学習していない図形にも波及することを示しました。
この図の黒棒グラフがサブリミナル呈示。
白棒グラフが普通に図形を呈示した場合です。
縦軸が、その図形がどのくらい好きか示しています。
同じ物を繰り返し見るとそれが好きになる単純接触効果を利用しています。
図の左端は、呈示した図形と同じ図形です。
その隣が、呈示した図形と似ているけれども異なる図形です。
左側の二つの図形とも、普通に提示されるよりサブリミナルで何度も呈示された方を好むことがわかります。
重要なのは、左から二つ目のグラフで、実際に学習していない図形でも好悪判断がサブリミナルと普通とでは異なることです。
サブリミナルで呈示された図形を学習していることを示しています。
何かを学ぶ学習過程でもサブリミナル効果は生じるのです。
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抑制機能のサブリミナル効果
認知編の最後に、何かを抑制する機能にまでサブリミナル効果が及ぶことが示されています。
Parkinson & Haggard (2014)は、ある刺激が出た時にボタンを押し、別のある刺激が出た時にはボタン押しを抑制するという課題を実験参加者に行わせました。
その刺激が出る前に、サブリミナルで「ボタン押し」を促すマークや「ボタン押しをしてはいけない」を示すマークなどを呈示しました。
すると結果が以下のようになりました。
縦軸は反応速度を示しています。
どれくらい早くボタンを押したかです。
白が「ボタン押し」を促すマークをサブリミナルに呈示した時。
ネズミ色が何の意味をも示さないマークをサブリミナルに提示した時。
黒が「ボタン押しをしてはいけない」を示すマークをサブリミナルに呈示した時です。
図の左側は、ボタン押しの刺激が出た時の反応速度の差です。
「ボタン押し」を促すマークがサブリミナルで呈示された時は、最も早く反応しています。
逆に、ボタン押しの刺激の時なのに、「ボタン押しをしてはいけない」というマークをサブリミナルで呈示された時は、最も反応が遅くなります。
つまり、抑制が働いたということ。
何かをストップするという高次な認知機能でもサブリミナル効果は出ます。
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④無意識によるモチベーションと運動能力の向上:サブリミナル効果の応用
最後は、サブリミナル効果がどこまで応用可能かを探った研究です。
モチベーションのサブリミナル効果
何かへのやる気を表すモチベーションでもサブリミナル効果は生じます。
Schmidt et al. (2010)は、サブリミナルでお金を呈示した時に課題へのやる気がどのように変わるかを研究しました。
この図は、縦軸がやる気を表しています。
17と117は呈示の速度で、17の方がサブリミナル刺激です。
図のネズミ色の棒グラフは無視で結構です。
すると、17でも少しやる気が上がっていることが確認できます。
このように、微妙ですが、人の課題へのモチベーションにもサブリミナル効果が働きます。
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運動能力向上のサブリミナル効果
最後に、サブリミナル効果として運動能力が向上することも報告されています。
Levy et al. (2014)は、お年寄りの方に、8週間、決まった日数の決まった時間に自信をつける言葉のサブリミナル刺激を呈示して運動能力が向上するのかを確かめました。
すると以下のような驚きの結果となりました。
縦軸が運動能力を表しています。
青の棒グラフが、サブリミナルではない方法で自信をつけさせた条件。
紫がサブリミナル刺激の条件です。
見て明らかですが、サブリミナル刺激を呈示した方が運動能力が向上しています。
さらに、同じ実験で、自分の加齢への捉え方もポジティブになったことも示されています。
心も体もサブリミナル刺激で向上したということです。
ここまでくると少し怖くなりますが、運動能力や自信などもサブリミナル効果が現れます。
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⑤まとめ
以上より、サブリミナル効果はかなり私たちの意識や認知機能に影響を及ぼしていることが分かります。
まとめると以下のようになります。
- サブリミナル効果とは、知覚できないくらいの閾値以下の刺激を受けて行動が変化する現象である。
- サブリミナル効果は、視覚・聴覚・嗅覚などの五感にも表れる。
- サブリミナル効果は、記憶や抑制機能などの高次な認知機能にも表れる。
- サブリミナル効果は、モチベーションや運動能力の向上にまで応用されている。
無意識は、私たちの日常生活で結構な影響を及ぼしています。
サブリミナル効果は、無意識過程の一部ですが、上記のことが示されただけでも研究として大きいと思います。
無意識がどこまで私たちの意識を支配しているのか。
今後が楽しみです。
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参考文献
Bar & Biederman (1998). SUBLIMINAL VISUAL PRIMING. Psychological Science, 9(6), 464-469.
Jacoby & Whitehouse (1988). An Illusion of Memory: False Recognition Influenced by Unconscious Perception. Journal of Experimental Psychology: General, 118(2), 126-135.
Kouider & Dupoux (2005). Subliminal Speech Priming. Psychological Science, 16(8), 617-625.
Levy et al. (2014). Subliminal Strengthening: Improvement Elders' Physical Function over Time through an implicit-Age-Stereotype Intervention. Psychological Science, 25(12), 2127-2135.
Li et al. (2007). Subliminal Smells Can Guide Social Preferences. Psychological Science, 19(12), 1044-1049.
Monahan et al. (2000). SUBLIMINAL MERE EXPOSURE: Specific, General, and Diffuse effects. Psychological Science, 11(6), 462-466.
Parkinson & Haggard (2014). Subliminal priming of intentional inhibition. Cognition, 130, 255-265.
Schmidt et al. (2010). Splitting Motivation: Unilateral Effects of Subliminal Incentives. Psychological Science, 1-7.
Soto et al. (2011). Working memory without consciousness. Current Biology, 21(22), R912.
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