・感情を引き起こす広告こそ売れる広告だ。
・営業は感情だ。
世間では、「論理は脳で感情は心」と言われます。
どんなに説得力のある言葉でも感情が動かなければ意味はないとも言われます。
また、コピーライティングやセールライティングの本でも感情を込めて書くべきとよく記述されている。
では、感情を引き起こすような言葉や広告は、そうでないものよりも説得的であったり人を動かしたりすることは本当にあるのでしょうか?
また、あるとしたらどのような時か?
今回は、感情と説得についての心理学的研究を紹介します。
本記事では以下のことが学べます。
2. どんな感情が説得力を上げるのか?
3. 感情以外にどのような要素が説得力をあげるのか?
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①本人が期待している感情と一致する感情的な言葉や広告に説得力を感じる。
感情が説得力に与える影響を調べた研究は意外と少ないのですが、単に相手の感情をポジティブにしたりネガティブにしたりするだけでは効果は薄いみたいです。
そんな中で、DeSteno et al. (2004)は、本人の感情状態と一致する感情的な言葉や広告に対して、その人はより説得力を感じることを示しました。
まず、実験参加者を集めて、悲しくなる文章(アフリカの村の自然災害について)と感情を何も引き起こさないニュートラルな文章(シカゴの都市開発プロジェクトについて)のどちらかを読ませて、感情を引き起こします。
次に、消費税増税の理由が書かれた理由意見を読ませ、増税に賛同するかどうかを評価させました。
なお、この増税の理由として、悲しみに基づいた理由と怒りに基づいた理由の二つの条件があります。
悲しみに基づいた理由では、「HIVに苦しんでいる特別な配慮が必要な児童のために」という理由が書かれています。
一方、怒りに基づいた理由では、「このままの道路幅では交通量が増える割には狭く、交通に遅延が生じて不便が発生するため」という理由が書かれています。
つまり、本人が文章を読んで悲しいかニュートラルな状態で、悲しみの理由か怒りの理由が書かれた増税理由意見を読んでどれくらい説得力があるかを評価します。
すると結果は以下のようになりました。
縦軸は、説得力で、上に行くほど増税に賛同していることを示しています。
横軸は、左半分が悲しみの理由を評価した時、右半分が怒りの理由を評価した時です。
黒がニュートラルな感情状態で、白が悲しい感情状態の時を示します。
すると、本人が悲しい時に、悲しみの理由意見を読むと、他の条件よりも説得力が高いと評価します。
また、ニュートラルな感情状態では悲しみの理由であれ怒りの理由であれ説得力に違いはありません。
悲しみの感情状態でも、同じネガティブ感情に属する怒りの理由意見では説得力が高いと評価されませんでした。
つまり、本人の感情状態と理由意見の文章が悲しみで一致している時のみ、感情が説得力を高めると言えます。
また、同論文の別の実験では以下のような結果も示しています。
見方は同じですが、今回は黒が悲しみの感情状態で、白が怒りの感情状態です。
また、左側の図が日頃からよく考え込むタイプの人で、右側の図があまり日頃から考えないタイプの人を示します。
すると、よく考え込むタイプの左側の図では、先ほどと同様の結果で、悲しみであれ怒りであれ、本人の感情と一致する理由意見をより説得力があると判断します。
一方、あまり考え込まないタイプの右側の図では、一貫して悲しみの感情を抱いている時に理由意見をより説得力があると評価しています。
よって、自分が抱いている感情と言葉の感情価が一致する場合にのみ、説得力があると評価します。
また、よく考え込むタイプとそうではない人とで違いも見られます。
なお、この研究では、ネガティブ感情だけの話で、特に悲しみと怒りにのみ言えます。
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②ポジティブ感情と細かい感情の違いによる説得力への影響
最初に、では、ポジティブ感情を抱かせた時に言葉や広告に説得力が生じるかについてです。
Lau-Gesk & Meyers-Levy (2009)は、複数の研究を行って、ポジティブ感情とネガティブ感情と広告の出し方と説得力の関係を調べました。
実験参加者に、写真付きの文章が書かれた広告を見せて、どれがもっともよいのかを判定させました。
この広告には、以下のような二つの条件があります。
1) 三種類の感情を引き起こす文章のタイプ:喜び・悲しみ・喜びと悲しみの両方
2) 写真と文章の位置:文章が良い感じで写真に組み込まれた統一的なレイアウト・文章と写真が別々に配置された非統一的なレイアウト
さらに、実験参加者がその広告をより真剣に見ようとするモチベーションの高低をも調べて、合計12個の条件を調べています。
その結果が以下の図です。
縦軸は、どれだけその広告を好意的に評価しているかで、上に行くほど良い評価を示しています。
左半分はモチベーションが低い群で、右半分はモチベーションが高い群です。
図の左側が喜び(Happy)、真中が悲しさ(Sad)、右側が喜びと悲しみの両方(Mixed)です。
二個ある点の左側はIntegratedで統一的なレイアウトです。
二個ある点の右側はSeparatedで非統一的なレイアウトです。
すると、モチベーションが低い人の場合、ポジティブ感情である喜びの言葉の広告文に対して他よりも好ましいと評価します。
他方、モチベーションが高い人の場合、どの感情でも、写真と言葉が別々の非統一的なレイアウトをより好みます。
論文での解釈は、モチベーションが低い人の場合は、写真と言葉のレイアウトも真剣に見ておらず、印象としての感情に惹かれるということです。
また、モチベーションが高い人の場合は、写真と言葉も詳細に見るため、非統一的で複雑なレイアウト(脳の負荷がより高いレイアウト)の広告に惹かれます。
このように、モチベーションの高低によって、広告と感情の関係性は変わってきます。
モチベーションが低い人にはシンプルでポジティブになれる広告を、モチベーションが高い人には複雑で情報量の多い広告を見せるのが良いかもしれません。
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なお、Lau-Gesk & Meyers-Levy (2009)は、同論文で別の実験結果も示しています。
その研究は、ネガティブ感情を細かい感情に分けて広告への訴求効果の違いを調べています。
その結果が以下の図です。
これは先ほどの図と同じ見方ですが、今回はモチベーションの高い人のみを対象にしています。
左側が恐怖(Fear)で、真中が不安(Anxiety)で、右側が罪悪感(Guilt)です。
仮説としては、不安は恐怖よりも複雑な感情で、罪悪感は自分のことを真剣に考えるという点で不安や恐怖と方向性が異なった複雑な感情です。
恐怖の場合、統一的なレイアウトよりも非統一的なレイアウトを好むという結果です。
恐怖は感情として単純なものであり、情報負荷も低いです。
なので、モチベーションの高い人にとっては、非統一的な複雑なレイアウトをより好みます。
一方、不安や罪悪感という複雑な感情では、非統一的なレイアウトより統一的なレイアウトを好むという結果です。
複雑な感情は情報負荷もその分高く、非統一的なレイアウトだとキャパオーバーになるので、統一的でシンプルなレイアウトを好むようになると解釈できます。
なので、感情の細かい性質によってどのようなレイアウトがより説得力が上がるのかが異なります。
特に、複雑な感情では、感情それ自体の処理で情報負荷が高いので、シンプルなレイアウトが良いと思われます。
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③まとめ
以上より、感情が説得力に及ぼす影響について考えました。
まとめると以下のようになります。
- ネガティブ感情では、自分の感情価と言葉の感情価が一致する場合、その言葉や広告により説得力を感じる。
- 日頃からよく考え込むタイプの人は自分の感情と言葉の感情価が一致する場合に、その文章により説得力を感じる。
- ポジティブ感情を用いた広告は、モチベーションが低い人には効果的である。
- モチベーションが高い人は、ある程度の情報負荷があるレイアウトの方を好む。
- モチベーションが高い人は、ネガティブ感情でも複雑な感情は感情自体の情報負荷が高く、その場合に限りシンプルなレイアウトを好む。
実は今回紹介していない論文もあるのですが、結果がかなりややこしくなるので、割愛しました。
つまり、感情が言葉や広告の説得力を上げるのは、単純にポジティブ感情だからとかネガティブ感情だからというのではなく、感情の種類によって効果が変わることを意味します。
一概に「この感情を喚起させる言葉や広告がいい」というものはなく、様々な感情には様々な効果の出方があると考えるのが妥当だと思います。
科学で分かっていることも少ないので、感情と説得力に関してはまだまだ経験にまさるほど広く応用できないのかもしれません。
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参考文献
DeSteno et al. (2004). Discrete Emotion and Persuasion: The Role of Emotion-Induced Expectancies. Journal of Personality and Social Psychology, 86(1), 43-56.
Lau-Gesk & Meyers-Levy. (2009). Emotional Persuasion: When the Valence versus the Resource Demands of Emotions Influence Consumers' Attitudes. Journal of Consumer Research, 36, 585-599.
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