・職場でのセクハラをなくしたい。
・セクハラは増えているの?実態や原因はどうなっているの?
セクシャルハラスメント(Sexual Harassment: セクハラ)。
何かとハラスメントが叫ばれていますが、元をたどればセクハラの問題に行きつきます。
性への差別や偏見の最たるものがセクハラです。
いろんなセクハラ対策の施策が行われてきましたが、一向になくなりません。
そこで今回は、セクシャルハラスメントをなくすためにも、セクハラの心理学的知見をご紹介します。
セクハラの実態から、仕事や心理面への影響、そして、どのような対処を取るのかなど。
セクシャルハラスメントについて知ることが撲滅の第一歩だと思います。
本記事では以下のことが学べます。
2. セクハラの仕事への影響
3. セクハラの心理的影響
4. セクハラの対処法
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①セクシャルハラスメントの実態と原因
まず、セクシャルハラスメント(セクハラ)はどれくらいの方が被害にあっているのでしょうか?
セクシャルハラスメントの定義と実態
主に女性の調査ですが、Schneider et al. (1997)はセクハラ被害にあった人の割合を出しています。
この図は、セクハラのタイプ別と被害の状況です。
白がセクハラにあっていない方の割合で、それ以外は何らかのセクハラ被害を受けている割合です。
図から、人口の約2/3の女性はセクハラ被害にあっています。
6割5分以上なのでかなりの方がセクハラによって心理的に嫌な思いをしています。
この図から基本的な用語を確認します。
セクシャルハラスメントは心理学では、以下の三つの形で定義されています。
ⅰ. ジェンダーハラスメント(Gender Harassment):セックスに関する言動や性的な意味合いを帯びたコメントや冗談、ターゲットとする性を軽んじたり、女性に不満を伝えるなど、性的な発言を指します。
ⅱ. 嫌な性的注目(Unwanted Sexual Attention):触られたり、はぐされたり、しつこくデートの誘いをしてきたりなど、性的に嫌な行動を指します。性的に見られているという感覚に近いかもしれません。
ⅲ. 性的弾圧(Sexual Coercion):仕事の結果を悪くするという恐怖や仕事に関する報奨を利用した性的要求のことを指します。つまり、「言うこと聞かなければ、昇進させない」というような性的な強制を指します。
この図では、一番多いのが、ジェンダーハラスメントと嫌な性的注目の両方を経験した方で、3割強います。
次が、ジェンダーハラスメントだけの被害の方で、3割弱。
嫌な性的注目だけの被害と三つ全て経験している方で3%前後です。
性的被害を二つも経験している方が多いのは許せません。
他にも、Berdahl & Moore (2006)は、特にマイノリティの女性(黒人女性)などはセクシャルハラスメントと民族的ハラスメントの両方を経験している方が多いと言う研究もあります。
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セクシャルハラスメント発生の原因
女性というだけで、職場でひどいセクハラ被害が横行しています。
では、なぜセクハラをするのでしょうか?
それを実験的に調べたのが、Maas et al. (2003)です。
彼らは、セクハラする側のアイデンティティが傷つけられるとセクハラをするという傾向を確かめました。
彼らは、コンピューターのチャットを使って男性と女性が話す場面を作ります。
その中で、画像を送り合います。
中には性的な画像も含まれています。
課題中は、画像を送り合って、後にどのような画像を送ったのかをテストすると言われています。
この時に、女性の方が点数が良いですよと言われる場合と何も言われない条件(アイデンティティを傷つける条件)と相手女性がフェミニストか普通の女性かの条件(Legitimacy threat条件)の2×2の4条件で調べています。
その結果が以下の図です。
この図のGender Identificationは、「自分は男性に生まれてよかった」とか「男性であることは自分のイメージにとって重要だ」というように性のアイデンティティを強く持っているかどうか(high / low)を表します。
Intention to Harassmentはチャット相手に性的画像をどれくらい送ろうと考えていたかを表します。
図より、相手が男性に女性の正当性を求めるフェミニストの場合、そうでない時と比べて、男性側が自分のアイデンティティを強く持っていると、男性はよりセクシャルハラスメントをする傾向があります。
この傾向は社会的な優勢思想がある方の場合でも見られます。
この図がそうですが、優勢思想(Social Dominance Orientation)が高いと相手がフェミニストの場合にセクハラを行う傾向があります。
このように、男性がフェミニストのような自分のアイデンティティや優勢思想を傷つけられる場合に、セクハラを行う確率が高まります。
自分の持つアイデンティティが傷つけられる時こそセクハラ発生の原因だと今のところ考えられます。
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②セクシャルハラスメントの仕事や心理面への影響
次に、セクハラの被害としてどのようなことがあるのかを見ていきます。
先ほどご紹介したSchneider et al. (1997)によると、セクハラは仕事や心理面に大きなマイナスの影響を与えると言います。
この図は、セクシャルハラスメントの頻度と仕事の成果や心理的影響を示しています。
この図での心理的影響(Psychological outcomes)は、心理的幸福度や満足度、精神疾患に罹っていないかです。
Job-related outcomesは、仕事の成績や態度などです。
左側のPrivate-sector sampleの欄のみ注目してください。
ここでは、上からハラスメントの頻度が低い順に並んでいます。
下にいくほどハラスメントを頻繁に受けていることを示しています。
セクハラの被害が全くない状態(Not harassed)は仕事でも心理面でもプラスの影響が見られます。
しかし、セクハラの被害がひどくなるにつれて、マイナスの値も大きくなり、仕事や心理面に悪影響が及ぶことがわかります。
さらに、セクハラまでいかなくても女性に対する失礼な行動の有無もセクハラ同様に仕事や心理面に影響を与えます(Lim & Cortina, 2005)。
それが以下の図です。
図9
上の図が、仕事の成果への影響で、下の図が心理学的影響を示しています。
Incivilityが女性への失礼な言動。
Gender Harassmentが性差に基づく差別的な言動
Sexualized Harassmentがいわゆるセクハラです。
Noneの何もされていない女性は仕事でも心理面でもプラスに働いています。
しかし、失礼な言動を受けるだけで仕事面でも心理面でもマイナスに近い影響を受けます。
そして、ジェンダーハラスメントやセクハラを受けるとマイナス度合いは強くなります。
このように、セクハラだけではなく、女性への失礼な言動自体が、女性の仕事のパフォーマンスを下げ、心理的健康を害するのです。
世の男性陣は常に気を使わないといけません。
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③セクシャルハラスメントにどのような対処法を行っているのか?
では、最後に、セクハラにあった人はどのような対処をしているのか?
何度も登場している、Schneider et al. (1997)の調査によると以下の図のようになります。
この図は、女性がセクハラを受けた時にどのような反応をとるのかを質問紙で調べた結果です。
この図のPrivate-sector sampleだけに注目します。
すると多いのが、
Stay from him:セクハラする人から逃げる。
Told myself it was important:セクハラされたことは重要ではないと自分に言い聞かせる。
Just put up with it:セクハラを我慢する。
この三つです。
いずれも重要なのが、セクハラ自体をとがめる行動はなかなかとれないことです。
先ほどの章でも確認したように、このような反応を多くの女性がとるというのは、やはり心理的にきついと思います。
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セクハラされたときの原因帰属について
心理学的に重要な点として、セクハラをされた時に自分事として捉えるのではなく、外的なものに原因を帰属しがちだということです。
Hershcovis & Barling (2010)は、質問紙調査で、セクハラを受けた女性の原因帰属の傾向を職場の言葉の暴力とを比較して調べました。
その結果が以下の図です。
この図は、セクハラ(Sexual harassment)と職場の言葉の暴力(Workplace aggression)との間の違いを示しています。
重要なのは、Internal attribution(内的帰属)とExternal attribution(外的帰属)です。
内的帰属とは、自分事として捉える考え方です。
外的帰属とは、相手が悪いというように相手事として捉える方法です。
すると、図より、
内的帰属では、セクハラ < 職場の言葉の暴力
外的帰属では、セクハラ > 職場の言葉の暴力
です。
つまり、セクハラは相手に原因を帰属します。
相手が悪いと思うのです。
それでも、先ほど確認したように、セクハラへの反応は自分が我慢したりする方法ばかりになります。
相手に非があるのは分かっていても、いざセクハラされるとどうしようもなく心理的に負担がかかる方法しかできないのです。
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④まとめ
以上より、セクシャルハラスメントの心理学的知見をご紹介しました。
まとめると以下のようになります。
- セクハラは女性の2/3が被害にあっている。
- 複数の種類のセクハラを受ける人が多い。
- セクハラをする側は、自分のアイデンティティが傷つけられるとセクハラする傾向がある。
- セクハラは、仕事のパフォーマンス低下につながる。
- セクハラは、心理的な幸福度や満足度など心理的健康を低下させる。
- セクハラされると、セクハラに対して抗議するのではなく、我慢したり泣き寝入りする方が多い。
- セクハラを受けた側は、ちゃんと相手が悪いという外的帰属を行う。
残念ながらセクハラを減らす方法についての研究はまだ少なく、正確な研究も少ないためご紹介できませんが、セクハラは、確実に女性の心理的な健康を害します。
仕事のパフォーマンスにも影響するため、男性や上司・管理職は自身の言動に配慮する必要があります。
本記事が少しでもセクシャルハラスメント防止に役立つと幸いです。
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参考文献
Berdahl & Moore (2006). Workplace Harassment: Double Jeopardy for Minority Women. Journal of Applied Psychology, 91(2), 426-436.
Hershcovis & Barling (2010). Comparing Victim Attributions and Outcomes for Workplace Aggression and Sexual Harassment. Journal of Applied Psychology, 95(5), 874-888.
Lim & Cortiba (2005). Interpersonal Mistreatment in the Workplace: The Interface and Impact of General Incivility and Sexual Harassment. Journal of Applied Psychology, 90(3), 483-496.
Maas et al. (2003). Sexual Harassment Under Social Identity Threat: The Computer Harassment Paradigm. Journal of Personality and Social Psychology, 85(5), 853-870.
Schneider et al. (1997). job-Related and Psychological Effects of Sexual Harassment in the Workplace: Empirical Evidence From Two Organizations. Journal of Applied Psychology, 82(3), 401-415.
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