「なんとなく体がだるい」「気分が憂鬱だ」
誰でもこのような気分の時はあります。
体の調子がなんとなく悪い。
そんな気持ち悪さが二週間以上続くと「うつ病」の診断が下ります。
うつ病患者は現在世界的に増え続けており、「こころの風邪」とも呼ばれているが、現状は風邪なんかよりもよっぽどしんどい病気です。
しかし、うつ病の重要な問題として、その人がうつ病だと客観的に判断できる診断基準がないことが挙げられます。
うつ病の診断は、医師が患者の話を聞いて、世界的な診断基準であるDSMというものに照らし合わせて行われます。
DSMの基準に達すれば「うつ病」と診断されるのですが、DSMには診断基準しか載っておらず、基本的には医師独自の判断によりうつ病かどうかの診断が決まります。
つまり、医師によってあるいは病院によって診断がまちまちなのです。
患者さんの中には、うつ病でありながらもうつ病の診断が下りずに、適切な治療も受けられず苦しんでおられる方もいらっしゃいます。
あるいは、他の精神疾患と誤診されて、うつ病治療とは異なった治療を受けて病気が長期化するケースもあります。
そのため、うつ病を客観的に診断できる指標というのは、うつ病研究で最も希求されているものだと言っても過言ではありません。
そんな中、うつ病の客観的指標の研究として、人工知能(AI)を活用したものがあります。
例えば、癌などの外科疾患の研究では大活躍中のAIですが、これを精神疾患の診断基準に応用したらどうなのでしょうか?
今回は、うつ病の客観的診断基準を探求した人工知能の研究をご紹介します。
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①SNSでの言葉のデータを活用した客観的診断基準の探索
最近では、多くの人が利用するSNSですが、そのSNSでつぶやいた言葉をうつ病の客観的診断基準の指標にできるのではないかと考えた研究者がいます。
それが、Eishstaedt et al. (2018)です。
彼らは、SNSの中でも利用人数の多いFacebookに目をつけました。
うつ病患者のFacebookの投稿を探り、うつ病になる前の投稿をデータとしてAIに学習させました。
その後、うつ病患者の投稿と健常者の投稿とを見比べさせてどれくらい正解するのかをテストし、人工知能がうつ病の客観的診断基準になりうるのかを試しました。
その結果が下の図です。
この図は、データの種類によって人工知能のテストのパフォーマンスがどれくらいよいのかを示しています。
注目すべきは、二段落目のFacebook languageの欄です。
この欄を見ますと、大体70%弱の正答率だということがわかります。
正直微妙な値ですが、論文によると70%というのは結構高い方らしいです。
Eishstaedt et al. (2018)はさらに、投稿の中でもどのような言葉が正答率の高さに寄与したのかを分析しています。
それが下図です。
この図は、うつ病患者の投稿を言葉で分類したものになります。
主にこの5種類がうつ病と判断する材料になります。
彼らの研究は、70%と微妙な値でしたが、うつ病が言葉で診断されることを考慮すれば、現状に則した研究だと言えます。
今後の研究しだいというところですね。
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②脳波データを活用したうつ病の客観的診断指標の探索
次は、脳波のデータを活用した研究です。
うつ病の研究で、脳波を使って客観的指標を探るものはたくさんありますが、どれも失敗しています。
そこで、人間が探せなかったパターンをAIで発見できるのではないかと期待を込めて行われた研究が、Mohammadi et al. (2015)です。
彼らは、患者に安静にしてもらい、目を開けているときと目を閉じているときの両方の条件でデータを取りました。
そして、アルファ波、ベータ波、シータ波、デルタ波を分類した後に、AIに脳波データを学習させました。
その後、うつ病患者と健常者のデータでテストして、どれくらいうつ病患者を正しく分類できるのかを調べました。
その結果が下図になります(結果の中でも最も正答率の良いモノです)。
この図のAcc.(%)の欄が、うつ病患者をうつ病患者だと正確に判定した正答率です。
大体60~80%くらいですね。
この結果も微妙ですが、試みとしては面白いものだと思います。
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最後に、同じ脳波を使用した研究で、AIでうつ病と躁うつ病の分類を試みた研究をご紹介します。
ちないみ、躁うつ病とは、うつ病の症状があると思えば、ハイになる躁病の症状もあるという病気です。
どちらも似ていますが、治療が異なりますので、両者を客観的に判断できれば、患者さんにとって救いとなります。
脳波を使って、いわゆるニューラルネットワークというAI技法を使ったのが、Erguzel et al. (2015)の研究です。
脳波データを学習させたAIに、うつ病と躁うつ病の患者さんを正しく分類できるかをテストしています。
その結果が下図です。
彼らが今回試みたのが、図の下の欄の手法(PSO)です。図によると、約90%(Overall accuracy)もの正答率を誇ります。
これはすごいですね。
様々な工夫をしているので、まだ鵜呑みに出来ないですが、うつ病と躁うつ病の客観的診断指標として光明となりそうです。
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③まとめ
以上より、うつ病の客観的診断指標を探る人工知能の研究をご紹介しました。
まとめますと、AIはうつ病の診断にはまだ70%ほどしか正解しないが、うつ病と躁うつ病の分類は比較的高精度でできるというところでしょう。
正答率等はまだまだ低く、これからの研究に期待というところですね。
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参考文献
Eichstaedt et al. (2018). Facebook language predicts depression in medical records. PNAS, 115(44), 11203-11208.
Erguzel et al. (2015). Artificial intelligence approach to classify unipolar and bipolar depressive disorders. Neural Comput & Applic.
Mohammadi et al. (2015). Data mining EEG signals in depression for their diagnostic value. BMC Medical Informatics and Decision Making, 108(15).
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