
・愛着障害と言われた。
・愛着障害のになぜなるの?脳のメカニズムを教えて!
最近、子どもだけではなく、大人に対しても「それは愛着障害ですね」と聞くことが増えました。
特に、子どもを預かる保育士さんや幼稚園教諭の方がよく言う印象があります。
親としても聞いたことがあるけれど、実はよく知らないという人は多いのではないでしょうか?
あるいは、愛着という言葉で何となくニュアンスを理解するくらいの人も多い気がします。
そんな方々のために、今回は愛着障害の基本についてです。
そもそも愛着障害とは何か?
愛着障害にはどんな要因や脳のメカニズムがあるのか?
心理学と脳科学の論文をもとに解説します。
本記事では以下のことが学べます。

2. 愛着障害になりやすい要因とは?
3. 愛着障害の脳のメカニズムとは?
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①愛着障害とは何か?精神医学的な特徴の確認
愛着障害の研究はかなり前からあります。
古くは1960年代からあり、精神医学的な診断基準でも様々な定義の変遷がありました。
しかし、最近の精神医学の診断では、愛着障害は二つに分かれています。
それが、人と接することを回避する「反応性アタッチメント障害/反応性愛着障害」と対人関係で距離感が近すぎてなれなれしくなる「脱抑制性対人交流障害」の二つです。
1) 反応性アタッチメント障害/反応性愛着障害とは?その特徴と症状の解説
反応性アタッチメント障害/反応性愛着障害の心理学的な中心的な特徴は、Zanah & Gleason(2015)によると、簡単に言えば以下のものがあります。
- 親などの特定のケアする人への集中した愛着を示す行動がない。
- イライラしたときに、快適になろう反応しない。
- 社会的・感情的なお互いの交流が少ない。
- 感情抑制ができない。
- ポジティブ感情が少ない。
- 説明のつかない恐怖やイライラ。
これらの特徴が幼少期からある場合に当てはまると論文では書かれています。
福田西病院の森則夫先生の資料から、精神医学の診断基準であるDSM-5の記述を引用すると
ポイント
A. 以下の両方によって明らかにされる、大人の養育者に対する抑制され情動的に引きこもった行動の一貫した様式:
(1) 苦痛なときでも、その子どもはめったにまたは最小限にしか安楽を求めない。
(2) 苦痛なときでも、その子どもはめったにまたは最小限にしか安楽に反応しない。
B. 以下のうち少なくとも2つによって特徴づけられる持続的な対人交流と情動の障害
(1) 他者に対する最小限の対人交流と情動の反応
(2) 制限された陽性の感情
(3) 大人の養育者との威嚇的でない交流の間でも、説明できない明らかないらだたしさ、悲しみ、または恐怖のエピソードがある。
C. その子どもは以下のうち少なくとも1つによって示される不十分な養育の極端な様式を経験している。
(1) 安楽、刺激、および愛情に対する基本的な情動欲求が養育する大人によって満たされることが持続的に欠落するという形の社会的ネグレクトまたは剥奪
(2) 安定したアタッチメント形成の機会を制限することになる、主たる養育者の頻回な変更(例:里親による養育の頻繁な交代)
(3) 選択的アタッチメントを形成する機会を極端に制限することになる、普通でない状況における養育(例:養育者に対して子どもの比率が高い施設)
D. 基準Cにあげた養育が基準Aにあげた行動障害の原因であるとみなされる(例:基準Aにあげた障害が基準Cにあげた適切な養育の欠落に続いて始まった)。
E. 自閉スペクトラム症の診断基準を満たさない。
F. その障害は5歳以前に明らかである。
G. その子どもは少なくとも9か月の発達年齢である。
つまり、上記の特徴が発達上幼少期からみられる人に対して、愛着障害と呼ぶのです。
大人でも、愛着障害と呼ばれる人は、大人の発達障害と同じで、幼少期に本当は愛着障害の診断基準を満たしていたけれど、見過ごされていた可能性が高い人です。
要は、苦痛への反応が薄く、イライラしやすく、対人関係では引っ込み事案なところがあるのが、この障害の症状と特徴になります。
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2) 脱抑制性対人交流障害とは?その特徴と症状の解説
脱抑制性対人交流障害の心理学的な中心的な特徴は、Zanah & Gleason(2015)によると、簡単に言えば以下のものがあります。
- 慣れていない大人に対する不適切な接触(子どもの場合、知らない大人に過度に親密な交流を求めるように、適切な社会的・物理的境界線がない)
- 知らない人への不安がない。
- 知らない人にのめり込む。
これらの特徴が幼少期からある場合に当てはまると論文では書かれています。
福田西病院の森則夫先生の資料から、精神医学の診断基準であるDSM-5の記述を引用すると
ポイント
A. 以下のうち少なくとも2つによって示される、見慣れない大人に積極的に近づき交流する子どもの行動様式:
(1) 見慣れない大人に近づき交流することへのためらいの減少または欠如
(2) 過度に馴れ馴れしい言語的または身体的行動(文化的に認められた、年齢相応の社会的規範を逸脱している)
(3) たとえ不慣れな状況であっても、遠くに離れて行った後に大人の養育者を振り返って確認することの減少または欠如
(4) 最小限に、または何のためらいもなく、見慣れない大人に進んでついて行こうとする。
B. 基準Aにあげた行動は注意欠如・多動症で認められるような衝動性に限定されず、社会的な脱抑制行動を含む。
C. その子どもは以下の少なくとも1つによって示される不十分な養育の極端な様式を経験している。…省略。Reactive Attachment Disorderと同じ内容
D. 基準Cにあげた養育が基準Aにあげた行動障害の原因であるとみなされる(例:基準Aにあげた障害が基準Cにあげた病理の原因となる養育に続いて始まった)。
E. その子どもは少なくとも9か月の発達年齢である。
該当すれば特定せよ持続性:その障害は12か月以上存在している。
現在の重症度を特定せよ
脱抑制型対人交流障害は、子どもがすべての症状を呈しており、それぞれの症状が比較的高い水準で現れているときには重度と特定される。
要は、過度になれなれしいタイプです。
発達幼少期の愛着形成が上手くいかないからか、大人との過度な接触を試みるのが、この障害の症状と特徴になります。
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②愛着障害になる心理学的な要因とは?
愛着障害になる心理学的な要因は、多くありますが、代表的なのが以下の要因です。
1) 子どもをケアする環境要因
主になりやすい要因としては、「(親や大人に)虐待された」経験や「施設育ち」などがあります。
他には、虐待の一つとして、ネグレクトを受けた子どもは愛着障害になりやすくなります。
2) 子ども側のなりやすい要因
血のつながった親や施設のケア職員との不安定な愛着形成があります。
あるいは、社会的に隔絶された状態や持続的に社会的な交流ができないことも要因として当てはまります。
これら二つの状態を発達幼少期に経験しているかは、愛着障害のチェック項目になるでしょう。
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③愛着障害の脳のメカニズム
では、愛着障害はなぜなるのか?
まだ完全には解明されていませんが、脳内メカニズムとしてあげられているのが、「セロトニントランスポーターの種類」と「オキシトシンの不足」です。
前者のセロトニントランスポーターは、種類によっては不安障害とかに関わります。
特に、セロトニントランスポーターのs/s型は愛着障害になりやすいとZanah & Gleason(2015)は論文で書いています。
s/s型の人は、テレビとかでも紹介されているように不安に陥りやすいとも言われています。
後者のオキシトシンは、社会的なつながりに関係しており、他人を信用することなどに関わっています。
また、育児にも関係しており、赤ちゃんへの授乳や子育て行動も関係します。
他方、Snowdon-Farrellら(2025)の最新の研究では、脳内ホルモンのオキシトシンが愛着形成に大きく関わっていることを、たくさんの研究論文を分析しなおすメタ分析という手法を使って示しました。
メタ分析の解説は以下の記事に詳しくあります↓
特に、オキシトシンと愛着の不安定型(不安型)と負の相関関係にあり、愛着が不安定な子ほどオキシトシンが低い傾向があります。
一方、オキシトシンと愛着の安定型と正の相関関係にあり、愛着が安定している子ほどオキシトシンが高い傾向があります。
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④まとめ
以上より、愛着障害とは何か?その精神医学的な特徴と症状、心理学的な要因、そして、脳内メカニズムについて見てきました。
まとめると以下のようになります。
- 愛着障害は、現在の医学の診断基準ではあまり呼ばず、人と接することを回避する「反応性アタッチメント障害/反応性愛着障害」と対人関係で距離感が近すぎてなれなれしくなる「脱抑制性対人交流障害」の二つに分けれらている。
- 愛着障害になりやすい環境要因としては、「(親や大人に)虐待された」経験や「施設育ち」があり、特に虐待の中でネグレクトは大きいです。
- 愛着障害になりやすい心理学的な要因としては、血のつながった親や施設のケア職員との不安定な愛着形成、持続的に社会的に隔離された状態が挙げられます。
- 愛着障害の脳のメカニズムは、セロトニントランスポーターとオキシトシンがあり、特にオキシトシンの低下は愛着障害と関係性が強いと思われます。
「愛着障害ですね」と軽々しく言う背景はわかりませんが、実はものすごく深刻なものなのです。
私も勉強不足で、HSPのように巷の医師が勝手に提唱した何かだと思っていましたが、ちゃんと精神医学的な診断基準もある障害です。
しっかり理解してから「愛着障害」の言葉を使わないと、相手を傷つけることになります。
この記事が、愛着障害を知るきっかけになれば幸いです。
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参考文献
Snowdon-Farrellら(2025). How does neurochemistry affect attachment styles in humans? The role of oxytocin and the endogenous opioid system in sociotropy and autonomy - A systematic review. Neuroscience and Biobehavioral Review, 169, 105994.
Zanah & Gleason(2015).Annual research review: Attachment disorders in early childhood--clinical presentation, causes, correlates, and treatment. Journal of Child Psychology and Psychiatry, 56(3), 207-22.
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